第499話

城壁の南側ではディア何とかの奴らが解体に精を出していた。どうやら流れ作業でしているらしい。


腹を切り開く者、魔石を取り出す者、素材部分を切り離す者、まとめて収納する者、解体後のゴミを端に寄せる者……

一人一役の者もいれば二役の者もいる。さすがに経験を感じさせる動きだ。こんなまともな奴らがどうしてまあ……


しかし蟻が多過ぎる、そこに私が追加を持って来てしまったしな。まあもう一時間ほど頑張ってもらおう。




次は再び西だ。

うまく全滅してくれただろうか。


していた。

いつかの蟻事件のように手足だけが燃え尽きており、あらかた片付いたと見ていいだろう。でもどうしよう……もう収納できない……

バカンスが終わったら拡張しておくしかないか。魔力の最大値が減ってしまうな……


仕方ない、全部燃やしてしまおう。全部城壁内に持ち込んで丸焼きだ。




やってみて分かったのは、グリーディアントの外殻は金属にも似た性質を持っていることだ。鉄より軽く丈夫だったりする。つまり丸ごと焼いてみると、筋や内臓が先に燃え尽きた後に外殻が溶け落ちて溶岩の池ができてしまった。これは面白いが魔石はどこに行った?


そこでアイデア。溶けた外殻をチーズのように城壁にコーティングしてみる。これってかなり強度アップなのではないだろうか。バランタウンでも蟻の素材で城壁を強化したって話だったしな。


せっかく外側に付けた模様は消えてしまうが構わずコーティングしてみる。全ての城壁を覆うにはとても足りないが、西側だけでもやってしまおう。


溶けた外殻は『水操』で操作できた。一応液体だからな。しかし通常の金操並みの魔力消費だったりする。それでも金属でないため金操で操作するよりはマシな消費だったりする。私は何を言っているんだ?


鉄杭の打ち込みも終わってないのに大丈夫なのか気になるが多分大した重さではないだろう。構わん、さっき回収した蟻も全部使ってしまおう。ついでに各城壁の分も回収だ。全部使ってしまおう。


結局十数万ものグリーディアントの外殻を使い西の城壁全てと北の城壁の半分をコーティングすることができた。当然アレクとディア何とかが収納した分は除く。




結局他の魔物がポツポツと襲ってはきたが、先ほどのオーガに比べたら何ほどのこともない。どうにか周辺をきれいに片付けたことだし出発していいだろう。


「よし、そろそろ出発するぞ。お前らクタナツに着いたらここのことをよく聞いておけよ。」『永眠』


全員眠っていてもらう。こんな奴らに移動手段を教えるつもりはない。まあ私達が最初に空から現れたのは見られたけど。





クタナツに到着した。ここは城壁北東部。ここから城門までは歩きだ。永眠は解除した。そのうち目を覚ますだろう。そのままミスリルボードに載せて城門まで連れて行く。


城門に着いたのに目を覚まさない。だから仕方ない『落雷』


「ぐわおっ」

「はあぅっ」

「きゃうぬ」


三人ほど起きた。


「他の二人も起こしてやれよ。クタナツに着いたぞ。」


どいつもこいつもキョトンとしている。狐につままれた表情ってやつか。

頭は追いついてないが、絶対服従なので他の二人を起こしにかかっている。そして無事に城門を通過しギルドへ行く。


六等星なら当然だが、五人とも金貨五十枚持っていた。それから私もオーガを納品してと。アレクも蟻やハーピーやトロルなどを納品していた。お互いいい小遣い稼ぎになったようだ。


もうだいぶ昼を過ぎているのでそのままギルドで昼食となった。メニューはお馴染み、オークのジンジャー焼き定食。美味い!


中途半端な時間であるためか、知り合いや先輩に会うこともなくクタナツを発った。今度こそ、アレクと二人きりの時間を過ごすんだ!





「俺たちさっきまでノワールフォレストの森の南部にいたよな?」

「ここって本当にクタナツなの?」

「ここはギルドだよな? 取り敢えずグリーディアントの納品するか……」

「情報も伝えておかないと……あいつら大きめだったし……」

「そもそも魔境にあんな建造物があるっておかしくないか? あの狼だって強すぎるよな……」


彼らが動き出したのはそれから一時間後だった。






「さっきはいきなりで頭が追いつかなかったけど、えらいものを作ったのね! すごいわカース!」


「えへへ、頑張ったんだよ。アレクを驚かそうと思ってさ!」


「頭がおかしくなりそうよ。魔境、それもヘルデザ砂漠とノワールフォレストの森の間にだなんて。」


「着いたら空中露天風呂にしようか。疲れたもんね。のんびりするつもりがとんだ災難だったね。でも城壁を作っておいてよかったよ!」


「すごかったわよ! あれだけの数のグリーディアントに囲まれてるのにビクともしないんだから! おかげで悠々と倒すことができたわ。」


そうやってイチャイチャしてたら楽園に到着。見たところ異常なし。


「じゃあまずはお風呂にしようか。それから家の中を案内するよ。」


「ええ、もうドキドキしてるわよ。」


そして湯船を上空に浮かせる。悪いがコーちゃんとカムイは地上でお留守番だ。

かなり高度を上げてみたが、北のノワールフォレストの森には切れ目が見えず、南西のヘルデザ砂漠にも切れ目が見えない。やはり魔境は広いな……

ちなみに東側、北東から南東にかけては大海原がどこまでも広がっている。


「ねぇカース……私、すごくドキドキしているの。」





〜〜削除しました〜〜






太陽に見られながら大空で何てことをしているんだ。でもやめない。もう少し日が傾くまで……





徐々に手を緩める私。


「カース……」


「時間切れだよ。降りよう。降りて夕食にしようよ。続きはそれから、ね。」


「あ……うん……」


これから二週間ずっと二人っきりなんだし、慌てることはない。ゆっくりと……ね。

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