第543話
アグニの日。
昼まではまだ時間があるが、王宮から迎えが来た。結局スティード君とサンドラちゃんも同行してくれるそうだ。図書室の許可を貰うのだからお礼申し上げるとか何とか言っていた。真面目だなぁ。ちなみに二人とも制服を着ている。スティード君は用意がいい。
アレクの制服は一着はボロボロ、もう一着は燃えてしまったのでドレスを着ている。私はいつもの服装で行くつもりだったが、おばあちゃんから礼服を着せられた。ガスパール兄さんのお古だそうだ。少し大きいけど、キツキツよりいい。
「たまにはカースのそんな姿も新鮮でいいわね。今度それでダンスしましょうよ。」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、こんな服だとロクに動けないよ。陛下に御目通りすることなんてもう無いだろうから、新しく作るのも面倒だしね。」
「そうかしら? カース君のことだから結構ありそうじゃない?」
「僕もそう思うよ。それにカース君も学校に行ってれば制服でよかったのにね。」
あ、制服ならある。学ランが。次からそれにしようかな。今日はもう礼服を着てしまったしな。
「どうかな。まあ今日を乗り切ってから考えるよ。あー緊張するよね。」
そんな話をしながら馬車に乗り込んだ私達。残念ながらコーちゃんはお留守番だ。お土産を楽しみに待っててね。「ピュイピュイ」
いつか見たあの王城へと行くのか。少し楽しみだな。それにしてもさすが王宮の馬車、窓がガラスで出来ているので外が見える。
馬車内には使者の人もいるので、あれこれ聞いてみる。
「陛下は普段何時ごろお目覚めになるんですか?」
「私のような立場では、それを伺い知ることはできません」
終わってしまった……
それを言われると最早何も聞けない……
みんなとお喋りもしにくくなり、沈黙のまま馬車は城門を通過した。
「こちらです」
使者さんに案内され、私達は城内を歩く。さすがにスケールが違う。壁や天井など、至る所に彫刻が施してあり絵画が飾られている。
いくつかの階段を登り、長い廊下を渡り、何人もの騎士や貴族、官僚とすれ違い到着した部屋はおそらく応接室。
「ここでお待ちください」
ここまで二十分は歩いた。気疲れするな。
室内にはメイドさんがおり、紅茶やお菓子が用意してあった。ファンタジーでも現代日本でも、こんな時は見られていると考えるのが常識だ。だからと言って変に気を使うこともない。普通に飲み食いするだけだ。
「甘くて美味しいクッキーだね。」
「そうね。バターにミルク、上質な素材に腕利きの料理人。やっぱり王宮は違うわね。」
そこまで分かるアレクがすごいよ。
ちなみにスティード君とサンドラちゃんは一口で食べるのをやめてしまった。もったいないことを。まあ残してもメイドさん達が食べるだろうから問題はないが。
私とアレクはお喋りしながら過ごしていたが、スティード君達はコチコチに固まったまま動かない。時折美味しかった菓子を勧めてはみたが、返事はするものの指を伸ばすことはなかった。
緊張が緊張を呼んでるパターンかな? 二人とも紅茶だけは飲んでいるようだが。逆にアレクは紅茶は飲んでない。紅茶なしでクッキーなんて拷問じゃないか? まあいいけど。
そうして三十分ぐらい経っただろうか。先ほどの使者さんが再びやって来た。少しお腹が熱いな。紅茶のせいかな?
「こちらを首に巻いてください」
何だろう? 魔封じの首輪かな? 腕輪より強力そうだ。着けろと言われたからには着けよう。国王に謁見する際の常識なのかな?
特注の首輪を外してこの首輪を着ける。
試しに錬魔循環をしてみたが何の影響もない。普通の魔封じの首輪のようだ。
「ではこちらへ」
再び長い廊下を歩き、いくつか階段を登った。荘厳かつ大きい扉の前を通り過ぎて、しばらく歩くと頑丈そうな扉の前に着いた。まるで金庫室のようだ。
「どうぞお入りください」
使者さんが扉を開け、私達を中へと誘う。広くもない、殺風景な部屋だな。何もないぞ。
すると入ってきた扉が閉められたかと思えば、天井が落ちてきた。ゲームにありがちなゆっくりではなく、自然落下のスピードだ。『金操』『徹甲魔弾』『水球』
金操で天井を止めて、入ってきたドアを徹甲魔弾でブチ破り水球でこじ開ける。
招待しておいて皆殺しか……
舐めた真似しやがって……
外では使者が信じられないものを見る目で呆然と私達を見る。あんな首輪が私に効くとでも思ったのか? 王族用の特注品でも効かないところは見せたのに。
「舐めた真似してくれたな? 国王は俺らを殺そうとしてんのか?」『水壁』
使者を水壁に閉じ込めた時、騎士達が次々と現れた。かなり大きい音を出したし、扉はブチ壊れてるんだから当然か。装備チェンジ。いつもの服装に着替えた。
「アレク、任せた。」
私はこいつを拷問するからな。
「ええ、任せて。」
顔ごと水壁に閉じ込めているわけだが、話を聞く前に両手足をブチ折っておこう。水圧を操作すれば容易いことだ。
よし、では話を聞こう。水壁一部解除。
「テメーの名前は?」
「くおっ私に! この私にこんなことをしてっ!」
「もうしばらく沈んどけ。」
いつも通り水温を上げて、頭まで水没させる。アレクの方はどうなってるかな?
「我が名はアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル! 陛下からお招きいただき罷り越した! それがこれは何か!この者により魔封じの首輪を着けさせられた挙句! この部屋に閉じ込められ命を狙われた! 申し開きがあるなら申してみよ!」
すごい……
弁解するのではなく弁解させる。これが主導権の握り方か。アレクに任せてよかった。
さて、私はこっちに集中しよう。
再び顔だけを外に出す。私は王宮にまで来て何をやってるんだ?
「話す気になったか?」
「うううるさい! 私をだれどっ」
喋らないなら仕方ない。いつも通り木刀で顔を殴る。水圧をかなり高くしてあるので水温が百度を超えても沸騰しない。かなり熱いだろうにまだまだ元気なようだ。
「このまま死ぬか?」
そこにアレクが。
「カース、どうも話がおかしくなってきたわよ。」
「どうしたの?」
「騎士達の話によると、あの男は陛下の
ならば独断でも国王の指示でもないってことか?
「おい、テメー。マジで側近なのか?」
「わわ私をだれっだごぉ」
いくら何でもしぶといな。側用人をするほどの貴族がこんなに根性あるものか?
「そこの騎士さん、こいつってそんなに根性あるタイプ?」
「いや……文官だから……根性とかは……」
だよな? そうなるとよくあるパターンは……
一、家族を人質に取られている。
二、私達への復讐とかに駆られてブチ切れている。
三、魔法か何かで操られている。
四、その他。
うーん、根性のない文官だからって普段は王族と接しているはずだ。それならば常に危険と隣り合わせのはずだ。不用意な言動で容易く首を切られることだってあるのだから。他にも刺客に毒殺、身の危険はいくらでもある。ならば己を律することにかけては私の想像を絶するはずだ。つまり四が怪しい。困った……分からない。
「テメーもそろそろ熱いだろ。冷やしてやるよ。」
このまま死なれたら困るからな。ゼロ度近くまで冷やしてやるよ。
「そこの騎士さん、そろそろ陛下のところまで案内してもらえますか? 呼ばれてるもので。」
「あっああ、こちらへ」
初めての王宮がこれかよ。何であんな危ない部屋があるんだよ。さすがに王城を丸ごと更地になんてしたくないものだが。
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