第544話
騎士数名に囲まれた私達は国王のいるであろう部屋に案内されている。側用人は氷漬けにしてあるが、多分まだ生きている。百度を超えた熱湯に五分ぐらい入ってても生きてたんだ。氷漬けでも大丈夫だろう。
案内された場所は大きな円卓がある部屋だった。直径八メイルはある円卓に料理が敷き詰められており、食欲をそそる匂いを充満させている。国王はまだか。
「陛下はまだですかね?」
「あ、ああ、すまないが、待ってくれ……」
本来なら臣下である私達が、『まだか』なんて不敬もいいところなんだがな。ならば……
氷壁解除。代わりに拘束隷属の首輪をつけてやる。身動きはとれないだろうが、魔法をぶっ放すことぐらいできるからな。
待ってる間に拷問の続きでもしていよう。これだけのご馳走を目の前にして、なんでこんな下らないことをやってんだよ。
「陛下の御成りです」
騎士達やメイドなど、その部屋にいる者全てが膝をつく。私達四人は直立不動だ。騎士達は目で私達に訴えるが、知ったことではない。それどころではないからだ。
「待たせたな。よくぞ参った。状況は聞いた。無事で何よりだ。そしてすまなかった。こちらの不手際だ。」
「僕たちはもう少しで全員死ぬところだったんですが?」
周りの人間は絶句しているし、側近らしき奴は睨んでいる。国王が謝っていることもそうだが、それに対して文句を付ける私に。あの状況は普通なら原型を留めることなく死んでる。怒ってもいいだろ。
「まあ待て。弁解は後だ。今その証拠がこちらに向かっている。それまでゆるりと食べながら待とうではないか。」
「無理ですね。これを飲み食いしてみてください。」
応接室で出されたクッキーと紅茶だ。アレクが確保しておいてくれたのだが、毒入りだ。それも……
「むっ、この食器は。これを供されたと言うのか?」
「そうです。両方食べたのは僕だけですけどね。」
アレクに説明されて初めて知った。片方だけなら大した毒ではない。だが両方を同時に摂取すると体内で反応して即死するレベルの恐ろしい毒になるらしい。私以外三人とも分かってたんなら言って欲しかったよ。パクパク食べてしまったじゃないか……
「そうか、ならば一緒に食事をとることもできぬか。ならば証拠が来るまで話を聞いてくれ。説明しよう。」
「聞くのはいいですが、正直に言うと約束してください。隠し事はしないと。」
「ああもちろんだ。ぬっ、契約魔法か。」
「貴様! どこまでも無礼な! もう許せん!」
側近が切れて剣を抜いた。『狙撃』
右肩を撃ち抜いた。
「こちらは譲歩をして話を聞いてあげているのです。勘違いしないように。話を聞かずに帰ってもいいんですよ?」
「うぬっ! ここから無事に出ていけると思っているのか!?」
楽勝だ。
「やめておけクラーク。こちらに大義はない。いかに我らが関与してないとは言え、城内で起こったことだ。余に責任があるのは当然だ。」
「陛下……私どもの力不足で……申し訳ありません」
「よい、下がって治療を受けておけ。」
茶番は終わったな。契約魔法が効いてる状態で関与してないって言ってたし、国王は無罪か?
「では説明を聞きましょう。」
「うむ、まずそこにいる側用人ヨヒアム・ド・ベントレーは偽物だ。本人ではない。どこで入れ替わったのか分からんがな。家族の話を聞くに、家を出るまでは間違いなく本人だったと判断してよいだろう。現在シラミ潰しに本人を捜索しているところだ。」
「こいつの身元に心当たりはありますか?」
「あるわけなかろう。どうせヨヒアムそっくりだったのだろうが、ここまで顔を傷だらけにしてしまっては判別できぬわ。」
そりゃそうか。タコ殴りにしたからな。でもそのおかげで変装ではないことが分かった。
「偽物が使者に立ち、王宮深くまで入り込んで怪しい装置を使いこなしたと?」
「業腹だがそうなる。あれは裏切り者などをまとめて始末する部屋だ。余の代になってから整備以外で動かしたのは初めてだ。簡単には動かせぬはずだが、装置を壊して無理矢理落としおった。大損害だ。」
「だいたい分かりました。これ以上は僕らの出る幕ではなさそうですね。ではこの件の落とし前ですが、どうお考えですか?」
またまた空気が緊張してきた。騎士達も嫌な場面に立ち会って大変だよな。
「望みを言え。こちらの不手際だ。何なりと言ってみよ。」
「では僕から。結果が出たら全て教えてください。落とし前とは言いましたが陛下から取ろうなどと思い上がってないつもりです。犯人達からいただくつもりです。アレクは?」
「カースの
はー、面白いアイデアだな。どうせあんな所に徴税官なんか来やしないだろうけど。
「どちらもいいだろう。どうせエデンとやらは詳しく話を聞く必要があるしな。他の二人も言え。」
私としてはもちろんスティード君とサンドラちゃんにも落とし前が必要だと考えているし、国王もそう思ったようだ。ただ二人は自分達に話が回ってくるとは思ってなかったようで、驚いている。
「こちらのサンドラはこれからも王都で学びます。ですから身の安全を保障してください。」
はぁー、さすがスティード君。男だなぁ。
「いいだろう。例の許可証と合わせて保障しよう。では最後にお前だ。言え。」
「王家が秘蔵する剣を一振り、こちらのスティードにお与えください。さすれば彼は陛下へ揺るぎない忠誠心を持つ騎士となることでしょう。」
「ふっ、ものは言いようだな。まあよかろう。後で選ばせてやる。」
サンドラちゃんもさすがだな。スティード君が強くなれば自分達も安全だもんな。
では締めといくか。
「陛下の御心は分かりました。手打ちといたしましょう。ではこいつを引き渡しますので、後はお任せしていいですね?」
「いいだろう。お前達には迷惑をかけたな。許せよ。ところで、本当に食わぬのか? これでも宮廷料理人達が腕を振るったのだぞ?」
食べるに決まってるだろ。だいぶ腹が減ってるんだから。それから首輪も回収しておこう。結局私が拷問するより騎士団とかの尋問魔法の方が効き目があるんだろうしね。顔を変える魔法かなんかで入れ替わったってパターンだろうか?
「いただきます。お腹が空いているもので。みんなも食べるよね。」
「ええ、いただきましょうか。」
「僕も安心したらお腹が空いてきたよ。」
「そうね。こんな機会もうないものね。」
それからは和やかな雰囲気での昼食となった。料理の説明を受けたが、さっぱり覚えてない。長い名前だったしね。ただ今まで食べた中で一番美味しかったような気がする。
穏やかに話は進み、楽園の説明をして都市型結界魔法陣の許可や金貸しの許可証も貰えることになった。
そして話題は水泳に関する法律へと転がった。いよいよだ。
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