第648話 カースの日常

「おい無能がいるぜ」

「無能のくせにいい服着やがってよお」

「ちょっと上の人らに可愛がられてるからって調子に乗りやがって」


この調子だ。

陰口がかなり鬱陶しい。

文句があるなら相手になるぞ? と言えば「オメーのことじゃねーよ」「俺らの話に口を出すんじゃねーよ」などと言って逃げられる。ヘタレどもが。口先だけとはクタナツ者の風上にも置けない奴らだ。


正直かなりのストレスだったりする。十五歳〜二十歳ぐらいの若手冒険者はなぜか私のことが嫌いなようだ。

逆に三十歳以上、六等星や五等星の人達には以前のように可愛がってもらっている。そこが余計に嫌われるポイントなのだろうが、知ったことではない。


そして今日も。


「おーおーチャラチャラしやがってよぉ」

「お貴族様はいいねぇ!」

「ホントホント。いい服着て優雅に狩りってか」

「いつも一人で寂しいねぇ〜」


やれやれだぜ。


「お前らさー。口だけで恥ずかしくないの? 俺に文句があるなら掛かってこいよな。それでもクタナツ者か?」


一応言い返しはするのだが……


「誰だオメー?」

「俺らの話に入ってくるんじゃねぇよ」

「仲間に入りたいってか?」

「ざんねーん。定員オーバーだわ」


こんな調子だ。


いくらムカついても私から殴りかかる気はない。ストレスばかりが溜まっていくってわけだ。


そして奴らが私を嫌う原因はまだある。

とある週末、クタナツギルドにて。


「どれにしようか?」

「カースが決めてよ。」


「じゃああれにしようか?」

「いいわよ。楽しみね。」


私はアレクと依頼を受けている。アレクは月に一度だけクタナツまで私に会いに来てくれるのだ。そしてこうやって二人で依頼を受けては魔物を狩ったりしている。奴らはそれが妬ましくて仕方ないらしい。アレクはますます綺麗になったし、上の人達にも可愛がられてるしね。


ちなみにもうすぐ夏休み。そうなると今度は私が領都まで行って、一ヶ月間一緒に過ごす予定だ。


さて、本日受けた依頼は……

グリードグラス草原で薬草採取だ。


当然ながらポーションの原料は薬草だ。それに錬金術師が魔力を込めながらポーションを作るわけなのだが。


フランティアには、あちこちに薬草の採取ポイントがある。グリードグラス草原の東部にも何ヶ所かある。今回行くのはその一つだ。アレクが浮身を使い、カムイが引っ張るいつものスタイルでゴーゴー。


魔力を失ってからの私は地道にコツコツと依頼をこなしてきている。かつてアレクもやったネズミ捕りや虫退治。公衆トイレの汲み取りもだ。この薬草採取も低級冒険者の定番である。だが低級向けの割には報酬がいい。

理由としては取れば取っただけ歩合で貰えることと、クタナツ者はこんな地味な依頼はあまり受けないことがある。


私が採取をしてアレクが周囲の警戒と近寄る魔物退治。コーちゃんとカムイはそこら辺で遊んでいる。以前とは逆、絶妙な役割分担である。


そして日が沈む前にはクタナツへ帰る。カムイとアレクのおかげでグリードグラス草原ですら日帰りができる。これも奴らが私を嫌う理由だったりする。寄生しやがって……と言いたいらしい。

何度もアレクに言い寄ってはこっ酷くあしらわれたのも一因だろう。知るかよってんだ。


そしてついに事件が起こった。

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