第405話

週末、とある貴族の邸宅。領都内の貴族としては大きい方だろう。


「どうなってんだよ! あいつら来ねーのかよ!」


「知らないわよ! あのカス次第みたいなんだから!」


「何だよそれ! 高慢女が決めるんじゃねーのかよ!」


「知らないわよ! あの女が言うにはカス男は気まぐれだから分からないってことよ!」


「つまり来ねーのかよ! なら寮に呼びに行ってみろよ!」


「もう行ったわよ! そしたらケルニャの日の放課後からいないのよ! 外泊届だって出されてたし!」


会場では熟練の楽団による演奏が空しく響いていた。誰も踊ることもない演奏に指揮者、奏者ともに気分を害していた。二度と彼らの依頼を受けることはないだろう。


何も知らない一般参加者からすると何を揉めているのか不可解だったことだろう。まあまあ上級の貴族、魔法学校生と貴族学校生が互いに罵り合っているのだ。もはや呑気に踊る雰囲気でもないし、食事もしたしさっさと帰るのみだ。


もちろん最後までアレクサンドリーネとカースが来ることはなかった。実際には彼らは命拾いしたのだが、もちろんそれに気付いた者はいない。懲りない彼らは次の陰謀を練ることだろう。





そして週始め、ヴァルの日。

カースに送り出されたアレクサンドリーネは寮に立ち寄ってから学校に行く。何人かの同級生を見てパーティーに誘われていたことを思い出した。しかし、行くと約束をした訳でもないので気にすることもなかった。




そして昼休み。


「アレクサンドリーネ様ー! ご都合が悪かったんですかー?」

「残念ですぅ! お待ちしてたんですよぉ」

「華やぎが足りませんでしたわぁ」


「ごめんなさいね。色々あって行けなかったの。」


「外泊されてたんですよねー? どこにお泊りだったんですかぁ?」

「きゃー! お泊りですって!?」

「さすがアレクサンドリーネ様! 進んでるぅー!」


「カースの家に居たわよ。あっという間の週末だったわ。カースが心配ばかりかけるものだから。」


「キャー! あの素敵な彼と二人っきりの週末を過ごされたんですね!?」

「彼ってどちらにお住まいなんですかぁ?」

「でも彼ってクタナツの方なんじゃ?」


「貴族街に家を持ってるわよ。週末だけ私に会いに来てくれるの。」


「週末だけですか? それって……」

「嫌な予感がしますわ……」

「まさか他に本命の女が……」


その瞬間アレクサンドリーネの杖が彼女の喉元に突き付けられていた。


「不愉快な言葉が聞こえたわ。そんな口はどれかしら? 貴女? それともアナタ?」


アレクサンドリーネの魔力が高まり杖に集まる。その魔力を解き放ったら彼女達は……


「ち、違うんです……私はただ……」

「た、ただの予感が……」

「アレクサンドリーネ様ほどの女性がこの世にいるはずもないですわ……」


「カースには私しか見えていないわ。次に下らないことを言ったら……その口が凍りついて開かなくなるかも知れないわね……」






その夜、魔法学校の女子寮、とある一室にて。


「やっぱりあの女おかしいわ! 関わらない方がいいわよ!」

「私も聞いてたわよ……イカれてるわよね……」

「そんなに? どうするの?」

「あのカス下級貴族男にゾッコンみたいよ?」

「頭がおかしいわね。どうするの? まだやるの?」


「こうなったら毎週末よ! 毎週末パーティーを開けばどれかには来るでしょ!」

「なるほど! それなら来るかもね!」

「貴族学校の馬鹿どもは何て言ってるの?」

「さあ? まだまだ懲りてなさそうよ?」

「やる気なのね。私達はどうする?」


「やるわよ! あいつら許せないわ! きっと腹の底では私達を嘲笑ってるのよ!」

「そうね! そうに違いないわ!」

「ならいっそパーティーは小規模でよくない? お茶会とかさ!」

「ドンピシャね! それいいわ! それなら目撃者も少ないだろうし!」

「よーし! 吠え面かかせてやるわよー!」


彼女達の陰謀はまだまだ終わらないらしい。

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