第399話

ヴァルの日、カースがクタナツに帰る朝。アレクサンドリーネは一度寮に帰り仕度を整えてから学校に行く。この寮は無断外泊には厳しいが、前日までに届け出をしておけば何ら問題なく外泊が認められる。


授業の時間割は王国中どこでもだいたい同じ、午前三時間、午後二時間だ。


一時間目、実技。

標的射撃や標的破壊など、実際に魔法を使う授業である。


二時間目、魔法理論。

日々新しい魔法の詠唱を覚える授業だ。暗記が中心なので記憶力に自信がないものには辛い授業である。


三時間目、魔力放出。

魔力を絞り出す授業。細く長く、または太く短く。様々な方法で魔力を放出できるようにする授業。


昼食。


アレクサンドリーネの元には毎回男達がやってくる。前後左右の席を狙っていつも争っている。カースの存在は知られているが、余興を見た者以外は所詮は下級貴族と歯牙にもかけていなかった。もっともそんな彼らを歯牙にもかけないのはアレクサンドリーネも同じなのだが。


四時間目、体育。

身体強化などの魔法を使うことが前提の授業。木刀や槍などを使うことはないが、杖を持ったまま走りながら魔法を使うことはよくある。


五時間目、実技。

対戦形式の授業。離れた相手と魔法を撃ち合ったり、襲ってくる魔法を躱したり防いだり。月に一度は順位を決めるランク戦も行われる。


放課後。

もちろん帰ってもいいし、好きに過ごしてよい。宿題などないのだから。

アレクサンドリーネは標的射撃を行うことが多い。すぐに帰ると男達に囲まれてしまうことが多いのも理由の一つだったりする。


しかしこの日は違った。

硬そうな金属の塊を相手に標的破壊に励んでいた。昨日カースから習った方法を試しているのだ。ゆっくりと氷弾に魔力を込め、言われた通りの回転をイメージして撃ち出す!

一発を撃つのに普段の五倍ぐらい時間がかかっている。その割に威力は二倍にも満たない。どうやら先は長そうだ。


入学当初はクタクタに疲れる前に魔力が切れていたが、現在はほとんど魔力切れなど起こらない。そのため先に体力が尽きてしまうようになってしまっていた。


日が暮れるまで練習をしたら夕食の時間だ。女子寮なので纏わりつく男達はいない。代わりに寄ってくる女の子達がいる。


こちらもまた最近の行いのせいでパーティーへの誘いが増えてしまった。この日も……


「アレクサンドリーネ様ー! 今週末にダンスパーティーがあるんです! あのステキな方とご参加いただけませんか?」

「お二人のステキなダンスをまた拝見したいですわ!」

「お二人ともステップが鋭くて、ぜひお手本をお見せくださいよぉ」


「ごめんなさいね。今週末はだめなの。」


今週末はカースが来る日ではない。カースは二週間に一度領都に来てくれるが、普通は往復だけで二週間かかってしまう。つくづくカースの凄さに思わず笑みがこぼれてしまった。


「あー! アレクサンドリーネ様からラブの匂いがしますよー!」

「彼のことを考えてらっしゃるのね!」

「彼のどこが好きなんですかー?」


普段あまり会話をしない相手でもカースのことを聞かれると悪い気はしない。口も軽くなるというものだ。


「難しいわね。魅力があり過ぎて伝え切れないわ。」


「深いですね! 私達には難しくて分かりませんわ!」

「そんな深い魅力を持った男の子なんですね!」

「きゃー! 羨ましいですわ!」


「うふふ、ソルもそう言ってたわ。」


「ソルダーヌ様ですか? 彼のことを?」

「三角関係!? 修羅場ですか!?」

「ドキドキですね!」


「昨日辺境伯閣下とお会いしたんだけど、カースにソルを貰ってくれっておっしゃってたわ。もちろんカースは断ったけど。」


「そ、それは……」

「すごいんですね……」

「愛ですね……」


彼女達はこれっぽっちも信じてない顔だった。アレクサンドリーネにしても信じてもらえるとは思ってないのだろう。たまには誰かにカースを、そしてそんなカースに愛されている自分を自慢したかった、その程度の発言だ。





寮の一室。女の子達は揃って計画を練っていた。


「あの女頭おかしいんじゃない?」

「だよねー! 辺境伯と会ったのはまあ本当かも知れないけどさー」

「ソルダーヌ様なら王族でも公爵家でも選り取り見取りなのにね!」

「あれで見栄を張ってるつもりとか?」

「いやいやハッタリにもなってないわよ! 誰があんなカスみたいな下級貴族に、ねぇ?」


「それはそうと生意気に今週末はだめって言いやがったわね!」

「どうするの? 再来週に延期してまた誘い出す?」

「場所は何とかなりそうよ。例の貴族学校の馬鹿ども、あっちから接触してきたわ」

「これぞ天祐ね! なら焦ることはないのかしら? 再来週でもいいんじゃない?」

「そうね。今度は私が誘ってみるわ。ところであのカス下級貴族はどこに住んでるのかしら?」


「週末以外は見たことがないわよね。どうせ場末の宿か下級貴族街にでも身を潜めてるんでしょう」

「週末以外はあの女からお呼びがかからないってわけね」

「じゃあ居場所を突き止めれば色々と工作もできそうね?」

「ハニートラップね。頭も悪そうだしアリよね。少し高めの娼婦でも寄越してやったらホイホイ言うこと聞きそうよね!」

「男って馬鹿だもんねー。あーあ、どこかに金持ちで二枚目で理知的で私だけを見てくれる上級貴族の若い独身いないかなー」


この発言をした女の子以外の心に共通したことは、

『そんな男はアンタを選ばねーよ!』

であった。


ちなみにここに集まっている女の子は下級貴族の上位から上級貴族の下位ぐらいである。全員領都育ち、これでも仲は良い方である。

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