第567話 決勝戦

決勝戦の前には三位決定戦があるのだが、果たして二人とも参加できるのだろうか。十五歳以下の部でも三位決定戦は行えなかったもんな。


『ご観覧の皆さん! 残念なお知らせです。三位決定戦を行う予定でしたが、両者とも未だに目覚めておりませんので、対戦不可能と判断いたしました! よって予定を繰り上げ決勝戦を行います!』


やはりか……しかも兄上はまだ目覚めていないのか。いくら命に別状はないと言っても心配になってくるな。高級ポーションを置いてくるべきだったか。


『大変長らくお待たせいたしました! 王国一武闘会 一般の部、魔法なし部門の決勝戦を行います! まず一人目はレイモンド・リメジー選手! そして二人目はオミット・ダーティーロード選手! ついに実現してしまいました! 無尽流対破極流! それも道場主対決! 破極流としては達人アッカーマン様に散々やられた雪辱を晴らしたい! 無尽流としては無敗の看板を汚せない! 両雄並び立たず! 今! 頂点が決まるのです!』


『お互い殺す気ですね。そうでなければ負けてしまう。意外と勝負は一瞬かも知れません。』


『双方構え!』







『始め!』


武舞台中央でいきなりぶつかり合う二人。早くもオミット選手の真新しい一文字槍は折れ、レイモンド先生の剣も折れた。それでもお互い一歩も引かず短くなった得物でせめぎ合っている。新しい武器を抜く間すらないのだろう。


『いきなり激しい戦いだぁー! 何をやっているのか全く分かりませーん!』


『一瞬でウリエン選手の腹を刺してみせたレイモンド選手ですら折れた剣を使い続けるしかない。瞬きする隙も許されない戦いですな。』


それにしてもオミット選手もとんでもないな。ついさっき左腕を切断されたばかりとは思えない動きだ。いくら治ったとしたも完全にくっ付いているものなのか? 母上がオディ兄の腕を治した時はどうだったっけ?


オミット選手は穂先が折れた槍を棍棒のように巧みに使い、レイモンド先生は折れた剣をナイフのように小刻みに使っている。私にはそこまでしか分からない。


『うおおーっと! オミット選手の槍がさらに折れたぁー! もはや棒ですらなーい!』


『棍棒の泣き所である中心、手と手の間を攻撃されましたね。折れて短くなった剣であの槍、すでに棍棒ですが、あれをよく叩き折ったものです。見たところあれは上質なトレント材。レイモンド選手を褒めるべきでしょう。』


槍の柄がトレント材か。やはり道場主ともなると刃先だけでなく柄にも拘るんだな。しかしそれでもオミット選手は両手にそれぞれ折れた木材を持ってレイモンド先生の短剣に対抗している。


『じりじりと追い詰められるオミット選手! このまま押し切られてしまうのでしょうか!?』


『いや、オミット選手は全く諦めていないようです。何か狙っているようですが……』


『ですが?』


『その隙を与えないようにレイモンド選手は立ち回っています。つまりよほど意表をつく何かが必要になるわけです。』


私ならついつい木刀を投げてしまうところだが、いくら何でもそれはないだろう。あの二人はどちらも切り札を用意しているのだろうが、使えるのか……少しでも攻撃の手を緩めると即座に押し切られてしまいそうだもんな。


『ぬおぉー! いつの間にかレイモンド選手! 右手に持っていたはずの折れた剣を左手に持ち替えていたぁー! そして空いた右手でオミット選手の左側の棒を抑えたぁー!』


『勝負に出ましたね。レイモンド選手はオミット選手の左腕を狙いたいようですね。』


片方は膠着しているのにもう片方は激しく手が動いている。どうなってるんだ? おまけに足元も何か複雑なステップを踏んでいるかのように動いている。ダンスも上手そうだ。


不意にオミット選手が左手の棒を離した。


つまりレイモンド先生の右手には折れた棒、左手には刃先が二十センチもない剣が握られたことになる。


その一瞬、オミット選手は空いた左手を動かして何かを口に含んだように見えた。ポーションの類か!?


『おおお! オミット選手! 見違えるように動きが鋭くなってきましたぁー! 右手に残った棒も投げ捨てて徒手空拳でレイモンド選手に肉迫しているぅー!』


『どうやら薬のようですな。手負いのオミット選手が勝つには最善の方法かも知れません。』


薬……ドーピング的なやつかな? 最善の方法なのか……何でもアリだもんな。

オミット選手は両手両足を使い縦横無尽に攻め立てる。レイモンド先生は短剣と棒の二刀流で防戦一方だ。両者の距離が近すぎる。素手で殴るにしても近すぎる間合いだ。どうなっている!?


『どうなっているのでしょうかぁー! 全く分かりません! あぁ! 動きが止まりました!』


『見てきます!』


おお、フェルナンド先生が実況席から飛び降りた! 浮身すら使ってないのか!


フェルナンド先生が武舞台に降り立ち、両者を引き離す。すると、どちらもその場に倒れてしまった。

オミット選手の脇腹には短剣が突き立っているがレイモンド先生は一見無傷のようだ。


『このような場合は先に立った方の勝ちでしょう! 会場の皆さん! それぞれ声をかけてあげてくださーい!』


すると怒号のようにレイモンドコール、オミットコールが巻き起こった。私達はもちろんレイモンドコールだ。





先に立ち上がったのは……オミット選手!


『立ち上がりましたぁー! 優勝はオミッ』


青バラさんが言い終わる前にオミット選手は再び倒れてしまった。その直後、レイモンド先生は立ち上がり右手を高々と持ち上げた。


『先に立ち上がったのはオミット選手ですが! 勝利を宣言する前に倒れてしまいましたので! 今度こそ! 優勝はレイモンド・リメジー選手でーす!』


やった! さすがレイモンド先生!

あっ、フェルナンド先生はオミット選手を抱え上げて走り出した。危険な状態なのだろう。あれだけの深手をおして出場し、危険そうな薬まで使ったのだから。


『レイモンド選手の治療後、表彰式を行います! まだ帰らないでくださいね!』


最後がどうなったのか、さっぱり分からなかったな。レイモンド先生もあれから武舞台に倒れ込んでしまったことだし、まずは治療室に行ってみよう。入れるかどうかは分からないが、フェルナンド先生もいるだろうし。先生ならきっちり理解してそうだもんな。教えて先生。

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