第447話

領都に到着。再びアレクに発信の魔法で到着を伝える。さて、学校と自宅。アレクはどっちにいるかな?


城門にいた! 私に気付くとやはり飛び付いてくる。

「待ってたわ! 会いたかったんだから!」

「僕もだよ!」


いつものやりとりだが飽きる気配はない。やはりいい匂いがする。ふぅ。

ん? えらく学生が多いな。まさか取り巻きがここまで付いて来たのか?


「我々は先日優勝した君の実力を確かめに来た。尋常に勝負を受けて欲しい」


「アレク? 何事?」


「誰が言い出したのか分からないけど、カースに挑戦したいんですって。誰かがカースが不正をして優勝したって言いふらしてるみたいなの。だから挑戦するのは自由だけど一勝負につき金貨一枚って教えてあげたの。」


ははっ、こりゃあいい。先日の金貨もまだ貰ってないことだし、小銭を稼がせてもらおう。

金貨一枚は十万イェン、子供の小遣いにしては大金だが、どうせこいつらは貴族だろうし問題ないんだろうな。


「いいよ。前払いね。アレクに金貨を払っておいてね。じゃあ外に行こうか。」


こうして私達はゾロゾロと城門から外に出てしばらく歩いた。何人いるんだ?


「ルールは決勝戦と同じでいいね?」


「ああ、開始後は何でもアリだ」


いやにニヤニヤしてるな。そんなに何でもアリが嬉しいのか?


「何でもアリを勘違いしてはダメだよ。決勝戦と同じなんだから人質や横槍はナシだよ。もちろん開始前の不意打ちもね。」


「あ、当たり前だろう!」


なぜそんなに驚く? こいつらさては開始したら全員でやるつもりだったな? そして何でもアリだから当然だと居直るつもりだったと。意外に頭を使う奴らなんだな。


「始めから全員まとめて掛かって来るのなら構わないよ?」


「言ったな。ではそうしよう。みんな! 囲め!」


おっ、これまた意外と連携が上手いパターンか? 半径十五メイルぐらいの円形で私を取り囲んできた。多分二十人ぐらいだろう。


「アレクサンドリーネ様。開始の合図をお願いいたします」


「いくわよ? 双方構え!」




「始め!」


全員が全員、一斉に詠唱を始めた……

もう始まってんだぞ? こいつら正気か……


『氷散弾』


全方位にばら撒いてやった。防御できたのはアレクだけ……信じられない……


「ね、ねえアレク……こいつら本当に魔法学校生なの?」


「そうよ。プライドだけ高くて成績の低い子達。」


「うわぁ……それよりよく防御したね。えらいよ。」


そう言ってアレクの頭を撫でる。絹のような手触り、いやきっと絹よりいい。


「もう、カースったらいきなり酷いんだから! 今日のコーヒーはカースの奢りよ!」


赤い顔して頬を膨らませるアレク。いつまでも撫でていたい。ちなみに金貨は二十三枚あった。そしてコーヒーは美味しかった。




「さて、ではマイコレイジ商会に行こうか。僕らの新居がどのぐらいできてるか確認にね。」


「もう、カースったら……//」




到着。今日はブラブラ歩いてきた。


「いらっしゃいませ」


「こんにちは。番頭さんはいらっしゃいますか? マーティンが家の件で来たとお伝えください。」


「少々お待ちくださいませ」


一分もしないうちに番頭さんはやってきた。


「マーティン様、ようこそお越しくださいました。ほぼ完成しております。残りはトイレと排水なのですが、ちょうどご相談したかった件がございます。」


「それはいい時に来ましたね。何ですか?」


「ご存知の通りトイレも排水も行き先はスライム式浄化槽です。当然その中にはスライムが生きておりますので、それがある限り収納できません。通常ですと家の完成前後に浄化槽担当が設置に行くのですが、マーティン様の場合はどうしたものかと……」


なるほど。全く考えてなかった。ちなみになぜか浄化槽内のスライムはそこから出てこない。いや、出てこれない構造なのだろう。


「分かりました。担当の方を交えて相談できますか? 私が送迎することになると思いますが。」


「かしこまりました。少々お待ちください。」


やって来たのは神経質そうな男だった。


「どうもどうもお世話になります。浄化槽担当のセプティクと申します。」


「こんにちは。お世話になります。カース・ド・マーティンと申します。」


「早速ですが、浄化槽用のスライムがですね、専門の者でないと扱いづらいものでどうしても直接現場に行く必要がある次第でして……」


「お手数ですいませんが、来ていただきたいと思います。もちろん送迎します。朝出て夕方には戻れますよ。」


「分かりました。それからスライムの容れ物ですが、中身と合わせて百キロム近くありますが大丈夫でしょうか?」


「ええ、問題ないです。では建物を見せていただけますか?」


それから私達は郊外へと移動し建築中の建物へと立ち入った。それは素晴らしい出来だった。領都の自宅と遜色ない豪邸がそこにあった。地表より二メイル高い玄関を入ると白い石造りの空間だった。領都の自宅と違う所は、玄関で靴を脱ぐことだ。私は自宅でも実家でもスリッパを履いているが、普通は土足だもんな。

みんな靴を脱ぎ、スリッパに履き替えてもらう。私の発注にぬかりはない。


「玄関で靴を脱ぐのって東の島の風習だったかしら?」


「そうなの? 僕の好みでやってるだけだからね。偶然だね。」




ざっと見たところ部屋数が二、三減っておりその分壁や柱が太く厚くなっているようだ。ありがたい。

そして風呂。広々とした空間に湯船はない。これは後日マギトレントの湯船を置くためだ。

素晴らしい。完璧だ。あのような魔境のど真ん中で優雅に過ごす。これこそが贅沢だ。ベッドや家具にシーツなど、拘りの逸品を買い揃えたらいよいよ楽園に設置だ!

この週末はアレクとショッピングだな。アレクにあれこれ選んでもらおう。


「非常に良い出来だと思います。ところで番ゴーレムですが、掃除をさせることってできますか?」


「家の中の掃除は難しいですが、庭先の枯葉を集めるなどでしたら大丈夫ですよ。」


それから詳しく話を聞いてみると、ゴーレムは一体につき一つのことしかできないらしい。『ゴミを捨てた者を殺せ』なんて命令は難しい部類に入るらしい。『荷物を置く』と『ゴミを捨てる』の区別がゴーレムにはつかないからだ。『登録された人間以外を殺せ』だとか『正門以外から入ってきた人間と魔物を殺せ』ならば問題ないらしい。プログラミングかよ!

また起動時のみ持ち主が魔力を補充するが、それ以降は不要。どのパーツも壊れたら直らないが、核が壊れるまでは動き続ける。

大量のゴーレムを運用する場合はゴーレム同士が干渉し合うトラブルもあるらしいので、しばらくはゴーレム職人が常駐した方が安全だとか。さて、どうするか?


「最高級ゴーレムだったらどの程度のことができますか?」


「お、おほん、最高級クラスですとメイドタイプです。そ、その、見た目は人間と瓜二つです。仕事はま、まあそれなりにできますが、本来の用途が、そ、その……」


なるほどね。すごいゴーレムがあるんだな。いらないけど。


「すいません、聞き方が悪かったですね。有能な執事のようにゴーレムに指示ができる、統率ができるゴーレムってありますか?」


「執事ゴーレムはございます。しかしゴーレムに命令したり統率したりはできません。結構面倒な割に値段も高く人気もないゴーレムですが、長く使うほどに学習して使い勝手はよくなります。もっとも、それまでが大変なのですが。」


「ちなみに一体いくらですか?」


「白金貨二枚です。外見は色々お選びいただけます。」


うーん、マーリンのようなメイドを楽園に連れて行くわけにはいかないし……かと言って何もかも自分でやるのは面倒だ……やはり外注だな。


「たぶん執事ゴーレムは買います。番ゴーレムは保留で。家の引き取りは内装を充実させてからにしますのでもう少しここに置いておいてもらえますか?」


「もちろんようございます。ではお支払いをお願いできますでしょうか。」


こうして残金も支払い名実ともに私の家となった。これを持って楽園エデンに行く日が楽しみだ。そして夏休みはアレクと二人で……




この日はこのまま自宅に帰りアレクと水いらずで過ごした。明日はショッピングだな。


「ねえカース? 最高級のメイドゴーレムは要らないの? 便利そうなのに。」


「要らないよ。僕には必要ないから。分かってるくせにー。」


「うふふ、聞いてみただけよ!」


相手がゴーレムなら浮気にはならないのか?

この世界はどうなってるんだ?

肛門魔法を極めた私より変態が沢山いるのではないか?

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