第492話
王都の外れにやってきた。非常に気が進まないがシンバリーの装備を解除しておこう。つまり真っ裸にする。
その上で目隠しして縛り上げて拘束隷属の首輪を付けておく。絶対逃がさんぞ。
「起きろ。」
いつものように水壁に閉じ込めてから殴る。傷はすっかり治っている、なんて奴だ。
「カースとか言ったな……君、死んだぞ?」
こいつ、この状況で元気な奴だな。
「お前こそどうするんだ? このまま死ぬか?」
「やれるもんならやってみな。僕らのギルドは執念深いからな。君だけじゃない、家族親類縁者皆殺しとなる。既に助けは呼んである。せいぜい僕を拷問でもしてみればいいさ。」
ほぉ、発信の魔法のようなものを使ったのか? 来たら逃げればいいだけだがな。
「ではお言葉に甘えて。」
水壁を熱湯にして空へ急上昇、急下降を繰り返す。さぞかし気分が悪くなることだろう。回転も加えてみよう。
「何か話す気になったか?」
返事がない、いやできないのか。こんな時は騎士団の魔法尋問が効くんだろうな。朝まで吐かなかったら連行しよう。ちなみに魔力探査によると近づく者はいない。
『水鋸』
回転する水の刃だ。見た目は薄い水がクルクル回っているようにしか見えない。これで両手を切り落としてみた。
二分もしないうちに再生してくる。生えてくると言うより再生が最適な表現だろう。
今度は両足を切り落としてみた。再生までおよそ三分。酒場で戦った時より随分遅くなっている。もしや解除した装備に関係があるのか?
「この分だと再生しなくなるまで燃やし続けるのもいいな。仲間もまだ来ないみたいだし、どうする?」
「や、やめるんだ。今ならまだ許してあげるから。金だってくれてやる!」
「よし、なら約束だ。やめるから正直に話せよ?」
「その手には乗らない、君は契約魔法が使えるんだろう? しかし相手の同意が必要なようだ。」
くそ、さすがにバカじゃないのか。
「じゃあやめない。」
『水鋸』
水壁の中にいるから燃やせないんだよな。それにしてもこんな熱湯に十五分は浸かってるがよく生きてるよな。我慢とかそんなレベルではないはずだが。
両手両足を切り落としては再生を繰り返す。段々とサイクルが長くなってきた。
「そろそろ再生しなくなるんじゃないか? そうなったら手足以外も切り落とすからな。」
「や、やめるんだ! 何が知りたいんだ!」
「約束するのかどうかを聞いてんだがな?」
「分かった! 話すっお、話すから!」
やっと効いた……何なんだこいつは。そこら辺の冒険者なんかより余程根性が座ってやがる。さすが金貸しってとこか。
正直に話してくれたおかげで色々と分かってきた。こいつは間違いなく金貸しシンバリー本人。クタナツでサンドラパパに金を貸したのもこいつ本人。ヤコビニ派、正確には偽勇者から依頼されて片棒を担いだらしい。ちなみに偽勇者とはその時以来会ってない。
実際にサンドラパパに貸した金額は金貨五百枚もない、ほぼ利子だ。
そしてこいつも契約魔法が使える。書類や道具を用意する必要はあるがそれなりに強力な契約魔法が使えるようだ。金貸しには必須だよな。
さらに魔力が切れなかったのはベルトに秘密があり、普段コツコツと貯めておいた魔力をベルトから供給する仕組みなのだ。供給元は汚銀の巨大な塊で、王都ぐらいの広さならどこでも魔力は受け取れるようだ。
そして再生の理由だが、やはり個人魔法だった。自動再生と呼んでいるらしいが、とにかく魔力が続く限りいくらでも再生する。首を切られても首から下が再生するのだ。脳みそを真っ二つにした場合どうなるのかは試したことはないそうだ。ちなみに少し厄介だった水球は正確には水ではなくスライムなどと同じ溶解液だった。エゲツない魔法を使うものだ。
ちなみにこいつらのギルドの名前は『ニコニコ商会』ふざけやがって……
「さてと、有り金全部出しな。」
先ほどの尋問で魔力庫に白金貨五枚、大金貨十二枚、金貨百三十六枚入っていることが分かっている。
「ギャワワッギャワワッ!」
いきなりコーちゃんが鳴き出した! 危険だ!『水壁』で防御を堅める!
そして全員をミスリルボードに乗せて上空へ……「ギャハッハァ!」
しかし、さらに上から斬りかかってきやがった。私の自動防御があっさり斬り裂かれた……
籠手で防いだので体はどうにか無事だ。『散弾』
ダメージはなさそうだが、距離を取ることには成功した。今のうちに……
「アレク、上から援護して!」
ボードを上空に浮かべておく。そして『光源』
全然魔力を感じなかったからな。コーちゃんが教えてくれなかったらヤバかった。だから肉眼で見るしかない、一人だけか……
「俺の防御を斬り裂かれたのは二回目だ。名前を聞いておこう。名乗っていいぞ。」
「ギャハッハァ生意気なガキだぜぇー。俺ぁ『斬り裂きキンキー』ってんだ! テメーは名乗らなくていいぜぇ、ここで死ぬんだからよぉ!」
これまたイカれた男だな。汚い金髪を逆立てて顔には変な刺青を入れてやがる。箒頭とでも言うのか。しかしあの攻撃力は厄介だ……近寄られるとまずい。
『榴弾』
もう情報は要らないから殺す気で攻撃する。数百発のホーミング榴弾、それも衝撃貫通バージョンだ。
最初の二割ぐらいは防御できたようだが、無意味だな。あっさりミンチになった。攻撃力は先生並みでも防御は比べ物にならないレベルか。こいつもニコニコ商会の者か……さすがは闇ギルド、魔力庫の設定が貴族と同じらしく何もぶち撒けてない。
使ってた剣だけは無事のようだ、貰っておこう。収納する前にシンバリーに剣の銘ぐらい聞いておこうかな。
私はボードまで飛び上がった。
「お待たせ。魔力探査に引っかからない奴って困るね。」
「おかえり。強かったの?」
「ピュイピュイ」
「いや、弱かったよ。案外この剣のせいかも。おいシンバリー、この剣の銘は?」
「知らない……が、そいつは魔剣らしい。」
危なっ、魔力庫に入れなくてよかった! 素手で持ったけど大丈夫なのか? 先生からはロクな剣じゃないって聞いてるが。取り敢えず明日にでも先生に見てもらおう。
それはともかく、他にも来たら困るので移動しておこう。
「さてと、シンちゃんよぉ。有り金出しな。心配すんな、証文やらアイテムやらには手を付けないからよ。もちろんベルトも返してやるさ。」
観念したシンバリーは有り金を全て取り出した。これで全財産が四割ほど増えたかな。
『
「いやーこれですっきりだね! ヤコビニ派の動乱も残すは偽勇者だけ。さて、騎士団詰所に行こうか。」
「うふふ、お疲れ様。頑張ったわね。かっこよかったわよ!」
「ピュイピュイ」
王国騎士団の詰所は何ヶ所かある。王都はかなり広いからな。ここから近いのは……第二城壁の東門辺りかな。
到着、ここかな。
「こんばんは。手配犯を連行してきました。確認をお願いします。」
「えっ? 手配犯?」
「
「なっ!? 鴉金のシンバリーだって!? ちょっと待ってくれるかい! 団長ー!」
奥に引っ込んでしまった。まさか手配期限切れってことはないだろうな?
出てきたのは三十代中盤のスラっとした男だった。
「鴉金のシンバリーを捕まえてくれたそうだな。まあ本物かどうか怪しいが……な?」
「別に賞金は急ぎませんから心ゆくまでお調べください。私はカース・ド・マーティン。ゼマティス家当主アントニウスの孫です。」
「ふむ、そうかね。まあいい、取り調べの結果が分かり次第知らせよう。ご苦労だった。」
おっと、首輪は返してもらおう。それからこいつの装備は置いていこう。返す約束だからな。
「このベルトがありますと、こいつは魔力を回復してしまいます。くれぐれもご注意ください。」
これで安心して帰れる。いやーいい夜だった。残りは偽勇者か、どこに逃げてやがる。
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