第448話

デメテの日。今日は内装を整えるべくショッピングにやって来た。ざっと必要な物は……


テーブル

椅子

ソファー

ベッド

布団、シーツ、毛布等

皿、コップ類

寝間着を含む服、タオル類

各種収納用の家具


以上を部屋数に合わせて適当に買おう。まずはそのぐらいだろうか。

調理用具を含む台所用品は今回は買わない。料理をする目処が立ってからかな。


あまり高級品で揃えるつもりもないが、安物でもなぁ。ベッドなど寝具関係は最高級品を買うつもりだが。

客間のベッドやシーツも少し奮発しておこう。両親や先生を招待するだろうからな。




そうして買い物を続けて今は昼。食事をしながら戦果を肴にしてお喋りに興じている。


「それにしてもカース、お金使い過ぎじゃない? 大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。今回ので結構使っちゃったけど、まだ七割は残ってるよ。」


「すごいわね。理解不能よ。」


「あはは、アレクと楽しく過ごすためなら全財産だって使うよ。もっともお金がなくてもアレクがいればそれでいいんだけどね。」


「うふふ、私もよ。」


甘い、何て甘い時間だ。いつまでもこうしていたいものだ。




昼からは辺境伯邸に行こう。ダミアンとセバスティアーノさんに用事があるのだ。





辺境伯邸にて。セバスティアーノさん発見。


「こんにちは。いつも突然ごめんなさい。セバスティアーノさんに相談とダミアンに用です。」


「いらっしゃいませ。ダミアン様はお留守ですので私へのご相談をお聞かせいただけますかな?」


私は執事ゴーレムを辺境伯邸に行儀見習いに出したい旨を説明した。セバスティアーノさんのような敏腕執事になって欲しいのだ。


「お話は分かりました。その程度であれば私の一存で可能です。こちらとしてもタダで、しかも不眠不休で働ける戦力が増えるのは喜ばしいことです。」


なるほど、そんな考え方もあるのか。


「ありがとうございます。ビシバシ可愛がってやってください。結構時間がかかるんですよね?」


「そうですな。早くて二年、遅ければ十年です。ゴーレムの能力は持ち主の魔力次第ですからカース様のゴーレムともなれば、いやはやどれ程の性能なのやら。」


「あ、それならメイドゴーレムもお願いしてもいいですか? 普通のやつです。普通のメイドとして育てていただければ。」


「問題ありませんな。やはりこちらにも利がある話、喜んで承りましょう。」


うまくいった! これで数年後の楽園での暮らしが楽になるな。普通のメイドゴーレムはいくらぐらいするんだろう。番ゴーレムはこの分だと買わないかな?


「ダミアン様には何の用事だったの?」


「例のミスリルだよ。等身大アレク像を作るからね!」


「ねぇ、それなんだけど……玄関に置くのはやめない? 自分の彫刻を飾るなんて恥ずかしくなってきちゃって……」


「えー? 来客者全員にアレクの美しさを自慢したかったのにー。でも恥ずかしいなら仕方ないね。分かったよ。」


「ごめんなさい。やっぱり恥ずかしいもん。」


「いいんだよ。だって生身のアレクが一番だもんね!」


「カースのバカ……」


甘い! 我ながら今日は甘い!


「ところで夏休みだけど楽園と王都に行かない?」


「え? 行きたい! 私、王都の記憶ってないのよね。」


「前半は王都、後半は楽園かな。王都に行くのにスティード君やセルジュ君にも声をかけておこうよ。ちなみにフェルナンド先生も乗せていくよ。」


「ええっ、剣鬼様!? 私あの時ご挨拶できなくて……」


「偶然楽園に来てくれたんだよ。しっかりアレクを紹介するね!」


そして私達はセルジュ君とスティード君に都合を聞くためそれぞれの寮へと向かった。まずは貴族学校の寮から。


身分証を提示すれば部外者でも立ち入りは問題ない。セルジュ君はいるのか……残念、不在だった。ドア下から手紙を入れてと。


次は騎士学校の寮。

スティード君はいないだろうなぁ。道場とかにいそうだもんな。やはり不在、手紙を残しておく。


「やっぱりみんな休みの日は家に閉じこもってないで、出かけるものなんだね。」


「スティード君は道場かしら? セルジュ君は……分からないわ。」


帰ろうとした時に見覚えのある人に声をかけられた。これもお約束かな。


「カース殿、ここで会ったのも何かの縁。一勝負お願いできないだろうか?」


「一勝負金貨一枚ですわ。もちろん前払いでお願いいたします。」


アレクがマネージャー的存在になっている。


「あい分かった。ではこちらへ。」


その人はアレクに金貨を渡すと私達を訓練場のような場所に案内した。


「騎士学校の剣術試験ルールでいかがだろうか?」


「どんなルールですか?」


「開始時の位置は二メイル離れており、魔力の使用は禁止。つまり武器が折れても魔力庫から取り出すことは禁止となっている。」


騎士相手に魔法なしって無茶言うなって話だよな。しかしこれも経験だ。やってみよう。


「いいですよ。他に禁止はないですよね?」


「ああ、ないとも。ではアレクサンドリーネ嬢、合図をお願いできるだろうか?」


「いきます。双方構え!」




「始め!」


『飛斬』


ん? 何も飛んで来ないぞ?


『飛突』


ん? 警戒してもやはり何も飛んで来ない。そりゃ魔力禁止だから当たり前ではあるが……つまりこいつはブラフを利用するタイプか。

こちらは装備の力でごり押しだな。技術や体力では勝てそうにないし。


「飛斬」


私も言ってみた。少しピクッと反応している。ブラフを利用する奴はブラフに弱いのか?


「無尽流奥義……」


それだけで奴は警戒する。私に奥義が使えるわけないだろう。


「変移抜刀霞斬り!」


「くっ、やるな……」


いやいや、ただの袈裟斬りだよ。


「ならば受けてみよ! 無限一刀流奥義……」


おっ本気になったか?


「脳天唐竹両断斬」


ぐおっ……

こいつ唐竹と同時に右の回し蹴りをしやがった……芸達者なやつめ、頭への攻撃は避けたが蹴りをくらってしまった。大したダメージはないものの腹に少し衝撃がきたかな。

騎士ってこんな戦い方をするのか? スティード君とはえらい違うな。


「なかなかやりますね。では僕も奥の手を見せましょう。無尽流秘奥義……」


おっ? 警戒の色が見えるな……


「浦波斬奸胴」


何のフェイントもないただの横薙ぎだ。虎徹だからな、防御は無意味だ。


「ぐふっ」


奴の木刀をぶち折り胴を直撃する。終わりだ。しかし妙な戦いだったな。次やったら勝てそうにないから早く帰ろう。


「じゃあ帰りますね。たぶん肋骨とか折れてますからお大事に。」


「君は、剣術も……」


「装備の力に頼ってるだけです。」


結局名前を聞いてなかったな。まあいいや。


「じゃあアレク行こうか。どこかでお茶でもしてから帰ろうか。」


「ええ、今度は私の奢りね。」


この分だと、今後も挑戦者が増えるのか?

一勝負で金貨一枚貰う上に負けても損はないから問題はないが、面倒なのは面倒なんだよな。

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