第534話 一回戦、アレクサンドリーネ

『決勝トーナメント一回戦、第五試合を始めます!』


『一人目はアレクサンドリーネ選手! 二人目はヘドラス選手! まさに美女と野獣! そんな感想しか出てこない組み合わせとなりました!』


『さあ装備について物言いはありますか?』


「ありません。」

「俺はあるぞ! 第一試合で使ってたあのローブを貸してもらおうか。」


さては先ほどナグアット選手が魔法を弾きまくっているのを見て使いたくなったな?


『不可だな。ヘドラス選手よ、お主の装備の方がアレクサンドリーネ選手より数段優れておる。』


『おおーっとこれは恥ずかしい! ヘドラス選手、鑑定眼のなさを露呈してしまったぁぁー! 一方物言いをしなかったアレクサンドリーネ選手は余裕なのか、それとも装備差が分からなかったのか? 見たところ、制服らしき装備はボロボロになっているがいいのかぁー!?』


『ふふふ、さすがワシの孫よ。この先に控える強敵に勝つために自分を追い込んでおるのよ。』


『なんとここにもゼマティス卿の孫がいたぁー! やはり規制するべきでしょうか!?』


おじいちゃんは絶好調だな。そんなに公私混同していいのか? しかも実況が勘違いしたままなのに放置かよ。


『では物言いもないことですので始めます! 双方構え!』


『始め!』


アレクの服が少し心配だが、まあ大丈夫だろう。


『氷弾』『氷弾』


アレクが先制しているが、ヘドラス選手は構わず前進している。やはりいい鎧を使ってるようだ。

それでも構わず撃ちまくるアレク。


「効かんな。俺の鎧はミスリル合金製よぉ! そんな可愛らしい魔法じゃ傷一つつかんぞ! くらえ!」『火球』


『氷壁』


『魔法の応酬が続いております! 丁寧に防御をするアレクサンドリーネ選手とは対照的に、防御は鎧頼みで攻撃一辺倒のヘドラス選手! よくそれで装備を借りようとしたものです!』


『借りられたら儲けものぐらいに考えていたのであろう。冒険者とはしたたかなものよ。』


『ミスリル合金にもいくつか種類があるが、魔法の弾き具合からするとマーキュリー銀との合金だろうか。』


確かかなり高いんだよな。十代前半の冒険者にしては稼いでるようだな。やるじゃないか。


『落雷』


「ふふふははは! 金属だから落雷が効くとでも思ったか!? 避雷ぐらい使っているに決まっているさ!」


ただの確認だろうな。かなり控えめな威力だったし。


「そんな氷壁など一撃で溶かしてくれるぞ! 『豪え『金操』ん……」


『うおおおーっとぉぉー! 何と! ヘドラス選手が場外へ落ちてしまったぁー! 何の前触れもなく! しかしアレクサンドリーネ選手も武舞台に膝を着き顔面蒼白! かなり苦しそうだぁー! だが! 立ち上がったぁぁぁー! 勝負あり! アレクサンドリーネ選手の勝利です!』


『あれは金操きんくりじゃな。金属を直接操れるのはよいが、魔力消費がただ事ではない。ひどく効率の悪い魔法じゃ。見よ、あの消耗具合を。ただの一回で魔力は枯渇、立っているだけで見事と言うものだ。さすがワシの孫!』


『魔力抵抗や魔法防御など何も考える必要がない分、場外へ落とすには最適と言えよう。ただし一撃で落とせなければ負けていたのはアレクサンドリーネ選手だ。ヘドラス選手が魔法を撃つタイミングに合わせたことで風操や浮身を使えなくしたことも見事だ。』


領都での対戦を思い出す。あの時はアジャーニ家の縁戚だったかな? 鎧がかなり丈夫そうだったから金操で決めたんだよな。

それにしてもさすがアレク。いつの間にか金操を使えるようになっていたとは。いくら回復がアリだからって何本も魔力ポーションを飲めるわけでもない。思い切ったな。


一回戦が終われば残りは八人。いよいよアレクと当たるかも知れない。毎回抽選になったからドキドキなんだよな。はてさて、どうなることやら。

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