第408話

オディ兄の新居を訪問する。これで三回目ぐらいだろうか。平民宅より少しマシな家だが、オディ兄の年で新居を現金一括で買うなんてすごいことだ。


ドアを強めにノックする。いるかな?


「マリー! いるー?」


この時間、オディ兄はたぶんいない。

ドアが開きマリーが顔を出す。


「坊ちゃん、お久しぶりです。ようこそお越しくださいました。どうぞお上りください。」


「お邪魔します。」


昼前、亭主は留守、新居に新妻と二人きり。ドキドキするな。


私は事情を伝える。


「なるほど、具現化してしまわれたのですね。相変わらず驚かせてくれますね。」


「何か勇者が関係してるって聞いたけど?」


「ええ、ローランド王国三百年の歴史の中で召喚魔法で魔物を具現化できたのは勇者とその仲間だけです。勇者ムラサキは白い狐、七色の魔法使いイタヤ・バーバレイは白い隼を呼んだそうです。その際勇者は一週間、イタヤは四日ほど意識が戻らなかったそうです。」


「じゃあ勇者よりイタヤの方が魔力が高いってこと? しかもあの状態って魔力が空になってなおかつ回復しないよね?」


「そうです。こと魔力に関してはイタヤが最大だと思います。そして坊ちゃんが一日もかからず回復したことから、坊ちゃんの魔力は勇者達をも超えているようです。ご立派になられましたね。」


「本当!? かなり嬉しいんだけど!?」


信じられない! 嬉しすぎるぞ! 私はついにそんなところまで到達したのか!


いや……慢心してはだめだ!

あくまで魔力限定の話だ!

勇者達より強くなったわけでも魔法が練達したわけでもない。ただ魔力が高いだけだ。油断せずにいこう。


「それで魔物が具現化すると何かいいことはあるの?」


「そうですね……通常召喚獣というものは呼ばれてる間中魔力を消費します。そして術者の魔力が無くなれば自然と消えてしまいます。ところが具現化された魔物はもはや召喚獣ではなく、一つの生物として存在します。ゆえに魔力を消費することはありません。餌は必要ですがね。」


なるほど。レンタルか購入かの違いみたいなものか。


「どちらにも共通することは、対象が死ぬまで次を呼べないことです。当然どちらも首を切られたりすれば死にます。注意してあげてください。もっとも勇者達の召喚獣は相当に強く魔王と戦うまで死ぬことはなかったそうです。」


つまり魔王との戦いで死んだってことか?


「その分なら何も心配することはなさそうだね。普通に首輪を着けてたらペットと変わりないだろうし。」


「それでよいと思います。白い狼は確かに珍しいですが、具現化した魔物と通常の魔物の区別などつくものではありませんから。」


「分かった! いつもありがとね! これ、オーガベアの肉。オディ兄と食べてよ。じゃあまたね!」


「また来てくださいね。お待ちしております。」


いい話を聞いた。しかし新たな疑問が生まれてしまったぞ? これは母上に聞こう。帰って昼ご飯を食べながら。

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