第646話 さらば王都、愛しき日々よ
王都を出発する日。
ゼマティス家での朝食を終えて出発の準備を整える。今回も北の城門まで馬車で送ってもらうことになっている。
「じゃあ、おじいちゃん、おばあちゃん。伯母様にお姉ちゃん。色々とお世話になりました。王太子殿下には貸し一だとお伝えください。」
姉上が優勝したんだから賭けは私の勝ちだもんな。
「私までご厄介になりまして、ありがとうございました。」
「おお。二人とも元気での。ワシも引退したことじゃしフランティアに遊びに行くかも知れぬ。カース、アレックス、強く生きよ。」
「その時は私も行くわね。フランティアなんて行ったことがないから楽しみだわ。また会いましょうね。」
「じゃあカース君、これはいつもの手紙ね。イザベルさんに渡してね。」
「また来なさいよ!」
やはりギュスターヴ君はいない。
「また会いましょう!」
「また来ます。色々とありがとうございました。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
カムイの首輪にオリハルコンのバッヂがキラリと光る。それを見たお姉ちゃんは、ペットにオリハルコンって何考えてるのよ! と言いたそうな顔をしていた。
「カースや、これを持っておけ。ゼマティス家秘蔵のポーションじゃ。魔力庫に入れなくても劣化しないタイプでな、今のお前にピッタリじゃろう。」
「おじいちゃん、ありがとうございます! 大事に使いますね。」
「アレックスにはこれじゃ。同じく秘蔵の魔力ポーションじゃ。カースを頼んだぞ。」
「ありがとうございます! 任せてください!」
そしてゼマティス家の門前にて、みんなに見送られ私達は出発した。
はたして私が再び王都に舞い戻ることはあるのだろうか。それどころかアレクとの二週間に一度の逢瀬も今後は難しい。
アレクはそんな私の心境を察したのだろうか。
「大丈夫よ。私たちずっと一緒よ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
おかしいな……
私はそんなに悲しそうな顔をしていたのだろうか……
コーちゃんやカムイまでもが慰めてくれる。
そして馬車は第三、第二と城門をくぐり、最後の第一城門をくぐった。ここまでだ。
私達は御者さんにお礼を言い北に向かって旅立った。アレクの魔法、浮身で木の板を浮かべ、カムイがロープで引っ張るスタイルだ。
板の上に二人も乗っているため、バランスを取るのが難しいようであまりスピードは出せない。私は座っているだけで、苦戦するアレクを心の中で応援するのみだ。
それでも馬車や私が走るより格段に速い。これなら一週間とかからずに領都に帰り着くことができるのではないか。
私とアレクの将来設計はズタズタになってしまったけれど、それでも二人ならば、コーちゃんとカムイを合わせて四人ならば、きっと大丈夫だ。
新しい日々の始まり。初春の風を感じながら私達は領都へ向かい旅立った。懐かしきフランティア領都へ。
私達を待つのはどんな日々だろうか。
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