第491話
連日のように遊びまわるカースとアレクサンドリーネ。城壁に沿って歩いたり、お土産を買ったり。さらには演劇を見たりと全力で楽しんでいた。夜は夜で広めの酒場に行きアレクサンドリーネのバイオリンを披露してコーネリアスや客達と踊り狂ったりと我が世の春を謳歌していた。
そうすると当然のように寄ってくる輩がいる。帰り道のことであった。
「よぉ〜お前ら〜景気よさそうじゃん」
「知ってっか? 俺たちゃ王都でちったあ知れてる傾奇者だぜ?」
「家出した貴族ってとこだなぁ? 有り金出したら勘弁してやるぜぇ?」
汚い服をだらしなく着崩してるな。変な三人組だ。
「アレク任せた。これも経験だよ。」
「ええ、任せて。」
『氷散弾』
さすがアレク。問答無用でぶっ放した。散弾なのに奴らの足だけに的を絞ってある。えらい!
「ご、お前ら、俺らにこんなこと、してただで済む、と思ってんじゃねぇぞ」
「俺らが一声、かけりゃ百人から、傾奇者が集まる、からよぉ、くそ、いてぇ」
「天下無敵の『爆龍鬼焔党』なめてっとぶち殺されんぞ?」
すごいなこいつら、足がズタズタで立つこともできないくせによく言えたもんだ。せっかくだから情報収集ぐらいしてみよう。
『水壁』
いつも通り頭だけを出して閉じ込める。もちろん段々温度も上がる。
「オメーらに聞きたいことがある。先に話した奴だけ助けるわ。残り二人は……茹でダコになってもらおうか。」
ちなみに私はまだタコを見たことがない。どうやら誰も食べないらしい。だから茹でダコが通じているかは怪しい……
「ふざけんな!」
「さっさと出せや!」
「ホントに殺すぞ!」
ここからもいつも通り。普通の木刀で顔を殴る。ひたすら殴る。ちなみに水温は六十度ぐらいだろうか。
「ぐごぼっがぁ」
「わがっ、はなず」
「いだぁちい」
「よーし話したい奴がいるな。」
全員の水壁を解除して麻痺をかけておく。
「さて、約束だ。オメーは助けてやる。正直に全て話せよ?」
「ぐうっああっ」
会話になってるのか? 契約魔法はしっかりかかった。少しポーションを使ってやろう。
「さて、なぜ俺達を狙った?」
「金を持ってそうだし、ガキのくせに生意気な金遣いをしてやがったから……」
ついでだから聞いておくかな。
「金貸し、
「ああ、タチの悪い闇ギルドの幹部……」
マジかよ! こんな簡単にヒットするとは。王都に来たからには接触したいと思っていたんだよな。
「顔や居場所は分かるか?」
「分からん、そこの下っ端なら分かる……」
「ではさらに約束だ。今からそいつを王の海鮮亭まで連れて来い。そしたら金貨を一枚ずつくれてやる。」
「あ、ああっ分かったぅ」
さて、どうなることかな。
「ごめんごめんお待たせ。ついでだから聞いてみたらまさかの大当たりだったよ。」
「サンドラちゃんの一家を陥れた男ね。許せないわよね。」
「こんな奴らって悪い知り合いがいるかと思ってね。さて、宿に帰ってのんびり待とうか。」
部屋でのんびり待っているとノックの音が。部屋にやって来たのは四人。さっきの一人とご新規さん三名だ。
「よく来たな。まあ手付けだ、取っときな。」
金貨を四枚渡す。
「スジムナ達があっさりやられたって聞いて来てみれば、とんだ坊ちゃんだな」
「あんまナメてっと大ケガすんぞ」
「こんな端金で俺らをどうにかできると思ってんじゃねぇぞ」
連れて来た男はスジムナと言うのか。それにしてもこいつら系って最初だけは威勢がいいよな。
「要件は一つ、鴉金のシンバリー兄貴に顔を繋いで貰えないか?」
「シンバリーさんに会ってどうしようってんだ?」
「もうバレてると思うから言うが、俺達は家出中の貴族だ。金貸しになりたい。だからあのシンバリー兄貴に弟子入りしたいんだ。」
「ふん、まあいい。取り敢えず金貨十枚出しな。連れてってやるよ。」
「すまんな。頼むわ。はい十枚。」
「私も行くわよ!」
「ピュイピュイ」
ふふふ、三人で行こうか。
連れて行かれたのは如何にも場末の狭い酒場。ここにシンバリーがいるのか?
「そこらに座って待っとけ」
待つのはいいが、何か飲み物ぐらい出せよ。腹は減ってないけど。
待つこと十数分、中肉中背の男がやってきた。ギラギラした趣味の悪い服を着てやがる。こいつか?
「君かな? 僕に弟子入りしたいと言うのは?」
私は勢いよく立ち上がって挨拶をする。
「シンバリーの兄貴でいらっしゃいますか? 俺はカースと申すケチな野郎でさぁ。兄貴の噂を聞いてやって参りやした! ぜひ弟子にしてやってくだせぇ!」
「ふうん、弟子にするのはいいのだが、君達はお金を持っているのかい? 金貸しは金がないと出来ないよ?」
「へいっ! 家出をする時にガメて参りやした! 兄貴の一晩の遊び代にもならないとは思いやすが。」
私はそう言って金貨を二百枚ほど机の上にばらまいてみる。周りのやつらは目の色を変えているが、シンバリーは変化なしか。
「まあ、それだけあれば開業するのに問題ないだろう。当分の間、その金は僕が管理しておいてあげよう。君が一件貸付に成功する度に必要な金額を取りに来るといい。」
「ありがとうございます! 明日からよろしくお願いいたしやす!」
こいつは本物なのか? 上手くいき過ぎて心配になってきた。まあいいや、やってしまおう。
『麻痺』
店中全員の動きを封じる。やはりどいつもこいつも雑魚のようだ。しかし……
「ようやく尻尾を現したね。案外堪え性がないのかな?」
シンバリーには効いてない、その上ゾロゾロ新手が入って来やがった。ちっ、『重圧』
効いてない奴も何人かいるな。コーちゃんはアレクを頼むね「ピュイピュイ」
「アレクはコーちゃんと身を守っておいてね。」
「ええ、大丈夫よ。」
氷壁に身を包みガッチリと防御を固めている。これなら安心。『氷散弾』
全員に囲まれそうになったので無差別攻撃だ。それでもシンバリーは涼しい顔をしてやがる。自分以外は全滅したってのにどうしたことだ?
「いやーやるねぇ。何が目的か知らないが大した腕だ。どうだい? 本当に弟子にならないかい? 君なら一年で白金貨が稼げるよ?」
「間に合ってる。俺は金持ちだからよ。それより余裕じゃねぇか。」『狙撃』
両膝を撃ち抜いた。倒れこむシンバリー。しかし、すぐに起き上がってきた!?
「すごい魔法じゃないか。しかし僕には効かないなぁ。」『水球』
ただの水球が私に効くはずもない。しかしただの水球にしては自動防御の魔力消費がただごとではない! 何だこれ?
「面白い水球を使うじゃねーか。タネを教えろよ。」
「ふふふ、聞きたいかい? ならば教えてやろう。」
『火球』
興味ないっての。両足を消し炭にしてやったが……これでも効かない、いや治ってるのか?
「ひどいなぁ。せっかく教えてあげようとしたのに。」『水球』
くそっ、ダメージはないが不気味な魔法だ。こうなったらどっちの魔力が先に切れるか我慢比べだな。
似たような展開が続き店内は荒れ放題。私は室内でも構わず火の魔法を使うので消火が少し面倒だったりする。
「僕の魔力切れを期待してるなら無駄だよ。」
方法を変えよう。奴は回復どころか再生するものと考えよう。どうせ妙な個人魔法でも持ってんだろ。『落雷』
「はっ、やるねぇ。少しは頭を使えるようだね。しかしこれならどうだい?」
そっちは水球しか使ってこないくせに。何かローブのようなものを被りやがった。絶縁できるやつか?『落雷』
「効かないよ。知ってるかい? 雷ってのはね、金属や高い木などにはよく落ちるけど、ある種の魔物には効かないのさ。」
ふーん、つまりその魔物の革なんかは絶縁体ってことか。意味なくないか?『火球』
やはり燃やす分には普通に燃えるのか。
「なっ、よくも!」
もしかしてこいつ魔力は高いし装備もいいけど実戦経験が足りないのか? 私もだけど。
『落雷』『落雷』『落雷』『麻痺』
やっと効いた……
あー疲れた。
邪魔が入らないように建物の周囲を氷壁で囲ってたもんな。そんな状態で火の魔法を結構使ったもんだから酸素不足にならないかドキドキしてたんだよな。
「アレク、コーちゃん、お待たせ。こいつを連れて移動するよ。」
「珍しく苦戦してたわね。」
「ピュイピュイ!」
「どうやら個人魔法持ちみたいなんだよね。」
さて、屋根をぶち破り空から逃げよう。案の定、氷壁の周りには結構な人がいた。邪魔が入る前に終わってよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます