第401話

ヴァルの日、アレクを送り出してから私は再び楽園へと向かった。基礎を仕上げてしまおう。


到着。城壁を越えて内部に入る。変わりはなさそうだな。作業開始だ。ご安全に!


さて、建物の基礎が二メイルほどなので、敷き詰めた岩の頭を切り揃えなければならない。これはもう簡単だ。水斬で昼までに済んだ。


昼食は昨日の残りなので豪勢だ。コーちゃんも喜んで食べてくれた。昼からも頑張るぞ。


さて、昼からは岩と岩の間を埋めよう。小さい岩を隙間に配置しつつ自家製コンクリートを流し込む。外壁と違って建物を置いたら補修がしにくくなるからな、しっかり作っておかねば。


結局その作業が終わったのは翌日の昼だった。コンクリ作業は途中でやめられないこともあるが、作業中に投げ込まれたゴミを発見してしまったのだ……

つまり、侵入者か! ここで肉を焼いて食事をして、骨や不要な部分を捨てたと……

城壁を越えてわざわざこんな中心部までやって来て、ゴミを持ち帰らず捨てて帰ったと……

どうしてくれよう!

ここまで来れるってことは相当腕利きのパーティーなのだろう。しかし腕とマナーは別物か……


でもこれで基礎もバッチリだ! どんな豪邸でもドンと来い! 寝よ……




起きたら夜中だった。何時だろ、真っ暗で全然分からない。基礎が終わったらクタナツに帰るつもりだったが、予定変更だ。難攻不落の城壁にしてやる! 空を飛ぶ相手は諦めるとして、そうでない限り侵入できないように!


どうせ周囲は何もない平原だ。何をやっても構うことはない。まずは堀だ! 城壁から二十メイル外側に堀を作ってやる! 魔物対策にもちょうど良さそうだし。


まずは縦穴を掘る。縦穴を掘ったら前回の基礎と同様に地下をミスリルギロチンで切り進む。ある程度切り進んだらケーキをカットするように上から垂直に地面に切れ目を入れる。後は『浮身』で土の塊を取り出すって寸法だ。

ミスリルギロチンが大活躍。取り出した土や岩は全て堀の外側に積み上げる。これは後で使うつもりだ。

まずは深さ十メイル、幅は二十メイルにしよう。かなり時間がかかりそうだが、じっくり取り組むとしよう。


だいたいの方針は決まったので、再び寝る。再開は朝からだ。二週間でどこまでできるかな?



そんな日々の作業中、珍しくコーちゃんが「ピュイーピュイー」退屈だよー遊んでよーと伝えてきた。これは面白そうだ! よーし、それならフリスビーなんてどうだい? 何? やってみたい?


鉄でフリスビーを作ったらコーちゃんが咥えられそうにないので、魔物の頭蓋骨を適当に削って作ってみる。すぐにでも遊びたそうな目でウズウズしている。そんなコーちゃんも可愛い!


よし、出来た!

「コーちゃんいくよ! とっておいで!」

「ピュイーピュイー!」


速い! フリスビーを先回りして待ち構えている! パクっと咥えてシュパッと戻って来る。


「コーちゃんすごい! じゃあもっと速くするね! それっ!」

「ピュピュピュイー!」


今度のフリスビーはコーちゃんと同じぐらいの速さだ。だんだん失速しコーちゃんがフリスビーを追い抜く。シャシャっとジャンプし見事にキャッチ! 芸達者な精霊だよな。何て可愛らしい。


結局日暮れまで遊んでしまった。たまにはこんな日もいいよね。コーちゃんも喜んでくれたし。よし、明日から本気出す。




堀の壁面だが、当然ながら剥き出しの土だ。そのため崩れる心配がある。コンクリで覆ってしまおうかとも思ったのだが、量を考えたらウンザリしたのでやめた。そこでアイデア。壁面を高温で焼いてみてはどうだろうか? 陶器のように仕上がらないだろうか。


やってみよう。


『燎原の火』


壁面に沿って火を走らせる。五分ほど低温で焼き、それから魔力を注ぎ温度を上げる。通常の『燎原の火』は枯れ草に火が点く程度の温度だが、魔力でごり押しすれば鉄が溶ける高温にすることも難しくない。それ以上に温度が高い火球でコツコツやってもいいのだが、さすがに面倒だ。それにいきなり高温にするとよくないことが起こりそうだしね。ゆっくりだけど広範囲をまとめて仕上げるわけだ。


そんな温度で焼くこと十五分。陶器から考えると短過ぎるが、まずは実験だし。どうかな?


固い! 固形になっている! もちろん釉薬など塗ってないので光沢などあるはずもないが。いわゆる素焼きだろうか? 壁面がそのような質感になっている。

頑丈さはないだろうが、土がポロポロ崩れさえしなければいい。


こうやって地道に作業を進めること十日。立派な堀が出来た。ミスリルギロチンがすっかり土木工事の道具と化してしまった。いや、木を切るのも土木工事か? それならいいのかな。


ここに落ちた魔物は這い上がれるのだろうか? 這い上がれなければ死あるのみ。それは人間でも同じだろう。

まったく、ゴミさえ捨てなければ勝手に入るぐらい構わないのに。


さて、この堀だがどうしよう? このままにするか水を溜めて魚でも放してみようか? ピラニア的な危険な魚なんかどうだろう? 要検討だな。


他に侵入者を防ぐ方法は……城壁の上に『返し』をつけるか。ネズミ返し的な加工ができないだろうか。これも要検討としよう。


実は曜日が分からなくなってしまった。だからいったんクタナツへ帰ろう。うっかり週末をスルーしてしまったら大変だ。


最後に、南東の要石に『カース・ド・マーティン』と彫っておこう。ここは私の自宅なのだ!

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