第542話
十月二十五日、目覚めてみれば昼前だった。
ヴァルの日だというのにだらしないことだ。
ゼマティス家では朝食はみんなで食べるが、昨日の今日なので、寝かせておいてくれたのだろう。ありがたい。アレクと同じベットに寝ているのに、何もしなかったぐらいなんだから。アレクが風呂で寝てしまったので、きれいに洗ってからベッドに寝かせたのだ。
昨日のアレクは本当に凄かった。飽くなき勝利への執念。わずかな可能性を見い出す読みの鋭さと、それに賭けることができる信念。そして何より勝つための事前準備。勝負とは対戦が決まった時から始まっているのだから。ますます惚れ直してしまった。アレクが目を覚ますまで隣でゴロゴロしていよう。
コーちゃんはとっくに起きていたので戯れようねー。「ピュイピュイ」
それから三十分ぐらいしてアレクは目を覚ました。
「……おはよう……朝?」
「おはよ。昼前だよ。お互いよく寝てたみたいだね。」
「ピュイピュイ」
「もしかして私……お風呂で寝てた?」
「そうそう。今度は僕が洗っておいたよ。」
ちなみにキューティクルがかなり傷んでいたので、高級ポーションをリンスとして使用してみた。その結果、輝く金髪は復活した。かなり短いので豪奢とは言いにくく、やはり快活と言うのが最適だろう。
「コートも新しく作ろうね! サウザンドミヅチの革がまだあるからさ。領都に戻ったら採寸しようね!」
「ありがとう……実は気にしてたの……せっかくカースから貰ったトビクラーのコートが燃え尽きてしまったから……」
「いいんだよ。僕が燃やしておいて言うのも変だけど、アレクを守ってくれたんだからさ。」
ちなみに領都のベイツメントにするか、クタナツのファトナトゥールで作るか、どっちがいいのだろうか。やはり仮縫いの都合を考えたらベイツメントかな?
さて、起きるとしよう。居間に降りてみるとおばあちゃんと伯母さんがいた。
「おはようございます。すっかり寝坊してしまいました。」
「おはようございます。大変失礼いたしました。」
「ピュイピュイ」
「おはよう。いいのよ。二人とも昨日は大変だったものね。アントニウスも起こさないように言ってたのよ?」
「おはよう。うちの子達にもいい刺激になったわ。ギュスタも喜んでいたし。ちなみにスティード君達は庭にいるわよ。」
まさか、スティード君は朝から稽古をしているのか?
「それより二人とも食欲はあるの? お昼はどうする?」
「僕は腹ペコです。お肉が食べたいです。」
「あの、私も……結構お腹が空いております……」
「ピュイピュイ」
恥ずかしそうに俯いて言うアレクは可愛い。コーちゃんもお肉が食べたいそうだ。
「じゃあお昼にしましょうか。カリン、スティード君達を呼んできなさい。」
「はい、大奥様」
上級貴族ならばどこでもそうとは思うが、この家も
「カース君、起きたんだね。体調は大丈夫そうだね。」
「アレックスちゃんも顔色が良くなってるわ。」
「おはよ。スティード君こそ、朝から稽古? 精が出るね。」
「おはよう。サンドラちゃんは学校ズル休み? たまにはいいわよね。」
「ピュイピュイ」
「さあさああなた達、お昼にしますよ。席にお着きなさい。」
それは昼ご飯と呼ぶにはあまりにも豪華だった。大きく、分厚く、重く。そして大量すぎた。それはまさに肉の塊だった。
「アントニウスが張り切って用意しておいたお肉よ。昨夜だけでは食べきれなかったの。たくさん食べなさい。」
これは凄い。昨夜のパーティーで出されたのは既に切ってあったが、元はこれだったのか。
「まさかワイバーンですか? こんなに大きいのは初めて見ました。」
さすがアレク、やはり詳しいな。
「そうなのよ。アントニウスったらカースが優勝するに違いないって八月ごろから注文したのよ?」
「ありがとうございます! そこまで信頼してもらえて嬉しいです!」
さすがに気が早すぎるようにも思うが、嬉しいからいいか。それに美味しいし。おじいちゃんありがとう。
「昨日はお喋りに夢中で気付かなかったけど、かなり美味しいわね。ワイバーンって初めて食べたわ。」
「僕もだよ。フェルナンド先生は子猫みたいなものだっておっしゃってたけど、どれだけ強いんだろうね。」
「おやスティード君、魔物に興味がある? そのうちノワールフォレストの森で武者修行でもするかい?」
今の私ならセルジュ君を含めた五人でも簡単に楽園に招待できる。春休みのバカンスにいいかも。
「それはいいね。いずれクタナツの騎士として任官することを考えたら魔境での経験はきっと大事だよね。」
「またカース君はぶっ飛んだことを言うんだから……」
スティード君は本当に真面目なんだよな。
「むしろムリーマ山脈でワイバーン狩りってのもアリだけど、それだと大勢で行きにくいよね。」
連れて行けるのはアレクとコーちゃんぐらいだよな。魔物の強さが予測できないもんな。
昼食が終わる頃、おばあちゃんが。
「そうそう、王宮から使者が来たわよ。明日のお昼に来るように言われたわ。陛下とお昼を食べながらじっくり説明せよ、だそうよ。」
「分かりました。それって僕一人ですか?」
「アレックスやみんなも一緒でいいそうよ。」
ちなみにおばあちゃんもアレクを孫扱いしている。密かに嬉しい。
「光栄です。ぜひ参りますわ。」
「僕は遠慮したいんだけど……」
「私も……」
だよな……国王とランチとか。私だって行きたくない。
味には期待できそうだが、緊張で喉を通らないかも知れない。でもまあアレクが一緒だし、どうにかなるだろう。頼りにしてるぜ!
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