第566話 三回戦 第二試合

当然かも知れないが兄上は無事だった。通常は腹なんて刺されたら致命傷だよな? 腸とかが傷付いたらかなりヤバいはずだ。やはり魔法ってすごいんだな。

姉上とアンリエットお姉さんは両サイドから兄上に抱きついてオンオン泣いている。さすがの治癒魔法使いさんも兄上が目覚めてないものだから出て行けとは言いにくいらしい。いや、あの目の色は兄上を置いてお前ら全員出て行けって言いたそうだ。ここにもファンがいたのか。罪な兄上だ。

ちなみにコーちゃんは兄上の腹周りで何かをしている。祝福をあげてるのかな?

「ピュイピュイ」

どうやらそうらしい。コーちゃんありがとう!


私達は戻ろう。第二試合を見ないとな。


「ウリエンお兄さんは本当に凄かったね! あのレイモンド先生の防御を崩したんだよね! 進路に迷いが出てしまったよ!」

「どういうこと? スティード君が騎士学校を卒業してからの話だよね?」


「うん。今まではそのままクタナツか領都で騎士に任官したいと思ってたんだけど、お兄さんの戦いぶりを見たら近衛騎士を目指すのも悪くないかなって。幸い近衛学院へ進学するのに問題なくなったし。」

「いいと思うよ。スティード君ならきっとすごい近衛騎士になれるんじゃないかな。あ、座学と魔法を頑張ってね!」

「私も中等学校を卒業してもまだまだ王都にいるからちょうどいいわね。セルジュだって貴族学院に進学することだし。」


それならサンドラちゃん達三人組には最適だな。「ピュイピュイ」

コーちゃんもそう思う? まったく多方面に聡い精霊ちゃんだよな。


観覧室に戻ったらちょうど始まる頃だった。姉上とアンリエットお姉さんがいないから少し広くなった。それでもアレクは私の膝の上に横向きに座っている。かわいいやつめ。


『決勝トーナメント三回戦、第二試合を始めます! 一人目はァー! オミット・ダーティーロード選手! 王都が誇る槍術道場の若き道場主! 決勝でレイモンド選手とは因縁の対決となるのでしょうかぁー!

二人目はァー! カルロ・ド・ベルジュラック選手! 近衛騎士団長ベルジュラック卿の二男! 自身も近衛騎士として任官してすでに五年! 陛下の信頼も厚い中堅近衛騎士です!』


『双方構え!』



『始め!』


『第一試合とは打って変わって静かな立ち上がりとなりました! 激しく打ち合ってくれないと盛り上がりませーん!』


『実力が拮抗していますね。無理もない。加えてオミット選手が現在手にしている鎌槍。あれもそれなりの業物のようですが、二回戦までの三又の槍が使えなくなったのは痛いでしょうね。』


見た目には全然傷んだようには見えなかったのに。使ってないということは、先生の言う通りなんだろう。あれだけ硬そうな盾を貫いただけでも凄いよな。


『と言うことは、カルロ選手が優勢でしょうか? しかしカルロ選手も二回戦では苦戦しておりましたし消耗もあるでしょう。難しいところですね。』


『その通りです。私が見る限り互角ですな。お互いに意地と背負うものがありますからね。負けられませんとも。』




結論から言うとオミット選手が勝った。かなり壮絶な試合でオミット選手は左腕を失った。それと引き換えにカルロ選手の胸元を、穂先を失った槍の柄で貫いたのだ。

二人とも治癒魔法使いさんがいなければ死んでいたことだろう。またオミット選手はいくらすでに腕が繋がったといっても決勝戦で戦うことはできるのだろうか?


『いやーフェルナンド様。かなり壮絶な接戦でしたね! 双方一歩も引かない意地と意地のぶつかり合いでした。』


『素晴らしい戦いでした。我が師アッカーマンならば、たかが試合で命を賭けるなど愚か者め! と言うところでしょうが。』


『それはそれは。それでは試合を振り返ってみていかがでしょうか? ぶっちゃけ速すぎてほとんどの方には見えてなかったのではないでしょうか?』


『ええ、瞬きも許されぬ高速戦でした。勝負を決めたのはオミット選手の覚悟です。カルロ選手に隙を作る、ただそれだけのために左腕を捨てたのです。もしそれでカルロ選手に隙ができなければ無駄に腕を捨てたことになります。しかしカルロ選手は僅かに油断してしまったのです。首を落としたわけでもないのに勝ったと思ってしまったのです。そこをオミット選手は最後の力を振り絞り、鎧ごとブチ抜いたという訳です。』


『やはりかなりの接戦だったのですね。今一度両者に盛大な拍手をお送りください!』


凄すぎる。十五歳以下の部とは覚悟が違う。やはり看板を背負うってのは大変だよな。それより確かにアッカーマン先生ならそう言いそうだ。食う寝る以外は全て遊びか……やっぱり深いな。

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