第645話 エロイーズとゴモリエール

私とアレクは徒歩でゴモリエールさんの宿を目指している。カムイとコーちゃんは留守番、先日の件があったので外出を控えているのだ。


「ところでアレク。姉上に男の価値は女の数って言ったじゃない? 僕にもたくさん女の人を囲って欲しいの?」


「そんなわけないじゃない。お兄さんが大変そうだと思って助け馬車を出したのよ。」


「さすがアレクだね! 僕はアレク以外いらないから心配しないでね。ソルダーヌちゃんのことは当分放置で。」


渡りに船って言葉はあるのに助け船って言葉はない。乗りかかった船もなく、代わりに乗りかかった馬車って言うんだよな。貴族の馬車は基本的に目的地まで止まらないもんな。


さて、ゴモリエールさんの宿は第二城壁内の北西エリア、つまり二区にある『円の山友亭』だと聞いた。

結構高い宿らしい。


「いらっしゃーい」


気安いな。高い宿じゃないのか?


「こんにちは。僕はクタナツの冒険者カースと言います。ゴモリエールさんかエロイーズさんは今お部屋におられますか?」


「いやー、二人とも昼前に出かけたかな」


「ではカースとアレクサンドリーネが挨拶に来たとだけお伝えください。僕たちは明日王都を発つもので。」


「分かったよー。伝えておくね」


残念。特にエロイーズさんに一目会いたかったな。いや、浮気じゃないぞ、ただの純粋な憧れみたいなものだ。だって美人で妖艶なんだもの。




「待てよガキぃー、オメーあの二人に何の用よ?」


これは予想外。まさかこんな宿で絡まれるとは。


「聞いてなかったのか? 挨拶に来ただけ。明日には王都からいなくなるからな。」


「そんないい女連れておいてエロイーズさんに挨拶だぁ? ふざけんなよ?」


意味が分からないがアレクは間違いなくいい女だ。


「いいだろ? 最高だろ? 将来はエロイーズさんを超える美女になるぜ?」


「ちょっとカース……将来は、なの?」


しまった! つい本音が!


「いやいや、だって今のアレクは美少女だもん。歳が違うから、ね? ね? そうやって拗ねるアレクもかわいいよ。」


「もう……カースのバカ!」


「テメっ、魔王かぁ! エロイーズさんを狙ってんのか! 許さねぇぞ! エロイーズさんは俺が守るからよぉ!」


カースって名前でピンと来たのかな? しかし話が通じない奴だな。挨拶だって言ってんのに。


「オメー、エロイーズさんより強ぇーのか? エロイーズさんは俺より強ぇーぞ? それなのに守る必要あんのか?」


「うるせぇ! エロイーズさんは俺が守るんだぁ! かかってこいや!」


どこまでバカなんだ? ここは宿だぞ? 騎士団に連行されてもしらんぞ?


『麻痺』


ナイスフォロー、アレクありがとう。

アレクの麻痺でも効いたってことは、やはり雑魚か。良くても八等星ぐらいかな。まあまあイケメン面してやがる、歳は二十代中盤ぐらいか。


「おねーさん、こいつ何? 客なの?」


「まあ客は客かな。宿泊じゃなくて食事だけのね。エロイーズさんに惚れ込んで毎日来るけど相手にされてないの。あの人って何人も男の子を連れ込むから、その度に絡んでるんだよね」


なるほど。それなりにモテてきたのに相手にされないものだからムキになってるな?

私だって相手にして欲しいんだぞ。帰ろ……


「行こうかアレク。さっきは助かったよ。ありがとね。」


「いいのよ。カースが暴れたらテーブルとか壊れるものね。」


今の私の武器は虎徹のみ。こんな所で振り回したら簡単にテーブルや椅子が壊れてしまうよな。さすがアレク。


「じゃあどこかでお茶でもしてから帰ろうか。じゃあおねーさん、エロイーズさんとゴモリエールさんによろしくお伝えください。」


「はいよー」




適当なカフェでコーヒーを飲む。相変わらず王都ではビネガー系が流行っている。しかし今日は無難に普通のコーヒーを頼んだ。ハチミツ入りで少し高かった。甘いコーヒーもいいものだ。


ついに明日は王都ともお別れか。領都まで何日かかるだろうか。アレクと陸路を二人旅、それはそれで楽しそうだ。

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