第400話

そしてまた数日後の夕食。アレクサンドリーネの周りに何人かの女の子がやって来る。


「アレクサンドリーネ様ー! 聞きましたわ! 今週末のパーティーにはお出になられないんですね」

「そこで来週末ならいかがですか? 何でも楽団の質がいいらしいですわ!」

「アレクサンドリーネ様とステキな彼がいらして下さると場の華やぎが違うんですぅ〜。助けると思って来てくださいぃ〜」


「そ、そうね。カースに頼んでみるわ。でもあまり期待しないでね。彼って結構気まぐれだから。」


「ありがとうございます!」

「また華麗なステップを見せてくださいね!」

「楽しみにしてますねぇ〜!」




アレクサンドリーネは上級貴族である。それだけに悪意に敏感である、はずだ。

しかしカースを褒められて嬉しい気持ちが大きくなったのだろうか。彼女達の悪意に気付いた様子がない。





カースのいない週末。アレクサンドリーネはギルドにて依頼を受けていた。クタナツでも何度かやったネズミ捕りだ。九等星になった彼女にとって割の良い仕事ではないが、細かい魔力制御を鍛えるには丁度よかったりする。





冒険者の中にはアレクサンドリーネに食事やデートの誘いをかけてくる者も多い。彼女は服装、雰囲気ともに貴族丸出しなので実力行使に出るものは今のところいない。


「アレクサンドリーネちゃんお疲れ! 今日も頑張ったみたいだね! どうかな、いい店知ってんだ! 奢るから行かない?」


「いつもありがとう。寮だから門限があるの、ごめんなさいね。」


このようなやり取りをだいたい三〜五回は行っている。別パターンとしては、


「今日こそ付き合ってもらうぜ! また今度また今度って一体いつになったら一緒に行ってくれるんだ!」


「じゃあ『ベイルリパース』か、『ヘイズクラッセ』に行きたいわ。あそこのフルコースが美味しいって聞いたの。」


「ぐっ……」


ランチで金貨十〜二十枚、それがディナーのフルコースだと一体いくらかかるのか……若い冒険者には想像もつかない金額だろう。金がないとも言えず、すごすごと引き退る。

さらに別パターンは……


「ア、アレクサンドリーネたん……こ、これ……プレゼント……」


「あ、ありがとう。」


プレゼントを渡すだけの毒にも薬にもならない存在もいる。こんな訳でアレクサンドリーネにとって一人でギルドに来るのは一苦労と言えよう。


そんなギルドからの帰り道、ふとカースが恋しくなってきた。次に会う時は一緒に風呂に入ることができる。全身で抱きつくことができるのだ。別々の湯船は暖かくも空虚だったのだから……


これからも一緒に風呂に入れないこともあるだろう。体調を崩すこともあるだろう。アレクサンドリーネは自身の成長が喜ばしくもあり、疎ましくもあった。そういった事情を解決する魔法は教会でかけてもらうこともできるが、将来の生殖能力にわずかだが悪影響があるらしい。カースとの将来を夢見る彼女にとってその選択は有り得なかった。


そのようなことを考えながら寮の自室へと帰り着いた。これから夕食までは勉強の時間だ。色んな場面に対応するべくコツコツと新しい魔法を覚えていく。


このような過ごし方は魔法学校の上位陣なら当然だ。先日アレクサンドリーネに首席の座を奪われた女の子、アイリーンは休日は朝から剣術や槍術の道場で汗を流していることが多い。彼女には接近戦でも魔法でも強くなりたいという強い意志がある。そのため今は首席だとしても少しでも手を抜くと再び奪還されることになってしまう。それなりに厳しい学校である。


それだけに、アレクサンドリーネは二週間に一度のカースとの逢瀬を心から楽しみにしている。先週末はカースの来訪に気付けず寝込んでしまっていた。もしそれでカースがクタナツに帰ってしまったとしたら……考えるだけで絶望に襲われる。あれほどの高級ポーションを届けて貰わなければその日はずっと寝込んでいたはずだ。男性であるカースには難しかっただろう、よく機転を利かせてくれたものだ。カースにもマーリンにも深く感謝していた。あの時にポーションを奪った三人組には実技の授業にたっぷりお仕置きをしておいた。アイリーンの取り巻きだが、アイリーンが気にした様子はなかった。


そして体調の悪い自分をオロオロしながら気遣ってくれるカースが、ますます愛おしくなった。

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