第533話 決勝トーナメント 一回戦

『大変長らくお待たせいたしました! 決勝トーナメントを行います!ここからは一試合ずつ行いますので、実況・解説にも力を入れて参ります! さぁ! 抽選も終わり一回戦の組み合わせも決まりました!』


ちなみに私は四、アレクは九だ。


『決勝トーナメント第一試合に先立ちまして、国王陛下よりお言葉をいただけることになりました。ご起立、脱帽の上、静聴!』


やはり二万人近く入っている会場が静まりかえる。


『皆の者、余は憂慮していることがある。昨日もだが、装備の力に頼って勝ち上がる者がいることだ。確かに装備を整えることも実力のうちであろう。特に魔境で戦う冒険者は装備に命が賭かっていると言っても過言ではない。ここで王命として装備を解除して勝負をしてもらってもよいが、それはあまりに無体というものであろう。

そこで、このような趣向を用意してみた。アントニウス!』


『解説のアントニウス・ド・ゼマティスである。陛下にお代わりして説明しよう。対戦相手から装備の差について不満の申し出があった場合に限り、その差を是正するべく装備の劣る方に鎧、ローブ、杖、剣などを貸し出すというものである。当然こちらから見て装備で上回る者からの申し出は受け付けぬから注意されよ。』


サービスがいいと見せかけてただの意地悪じゃないのか? 杖なんか他人のを借りたってほぼ無意味だろ。鎧やローブだって目利きができなきゃカスを掴まされるだけだし。

いや待てよ? もしかして目が利いて、なおかつ知識もあるが装備を整える金がない参加者のみを救済するためか!? 少し納得した。目が利かなきゃ申し出すらできないもんな。私には使いこなせないルールだな。たぶん必要もないけど。




一回戦では冒険者風の選手が高そうなローブを借りていた。軽そうな革鎧の上からローブを羽織るらしい。動きにくくないのか?

すると、その対戦相手、おそらく魔法学院生、が放つ魔法がことごとくローブによって防がれているではないか。そのまま間合いを詰めたかと思うと飛斬一閃。相手の魔法ごと斬り裂いてあっさり勝負を決めた。無くても勝てるだろうに念を入れて借りておいたってところか。しかも強敵と戦う時に慌てないように装備の力を実験までして……手強そうだな。


『一回戦勝者はナグアット選手!』



『続きまして二回戦へと移ります。一人目はキャサリン選手! 二人目はカース選手!』


『開始するにあたりまして、装備について物言いはありますか? なければこのまま始めますが。』


「ありません。」

「私もありません。」


見たところ魔法使いタイプの女の子だ。どの程度かは分からないが高そうなローブと杖を持っている。


『ではこのまま始めます! 双方構え!』


『始め!』


それにしてもベリンダさんだったか。一人で喋りまくってるな。大変だろうに。


『風斬』

『風球』

『風弾』


見えない攻撃のオンパレードだ。


『氷弾』


並行して強めの攻撃魔法まで撃ってくる。風系は自動防御で防いでいるが、弾系は素直に水壁で防いでおこう。風弾はどっちで防いだのやら。


『キャサリン選手の連続魔法が次々とカース選手を襲います! しかしカース選手、小揺るぎもしなーい!』


『さすがワシの孫! あの数の魔法を見事に防いでおる!』


『しかしキャサリン選手も敢えて威力を落として手数を増やしているように思える。油断はできまいな。』


『なんと! ゼマティス卿のお孫さんとはカース選手のことだったぁー! 昨日も見た観客の方にはバレてることですけどね。』


キャサリン選手は何か狙ってるんだな。普通に考えたら強力な氷弾とかだが。


『氷壁』


私の水壁の周りを氷壁で囲っている。つまり閉じ込められた状態だ。


「終わりよ。余裕見せ過ぎじゃない?」


私の上部の氷壁がどんどん大きくなっていく。


「降参しないとどこまでも高く大きくなるわよ?」


これは凄いな。自動防御で防げなくはないが効率が悪過ぎる。内部に私が鉄壁なり氷壁なりを作って耐えてもいいが、理論的にはいつか限界を超えてしまう。ならば……『点火つけび』『水球』


私を取り囲む氷壁を背後の一部を残してぶち壊す。すると、高くそびえ立った氷壁は……

必然的に彼女に向かって倒れることになる。


横幅が四メイルはある氷の塊が直撃すればミンチ確定。慌てて横に滑り込むキャサリン選手。そんな無防備な彼女に『水球』

弾かれるように場外へ。


『勝負あり! 勝者カース選手!』


『ふおおおー! さすがカースじゃ! あの分厚い氷壁を苦もなく叩き壊し、自分を押し潰そうとする巨大な氷塊を武器にするとは!』


『キャサリン選手はカース選手の正面にいたのが、悪手とも思える。しかしあの方法では武舞台のどこにいても同じ方法で反撃されてしまうことになる。もっと速攻で決めるべきだったのだろう。』


巨大な質量で攻めるというアイデアは自動防御には有効だ。例えば楽園の城壁に使ったような何百トンもあるような岩が上空から落下して来たなら、たぶん自動防御では防ぎきれないように思う。魔法なのだが物理的に無理なものは無理だろう。


『終わってみればカース選手は開始位置を一歩も動いておりません! これは次回からゼマティス家の血を引く者も参加不可にするべきなのかぁー! 続きまして第三試合を行います!』


もう二試合が終了するとアレクの出番だ。

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