第535話 決勝トーナメント 二回戦

一回戦が終了し、準々決勝に進む八人が選ばれた。抽選の結果アレクは二、私は八だった。ふぅ、当たらずに済んだようだ。


「第一試合だね。頑張ってね!」


「ええ。勝ってくるわね。」


何の気負いもなくアレクは言った。頼もしい。上級貴族オーラが見え隠れしているようだ。ちなみに服装はエビルパイソンロードのミニスカートに黒いシャツ。その上にトビクラーのコートを羽織っている。真っ赤なコートがとてもよく似合う。膝から下が無防備なのが気になるかな……


『決勝トーナメント二回戦、第一試合を始めます! 一人目は! アルティエンノ・ド・アレクサンドル選手! 名門アレクサンドル公爵家! 本家の次期当主筆頭候補アルメネスト様の四男! 軽そうだが品の良い革鎧に身を包んで登場です!』


『二人目は! アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル選手! こちらはアレクサンドル男爵家! 分家、クタナツ騎士長の長女だぁ! ゼマティス卿の孫じゃなかったのか!? 一門対決となってしまいました! 目も眩むような真っ赤なコートに身を包んで登場です!』


『アレクサンドリーネ選手はワシの孫、カース選手と将来を誓い合った仲でな。つまりワシの孫も同然。孫の嫁は孫じゃ。』


『なんと! そうだったのですね! オシャレ同士素敵なカップルで羨ましい妬ましいあやかりたい金借りたい!』


『カースに言えばいくらでも借りられるじゃろう。』


おじいちゃんは本当に絶好調だな。ベルベッタさんが喋る隙がない。


『装備についての物言いはありませんね。それでは、双方構え!』




『始め!』


「やあアレクサンドリーネ。こんなに綺麗な子と親戚だなんて嬉しいよ。」


「呼び捨てにしないで。ゼマティス卿の解説を聞いてなかったの? 私を呼び捨てにしていい男はカースだけ。」『氷弾』


『風壁』「そいつは妬けるね。でもいくらゼマティス卿の孫だからってただの下級貴族だろ? パッとしない顔をしてるしね。」『烈風』


『氷壁』「そう言ってカースにコテンパンにやられた貴族は数え切れないわ。でも残念ね、あなたはカースと対戦できないもの。」『氷散弾』




『さあ膠着しております。お互いの防御が堅く攻撃が通らない! アレクサンドリーネ選手も今度は金操を使うという訳にはいかないでしょう。』


『革鎧や人体に金操を使えないわけではないが、さらに桁違いの魔力を消費することになる。単なる無駄遣いに終わるだけじゃな。』


『アルティエンノ選手はいい装備をしている。魔法にも斬撃にも強く、そして軽い。あれなら身軽な動きも可能だろう。』


ベルベッタさんは話すことがなくて装備の解説をしたのか? だからって詳しく言ってしまうと公平性に欠けるため、大まかに言うだけに留めているのか? 解説の仕事も大変だな。


戦況は膠着しているが、アレクが少しずつ距離を詰めている。先ほどは何やら話をしていたが、さすがにもうしていない。


『風弾』『風斬』『重圧』


『氷壁』


『アルティエンノ選手の魔法が猛威をふるっておりますが! アレクサンドリーネ選手は氷壁を巧みに使い防御しております!』


『氷壁の角度を調整することで最小限の魔力で防いでおる。実戦慣れしておるようじゃ。』


『しかも上からの重圧を防ぐことなく避けている。アルティエンノ選手の魔法はただの風系にしては察知しにくい。それをよく無傷でいるものだ。』


確かにアルティエンノ選手の魔法は分かりにくい。発動速度に磨きをかけているのだろうが、それだけではないな。


そんな状態でもアレクは少しずつ間合いを狭めていく。距離が近くなるほど発動速度の速い方が有利となるが……


「いいのかい? こんなに近づいて。僕の胸に飛び込みたいのなら歓迎するよ?」『烈風斬』


「それも、いいわねっ『氷弾』カースなら私の全力だって軽く受け止めてくれるわよ?」


「ぐふっ。なかなかやるようだが、その程度じゃあ僕の鎧は貫けないね。逆に君の方が大変なことになってるじゃないか。」


ア、アレク!


『なんとぉ! お互いノーガードで魔法を撃ち合ったぁー! その結果! アルティエンノ選手はほぼ無傷のようですが、アレクサンドリーネ選手の髪が切られてしまったぁー! 周囲には春の木漏れ日のように煌めく黄金の髪が舞い散っているぅぅーー!』


『ワシはアレクサンドリーネ選手をよく知っているわけではないが、並々ならぬ執念を感じる。髪などすぐ伸びるとでも言わんばかりじゃ。名門貴族の子女とは思えぬ覚悟じゃな。』


『不思議なのは、なぜアレクサンドリーネ選手は頭部ではなく胸部、それも鎧を狙ったのかということだ。今の氷弾を頭部に当てていれば勝っていたはずだ。』


確かにそうだ。急激に間合いを詰めることによって上級魔法、烈風斬を見事に躱している。髪は切られてしまったが、クタナツ女性からすれば、勝つためには惜しくないだろう。しかし、私にもアレクの考えが分からない。わざわざ丈夫な革鎧の胸部を狙うなんて。


『旋風』『豪炎』「これなら避けられないし、近付けないだろう?」


炎の竜巻か。危ないな。巻き込まれたら肺まで焼けそうだ。え? 防御もせずに突っ込んで行くの!? マジかよアレク……


「なっ何を!?」


『氷塊弾』


無骨な氷の塊がかなりの速度でアルティエンノ選手にぶち当たる。そしてそのまま場外へと吹っ飛んでいった……


『勝負あり! アレクサンドリーネ選手の勝利です! あの炎の旋風にノーガードで突っ込んで無傷だったぁー!』


『正確には無傷ではない。剥き出しの足や顔にいくつか火傷を負っておる。髪も焦げておるようじゃ。よくあの程度で済んだものよ。』


『かなり耐火性能に優れたコートのようだ。だからと言ってよくあの炎の中にノーガードで突っ込んだものだ。最後の一撃も防御を捨てて魔力を込めたからこその威力、いい戦いだった。』


さすがアレク。装備に頼るのと、装備を利用するのは違うよな。私はどうなんだろう? 装備に頼りっぱなしになってないだろうか?


第二試合、ナグアット選手が勝った。

やはり強い。剣術、魔力、装備、そして経験。とても十五歳とは思えないレベルだ。


第三試合、珍しく幻術系の魔法を使うカッサンドラ選手に対して正攻法のヴァレリー選手。どうやら相性が悪過ぎたようでヴァレリー選手はなす術なく敗れてしまった。


いよいよ私の出番だ。

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