第三章

第647話 カース十四歳

王国一武闘会が開催された年の冬から。

ウリエン兄上がハーレムを作った冬から。



私が魔力を失ってから、一年と半年が経った。



現在の私はクタナツの実家で道場通いと冒険者稼業に精を出している。私が魔力を失ったことは既に知られており、魔王などと呼ばれることもほぼなくなった。


その代わり、剣の腕や解体技術は上達した。まあ、せいぜいクタナツの七等星に一対一で勝てる程度だが。

体も少し大きくなっただろうか。後三ヶ月もすれば十五歳になることだし。




あの冬、アレクと王都から領都へ旅をしたのだが、それなりに波瀾万丈だった。


まずは王都を出てから一時間もしないうちに襲われたことだ。相手はドナハマナ伯爵家のあのおばさんだった。先回りをしたのか偶然行き先にいたのかは知らない。あれこれ聞く前にアレクとカムイがあらかた殺したからだ。私が仕留めたのはたった二人。

三十人ぐらいの集団だったが、そのうち戦ったのは二十五人程度。アレクが五人殺してカムイが残りを殺した。残ったのはメイドと男の子。男の子は改めてアレクが殺した。命乞いをするでもなく「僕のパパは〜」「お前ら絶対殺す〜」なんて言うから仕方ない。謝って命乞いすれば助かっただろうに。

強そうなメイドもいたが、男の子を守る気も抵抗する気もなかったようなので見逃した。戦利品は金貨が百枚程度。魔力庫が消滅する設定にしている奴がほとんどだったのだ。


あのおばさんの死体のみアレクが収納して王都の北に位置する街、アベカシス公爵領はトルネリアにて騎士団に引き渡した。


そこでの事件と言えば、昔アレクに決闘を買われてコテンパンに負けて白金貨二枚払わされた貴族、マニュエル・ド・アベカシスと出会ったことである。その場では私達に嫌味を言う程度で終わったのだが、翌日街を出ようとする時に城門で騎士達が難癖を付けてきた。

私達に盗賊容疑がかかっているとか何とか。

まずは穏便に話をしようと私は国王直属の身分証明書を見せた。アレクも名乗りをあげた。顔色を変える騎士達。その時はまだ、魔王の名も効果があったため事なきを得た。


しかし街を出てから三十分もしないうちに新たな騎士達に道を塞がれた。そしていきなり襲いかかってきたのでアレクは奮闘、カムイは大活躍。私は自分の身を守るので精一杯だった。やはり現役の騎士は強くカムイがいなければ私達は死んでいただろう。十名程度の騎士がカムイに首を掻っ切られて死んだ。アレクは死体や戦利品を収納できるだけ収納し、さらに北へと急いだ。


そんな時に限って盗賊なんかも出てくるし、魔物だって邪魔をする。結局領都まで四日もかかってしまった。そこまで来ればもう安心。領都の騎士団に死体を渡し、事情を話す。後は丸投げだ。フランティアの民を無法に襲ったのだ。辺境伯の報復は苛烈だったそうな。




そして現在、アレクは魔法学校五年生になり、ますます綺麗になった。もう半年もすれば卒業だ。私はどうするべきか、まだ結論が出せないでいる……


両親は春頃にクタナツへ帰ってきた。およそ一年ががりでソルサリエの植物を根絶させた。それどころかソルサリエ周辺の土地は開拓され、それなりに広い農地と化しているそうだ。


キアラは四年生になった。私には分からないが当時の私を超える魔力を持っているらしい。そしていつの間にやら天空の精霊にも会ったそうで祝福をもらったとか。どんな祝福かは内緒だそうだが、ボードもなしに縦横無尽に空を飛んでいる。


オディ兄夫妻は相変わらず仲睦まじく暮らしている。お金がある程度貯まったらしく、少し大きい家に引っ越した。


ベレンガリアさんは変化なし。綺麗になったと言えなくもないが、毎日見てると分からない。


私はと言うと……


少し嫌な状況になっていた。

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