第498話

さて、私の楽園に群がる蟻どもはひと段落するだろうが……


やはり来た……


オーガの大群か。


立て続けに大きい魔法を使ったもんな。何が来るかと思えばオーガか。一匹二匹ならいいんだが……ざっと百匹。しかもボスらしき大物までいやがる。

北から来たってことはノワールフォレストの森を拠点とするオーガ達なのか。奴らはまるで蟹を解体するように、器用に蟻をバラして食事を始めた。食べたことは無いが旨いのか?


城壁の上に立つ私とボスの目が合った気がする。彼我の距離は二百メイル。堀は蟻に埋め尽くされているので、城壁前までは容易く近寄ってこれるだろう。マズいか…….


ボスの体長は十メイル程度、他のオーガが三〜五メイルなので大物と言っていいだろう。もし城壁を破壊されたら泣いてしまう。阻止しなければ。『狙撃』


効かない……

最近グリフォンを始めある程度のレベルの魔物には狙撃が効かないことが増えてきた。額に命中しているのに鉄のライフル弾が簡単に弾かれてしまうのだ。素直に目を狙うべきか……


いや、魔力でごり押しすることこそ私のアイデンティティ。『徹甲弾』


ようやくグラついた。しかしさすがに怒ったらしい、こちらに突撃して来た。『榴弾』


数百発の鉄球がボスオーガを襲う。人間なら即座にミンチになる威力だが……足止め程度にしかなっていない。丈夫過ぎだろ。


グオオオォオォォォー!!


ボスオーガは大地が震えるような雄叫びを上げた。すると、夢中で蟻に貪りついていたオーガ達まで一斉に城壁目掛けて突撃を始めたではないか……


くそ! 仕方ない!


『散弾狙撃』


ライフル弾を一斉に撃っただけである。通常の狙撃より弾丸の速度は落ちるが弾数は十数倍、魔力消費に至っては数百倍だ。しかし雑魚は一掃できた。


さてボスオーガをどうしよう? フェルナンド先生なら斬って終わりなんだろうが……


泥沼であいつの足元に穴を開けてやりたいが、蟻を踏み潰しながら走ってるものだから無理だ。


『水壁』


無理矢理閉じ込めてみた。しかし当然ながら暴れる力がとんでもない。先ほど六等星の奴らを閉じ込めた時の一万倍は魔力を使ってるが破られそうだ。


ちなみに先ほどは一人あたり一立方メイルの水を使った。今回はその千倍、一辺十メイルの立方体に閉じ込めてあるのに……


破られた。次から十万倍にしよう。


『狙撃』


ライフル弾を縦に長くして重量アップ。そして額の一点を狙って連射。


あいつにも意地があるのか避けようとしない。額を狙われていることなど分かっているだろうに。


そしてちょうど十発目。ついにボスオーガの額を貫いた。終わった……と言いたいがまだだ。オーガの死骸を早く魔力庫に収納しなければ……まずはボスからだ。




ようやく全ての収納が終わったが、ほぼ満タンになってしまった。蟻だけでも捨て値で売って来ようか? まだまだ収納できてない蟻がたくさんいるってのに……






東の城壁に来てみた。特に問題はなさそうだ。たまに城壁の上に登ってくる蟻もいるが、カムイがあっさり首を切り落としている。どうやってるんだ? 早業過ぎる。


「調子よさそうだね。魔力はまだ大丈夫?」


「ええ、このペースなら後二時間は大丈夫よ。ところで、さっきの咆哮は何? 結構大物だったんじゃない?」


「大きいオーガだったよ。結構苦戦したんだよ。」


「問題なかったようね。」


「ガウガウ」

「ピュイピュイ」


え? カムイは心配した? コーちゃんは食べたい? もちろんいいとも。城壁の内側に出しておくから好きなだけ食べておくれ。魔力も込めておくからね。カムイも食べていいんだぞー。その間、ここは私も見ておくよ。


「いつも思うけど、コーちゃんはあの小さな体によくあんな沢山入るよね。」


「うふふ、精霊だもんね。無邪気に食べてるわ、かわいいのね。」


全身をボスの血で真っ赤に染めながら内臓を優先して食べるコーちゃん。強靭な大腿部から食べ始めるカムイ。好みがあるんだろうなぁ。


「ところでひと段落ついたら蟻やオーガをギルドに納品に行きたいんだよね。アレクも行かない?」


「いいわよ。どこにするの?」


「ついでにあの馬鹿どもを送ってやりたいからクタナツでどうかな?」


「あら、えらく親切なのね。いいんじゃないかしら。」


「えへへ、少しだけ小遣い稼ぎをしようかと思ってね。じゃあ西側を見てくるから一人でも気を抜かないでね。」


結構心配だがアレクにだって修行が必要だもんな。


「ええ、行ってらっしゃい。」


南側も心配だが、魔力探査には引っかかってないからしばらく放置だ。





西の城壁上ではディア何とかの五人が奮闘しているが結構ギリギリかも知れない。お互いに声をかけ合いながら戦況を保持しているようだ。根っからの雑魚でもないのだろう。


「回復をくれ!」

「十五秒待って!」

「あそこだ! 登らせるな!」

「私がやるわ!」『水弾』

「城壁に足をかけさせるな!」


助け船ぐらい出してやろう。


『燎原の火』


魔力は低めにしてあるので、即死とはいかない。それでも範囲は広め、西の城壁にたかったグリーディアントども全てを覆うほどはある。


「あ、あんた……」

「これだけの範囲を……」

「溜めもなしで上級魔法かよ……」


「お前らに朗報だ。気が変わったからクタナツまで連れて行ってやる。迷惑料、及び送料ってことで一人金貨五十枚貰うぜ?」


「なっ、そんな……」

「くっ……殺……」

「仕方ないか……」

「どうする?」

「分かった、払おう。」


「いいだろう。では約束だ。お前たちはクタナツのギルドに到着後、一時間以内に俺に一人辺り金貨五十枚を払う。今日中に払えなかった場合は借金、トイチの複利だ。言い忘れたが俺はクタナツの冒険者『金貸しカース』分かったな?」


「ああ、分かっとぁっ」


よし、これまた全員に掛かったな。絶対服従の方はクタナツに帰ったら解除してやろう。バカンス一日目がこれかよ。


「さて、蟻の素材だが……全部くれてやるからしっかり解体するといい。ただし、出発は今から二時間後ってとこだ。それまでは取り放題だ。ここは俺が見ておくから南に行ってみな。」


やつらは返事もそこそこに大慌てで南の城壁に向かった。私は残った蟻をコツコツと退治するのだった。



そして一時間後、あらかた片付きそうなのでアレクのもとへ。ボスオーガは骨だけになっていた。きれいに食べたもんだ、えらいぞ。よぉ〜しよしよし!


「ガウガウ」


カムイが私に渡したのは魔石だった。えらい、えらいぞカムイ!「ガウガウ」


「こっちも終わるところだね。一人でよく頑張ったね! さすがアレク、よしよし。」


頭を撫でて頬にキス。たまには私だってやるさ。


「もうカースったらこんな所で危ないわ。ありがと……」


まるで料理中、夫にちょっかいを出された妻のようだ。目の前には料理済みの魔物の屍が山のように転がっていることだし。


では後片付けと行こうか。


『水球』


転がっている蟻どもを一つの巨大水球に閉じ込めて……転がす。異動先は南だ。あいつらに解体、収納させよう。


「アレクは北側のグリーディアントを処理しておいてくれる? これは南に持って行くから。コーちゃんとカムイはアレクを頼むね。」


「分かったわ。」

「ガウガウ」

「ピュイピュイ」


さーて、あいつらサボらず働いているかなー?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る