第650話 カースと受付嬢のロマンス

クタナツの城壁外、南の田園地帯に佇む農具小屋。


「本当だろうな? あいつを殺せるいい方法があるってのはよぉ?」

「金だけ払ってトンズラなんて許さねぇぞ?」

「俺らクタナツのホープを舐めんなよ?」


「ふっ、疑うなら後払いでもいいぞ? こちらとしてはお前達の死体からでも金は回収できるんだからな。」


「っく、いいぜ……いくらだ?」


「金貨で十五枚。後払いなら金貨で二十枚だ。どっちでも好きにするといい。」


「おい、どうする?」

「くそ、高ぇな……」

「後払いにしようぜ。あいつからまた金をぶん取ってよ、それで払っちまおうぜ」


「それだ! いい考えだぜ」

「噂によると、あいつたんまり持ってやがるらしいからな」

「決まりだな。じゃあダンナ? その方法ってのを聞こうか」


「簡単だ。この毒を使う。王族すら殺した猛毒だ。魔力を失ったガキ一人には過分だがな。」


「それをどうやって仕込むってんだ?」

「厄介な狼が付いてやがんだよ」

「俺らがやったって証拠も残さねぇようにしねーとな」


「心配するな。お膳立てもしてやる。それも料金の内だ。よく聞いておけよ。」


身綺麗なのにどことなく血の匂いが漂う男は若い冒険者達に策を伝えている。


「なるほど、そりゃいいや!」

「証拠も残らねーな!」

「やってやるぜ! 金も女もいただきだな!」


「では、これに署名をしてもらおうか。くれぐれも料金を踏み倒すことのないようにな。」









もうすぐ週末。明日の朝はアレクが領都からやって来る。一ヶ月ぶりだ。

そんなケルニャの日。


私はいつものように朝から道場に行き稽古に励んでいた。心眼だって少しは上達している今日この頃だ。


夕方までしっかり汗をかいた。明日はアレクに会える。一ヶ月ぶりだもんな。楽しみで仕方ない。そんな道場からの帰り道。


「おや、カースさん。お帰りですか?」


「ああこんにちは。そうですよ。ご自宅ってこっち方面だったんですか?」


ギルドの受付さんだ。ギルドあるあるに準拠するかのように美人さんだ。名前は知らない。


「いえ、あっちの方に用がありまして……その、恥を忍んで申しますと……助けてもらえないですか?」


「内容によりますよ。僕の手に負えることなら。」


「実はですね……アッカーマンさんに関係することなんですが、あの先生が保証人をされてる借金がありまして……正確には借金と言うより依頼の罰金なんですが……」


「はあ、それがどうしました?」


「まずはあの先生に相談だけでもしておこうと思いまして……確かにアッカーマンさんに払っていただく必要はあるんですが……無理でしょ! 何て言ったらいいんですか! 助けてください! せめて同席してください! 私、あの道場が怖いんです!」


アッカーマン先生は道理の分からない人じゃないのに。無尽流が怖いのかな? 同席か、面倒だな……まあ受付さんにはそれなりに世話になってるからいいか。

じゃあコーちゃん、先に帰って私が遅くなるかもって伝えてくれる?「ピュイピュイ」

伝わるかは分からないけど、まあ何とかなるだろう。


「いいですよ。同席するだけですよ。」


「ありがとうございます! 本当に助かります!」





話はスムーズに終わった。先生としては「あいつはそんな不義理な奴ではない」って気持ちはあったようだが、事実は事実。素直に金貨六枚と銀貨三枚を支払っていた。案ずるより産むが易しだよな。


受付さんはその金を持ってギルドに帰るそうなので、途中まで一緒に歩くことになった。


「助がりましたぁカースさぁん! もういづ斬られるか気が気じゃなかったんでずぅ!」


受付さんは道場を出て少し歩いたらその場にへたり込んでしまった。するとそこに……


「テメー! クラーサさんに何やってんだ!」

「こんな人気のねーとこでよぉ!」

「ちょっと調子に乗りすぎじゃねーか!? おぉ?」


こいつらか……誤解も甚だしいが、もう剣を抜いてやがる……

カムイ、二人ほど頼むよ。殺さないでね。私が左の奴をやるから。「ガウガウ」


「ち、違うんです! 私が……」


カムイが奴らに襲いかかった瞬間、私の首筋に鋭い痛みが走った……


「なっ!?」


「私がお前を殺すんだよぉ?」


まさか……受付さんが……

私は死ぬのか……


「グォォーン! グオォォォオオオーーン!!」


カムイの遠吠えが微かに聞こえる……だんだん遠く……







一方、現場からいち早く逃げ出した冒険者達。


「へへっ、やったぜ!」

「大したことなかったな!」

「次はあの貴族女だな!」


「さあ、金をもらおうか。」


「お、おおアンタか……」

「あの女は本物のクラーサさんなのか?」

「払うからよ、金を拾いに行かねーか? もう死んでる頃じゃねーか?」


「お前達は運がいい。魔蠍の鋏、クタナツ支部の開設を記念して無料サービス期間中だ。」


「魔蠍の鋏?」

「いつだったか領都で潰れた闇ギルド関連か?」

「それより無料って……」


「ではさらばだ。」


男が軽く腕を振るうと、三人はその場に眠るように倒れこんだ。もう目覚めることはないだろう。ただより高いものはない。

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