第395話

門番さんに挨拶するアレク。

すぐに正門が開かれ中へ招かれる。ダミアンはいるのかな?


「おはようございます。アレクサンドリーネ様、カース様。ようこそお越しくださいました。旦那様がお待ちです。」


「おはようセバスティアーノさん。辺境伯閣下が? カースを?」


「ええ、もしお越しになられたらお連れするようにと。」


「いいですよ、行きましょう。ところで今日はダミアンは?」


「ダミアン様はまだお休みです。昨夜はかなり飲まれたようで。」


いい気なもんだな。きっとアレク像の出来が良くてご機嫌だったんだろう。


私達が案内されたのはおそらく辺境伯の自室。


「旦那様、カース様がお越しになりました。」


「入ってくれ。」


中は意外とすっきりしており上品な家具、絵画等が数点見受けられた。


「二人ともよく来てくれた。座ってくれたまえ。」


「「失礼します」」


昨日は気にしてなかったが、この人が辺境フランティアの支配者か。目つきも鋭い、緊張してきた。


「カース君、昨日はダミアンが世話になった。ありがとう。お礼と言うほどではないがミスリルの代金は必要ないよ。良いものを見せて貰った対価だ。」


「ダミアン様の芸術的センスの賜物かと。私は魔力を垂れ流しただけですので。」


「ミスリルを加工できるほどの膨大な魔力を垂れ流しか。それでまだ十二歳、君が辺境に居てくれて嬉しく思うよ。ところでアレックスちゃん、彼のような男をどうやって射止めたんだい?」


「よく分かりませんわ。クタナツでは私のような上級貴族は敬遠されがちですが、カースは平民に接するのと変わらない態度で接してくれたからでしょうか。気付いたら彼しか見えなくなっていました。」


そうだったのか。照れるけど嬉しいぞ。私も似たようなものだしな。


「そうかそうか。実はソルダーヌの婚約が中々上手くいかなくて困っていてね。カース君に貰ってもらえないものかと思案しているんだよ。」


何ー!? それは困る!


「カースがいいならいいですわよ。ただし側室か妾になりますが。」


アレクはいいんかーい!


「いえ、もちろん要りません。私もアレクサンドリーネしか見えてないもので。」


「ふふふ、羨ましい関係だ。ソルダーヌにもそんな相手がいればよかったものを。戯れ言だ、聞き流してくれたまえ。」


「上級貴族との付き合いは緊張しますので、なるべく遠慮しておきたいところです。ではそろそろお暇いたします。本日はありがとうございました。」


「失礼いたします。」


部屋の外にはメイドさんがいた。見覚えがあるような無いような。


「ダミアンの部屋に案内してもらえますか?」


「かしこまりました。こちらです。」


歩くことおよそ六分。やはり広いな、ここは。


メイドさんはノックをするが返事はない。


「鍵は空いてますか? それなら後はいいですよ。」


メイドさんはそそくそと去っていった。

私達は容赦なく入室する。


「おーいダミアン起きろー!」


この距離からでも酒臭い。やっぱ帰ろうかな。全然起きない、帰ろう。アレク像はセバスティアーノさんに聞けば分かるだろう。


「お、おおカース、来てたのか……」


やっと起きやがった。上半身裸かよ、弛んだボディを見せるんじゃない!


「おはよ。昨日のアレク像はどこにある? 持って帰るからな。」


「あ、ああ、そ、それなんだが……」


「どうした? まさかぶっ壊した訳じゃないんだろ?」


「い、いやその……あ、あのな……落ち着いて聞いてくれ、そ、その……」


何だ? こいつにしては歯切れが悪いな。


「じ、実はな……あれから飲んでたらな……気分が良くなっちまってよ……なぜかあの像のオークションが始まったんだよ。俺も値段が上がるのが気持ち良くてよ……最終的に金貨八千五百枚で売れちまった……すまねえ……」


「ギャワッギャワッ!」


何てこった……

それを無理矢理取り戻すことはできるだろうが、さすがにそんな無茶はしたくない。せっかくアレクが頑張ってモデルをやってくれたのに……

コーちゃんも怒ってる。


「ごめんよアレク、せっかくモデルをしてくれたのに。コーちゃんも……」


「いいのよ。仕方ないわ。でもカース、友達は選ばないといけないわね。」


「言葉もねぇぜ……もちろん金は全額渡す。もう一度作ってもいい。」


「よし! それだ! もう一度作ろう。今度はミスリルの量を増やして完全に等身大で作ろう! 仕入れは任せていいな?」


「お、おう! たっぷり仕入れて凄いのを作ってやる!」


「ごめんねアレク。大変だと思うけど、もう一度モデルをやってくれないかな。コーちゃんもお願い!」


「いいわよ。」

「ピュイピュイ」


「よし! じゃあミスリルが用意できたら教えてくれよ。昨日のを上回る傑作を作るぞ! 金はまたでいいからよ、仕入れに使いな。」


「おお、すまねえ。任せておいてくれ!」


こうして再びミスリルのアレク像を作ることになった。ダミアンのベットの中では不自然な膨らみがゴソゴソ動いていたが、知らないふりだ。いきなり来たのが悪かったな。


くそー! どこのどいつがオークションなんか始めやがったんだよ! いくら余興の時間だからってそんなのアリかよ! アレクの初モデルだったのに!

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