第514話

カースとアレクサンドリーネがそれぞれの一週間を過ごしている間、マーティン家の面々はどのような生活を送っているのだろうか?




父アランは、騎士団の部下や同僚達に別荘についてあれこれ説明していた。もちろん自分やイザベルに叛意などない。そもそも後数年もすれば退役して平民になるのだからと白状するほどだった。




母イザベルは、たまに行われる奥方達とのお茶会において真相を伝えておいた。経緯はともかく『魔女の別荘』と呼ばれるエリアは正確には楽園エデンと名付けられており、全てカースにより建造されたこと。自分もたまに遊びに行くが基本的にノータッチであることを強調しておいた。




妹キアラはいつも通りである。魔力、センスとも二年生とは思えないレベルで発揮している。それどころか自ら難しい本を読むことで知識面も他の二年生とは比べものにならなかったりする。唯一算数だけは平均的なのだが。




次兄オディロンはリトルウィング解散以来ソロで活動していた。草原の魔物を狩ったり、洗濯魔法で冒険者を相手に堅実に稼いだり。悠々自適な生活をしていた。




マリーは専業主婦として過ごしているが、ある悩みを抱えていた。それはマリーの長い人生において初めて直面する難問であった。解決方法が無くはないので絶望視しなくてよいのが救いだったりする。おそらくだがカースの力にすがることになるだろう。




ベレンガリアはアランが帰ってきたのでご機嫌である。自分の夜の割り当ては週に二回であるが、それが一回でもあれば満足なのだ。カース相手には気ままに振舞っていても、アランの前では捨てられるのを恐れる子犬のようなベレンガリアだった。




姉エリザベスはカースのとばっちりで時たま闇ギルドに狙われることもあったが、本人としては自分のせいかカースのせいか判断がつかなかった。身に覚えがあり過ぎるためである。本人にしてみれば大した危険ではない。襲い来る敵は皆殺しにすればいいだけの話だからだ。カースのように拷問して情報を吐かせようなどとせず、全てを惨たらしく殺すのみであった。




長兄ウリエンは近衛騎士としては異例の出世を遂げたわけだが、驕ることなく淡々と任務をこなしていた。


「ウリエン、城下に買い物に行く。お供して。」


「申し訳ありませんが私は王太子殿下の近衛です。姫様の命令には従えません。」


エリザベスが心配するのも当然かも知れない。しかし相手が王族であろうとも自分が正しいと信じる意見をきっぱり言うことのできるウリエン。このまま出世街道をひた走ることになるのであろうか。




そしてカース。クタナツの実家から昼は道場に通い、夜は魔法や心眼の稽古とストイックな日々を送っていた。王国一武闘会が終わるまでは楽園の城壁関連の作業は進めない。後一ヶ月と少し、カースは全力で優勝を狙うようだ。

さすがの闇ギルドもクタナツでは手を出しにくいようで、カースは平和に過ごしていた。

週末はアレクサンドリーネと睦み合い、終わらない快楽に耽ることが多かった。楽園にはほとんど戻らず、時々カムイにお土産の肉を届ける程度だった。


そしていつの頃からか、特注の首輪が軽く感じるようになっていた。








やがて季節は十月も半ば。そろそろ王都に移動しておく頃合い、カースが十三歳を迎える頃である。


出発はキアラが学校に出かけた後、午前遅くである。カースとしてはキアラが参加してしまうと自分が負けることを恐れているのだ。確かにキアラの身を案ずる気持ちもあるが、それは三割程度で残りは本当に負けを心配していた。だからキアラがいない時間帯にこっそりクタナツを出発したのだ。


それから領都でアレクサンドリーネとスティード、そしてアイリーンを乗せて王都に向かうのであった。

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