第653話 名探偵組合長ドノバン
カースの治療がひと段落した頃、治療院に数名の騎士がやって来た。
「御免。ここにカース・ド・マーティンは来ているか?」
「いますよ。魔女様もね」
「せ、聖女様!? カ、カース、
「お務めご苦労様です。見ての通りカースは毒を盛られて倒れております。状況から判断すると犯人はあの受付かと。捜査はどうなっておりますか?」
「ど、毒ですか? いや、現場にそのような痕跡があったとは聞いておりません。本人から話を聞くのは……無理ですね。では受付嬢を噛み殺したのはこちらの狼で間違いないでしょうか?」
「ガウガウ」
「そうらしいですわ。カースの仇を討ったのね?」
「ガウガウ」
「カースが目覚めましたら出頭させます。それでいいですか? くれぐれもお気をつけて捜査されてください。恐ろしい猛毒が使われております。次にその毒の被害者が出ても助けられませんので。」
「はっ! ご協力感謝いたします!」
騎士達は安心したかのように帰っていった。彼らとしてはもしもカースが犯人だとしたら、イザベルを敵に回しても調べるしかないのだから。
さて、先ほどギルドとは別方向へ向かった組合長。意外なのか当然なのか、無尽流道場へ来ていた。いや、正確にはアッカーマン夫妻が住む母屋に来ていた。
「……と、言うわけだ。アンタにゃあ関係ないかも知れんがよぉ、何か分かったら教えてくれや……」
「ふむ。カースが疑われておるのか。先ほど受付のおなごに金を払ったのはエマーソンの滞納が確定したからじゃ。カースの罪が確定するまでワシは全力であ奴を守るぞえ?」
「ああ、それは構わん。確かに疑ってはいるが確定したわけじゃないからよぉ。邪魔したなぁ。」
組合長ドノバンは訝っていた。カースのことはそれなりに知っている。ペットの制御もできないような甘い飼い主ではないことも。また、あの白い狼があのような無法なことをするはずがないとも思っていた。しかし殺されたのは自分の部下、ギルドを共に支える仲間。秋には結婚するとも聞いていた。それがなぜ……
「あぁ組合長。ここにいたか。」
「おめぇか。どうした? 何か分かったのか?」
「いや、若手冒険者が三人死んでいた。死因は毒。名前はレイツ、バウス、ラーマン。」
「あいつらか……毒だと?」
「あぁ。そしてカースだが、そいつらとは違う毒を盛られたらしい。首筋に一撃だそうだ。治療院で意識不明だった。」
「何ぃ? 誰にだぁ?」
「聖女様の話によると、受付嬢の仕業らしい。まあカースの意識が戻ってからだな。」
「信じられん……クラーサがそんなことをするとは……」
「とにかく奴の意識が戻れば話も聞けるだろう。場合によっては聖女様だって協力してくれる。全く……どうなってんだか。」
「治療院、行ってみるかぁ。」
「邪魔するぜぇ。」
「はいはい。あら、組合長まで。カースさんなら寝てますよ」
「あぁ聞いた。魔女はいるか?」
「はいはい。いらっしゃいますよ」
「あら組合長。カースにご用ならまたにしてくださいな。」
「違う。この狼に用だ。」
「ガウガウ」
「お前ほどの魔物が付いていて阻止できなかったのか?」
「ガウー」
少ししょんぼりしているようだ。しかし次の瞬間、カムイはドノバンの目の前に移動して牙を剥いていた。
「ガヴゥゥー」
「ほぉ、殺気には敏感に反応するじゃねぇか。てことは何か? クラーサは殺気も無しにカースを刺したってわけか?」
「ガウガウ」
「なるほどな……邪魔したな。」
「組合長? 自分だけ納得して帰るとはつれませんわ。説明ぐらいしてくださいな。もっとも今ので……」
「そういうこっちゃのぉ。誰かがクラーサに変装したか、操ったかじゃあ。アッカーマンのジジイに面会して違和感を抱かせなかったんだから変装の線は薄い。クラーサはカースとも顔なじみだしのぉ。そうなると……」
「禁術・
「目の前にいとも容易く禁術を使えそうな女がいるんだがのぉ? 何か知らねーのかぁ?」
「あんなの宮廷魔導士なら誰でも使えますわ。私だって三秒ぐらいならどうにか使えるぐらいですわ。」
「三秒あれば人を後ろから刺すなんて簡単じゃのぉ。無防備な背中、首筋をのぉ。」
「だから少ししか刺せなかったんでしょう。無防備な背中を向けているんだから毒なんて回りくどいことしなくても首を飛ばせば終わりでしたのにね。もっとも、それができないから毒を使ったのでしょうね……」
「なるほど、ただその魔法を使えるだけ、制御の甘い三下ってとこか。カースは幸運のようじゃのぉ。」
早くも犯人を絞り込んでしまったドノバン。冒険者達に向かって「お前達みたいな空頭が余計なことを考えてんじゃねぇ!」と言い放つだけあるようだ。
強くなければ生きられない。
強いだけでは生き残れない。
ここはクタナツなのだから。
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