第396話

全く、やはりダミアンは盆暗か。何があったらそんな展開になるんだか。


あ、せっかく領都にいるんだから家をチェックしておこう。こんな場合は、辺境伯に聞いてみよう。またまたその辺のメイドさんに案内を頼む。さっき行ったばかりなのにもう部屋が分からなくなってしまったのだ。


「度々申し訳ありません。失礼します。」


「おや、カース君。どうした?」


「少しお聞きしたいことがありまして、動かせる豪邸を作りたいのですが、領都ではどこの商会に頼むのがよいでしょうか?」


「動かせる豪邸? よく分からないな。だが領都で一番信頼できる商会ならば、マイコレイジ商会かな。難しい注文ならあそこがいいだろう。」


「ありがとうございます! 突然失礼しました!」


「ああ待ちたまえ。それなら紹介状を書いてあげよう。持って行きたまえ。」


おお、それは心強い。


そして三分後。


「待たせたね。どこに建てるんだい?」


「アレクに内緒で驚かせる計画なもので……お耳を。」


おっさんに耳打ちかよ。耳元でボソボソと場所を伝える。微妙な顔をしてるな。 そりゃそうだ。イカれてると思うよな。

今度こそ帰ろう。





「カースったらそんな用事で辺境伯のお部屋に再び行くなんて……」


「そうだね。セバスティアーノさんでもよかったかな?」


「マイコレイジ商会なら私だって知ってるのに。」


そりゃそうか。やっぱりアレクは頼りになるなぁ。


「じゃあ今から行ってみようよ。案内を頼めるかな?」


「もちろんいいわよ! なら馬車で行かないとね。」


すると、どこからともなくセバスティアーノさんが現れて馬車を用意してくれた。結構よさそうな馬車だ。




馬車に揺られること十分。ベイルリパースなどが軒を連ねるエリアだ。


「ありがとうございました。もう帰られていいですよ。お疲れ様でした。」


馬車を帰らせて店に入る。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。変わった家を建てたいと思っております。これは紹介状です。」


「拝見いたします。こ、これは! 少々お待ちください!」


あー、辺境伯の紹介状にはそんな効果もあるか。


「大変お待たせいたしました。私、番頭のモーガル・ガポネーゼと申します。」


「カース・ド・マーティンです。こちらはアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル。」


お、納得顔になった。アレクサンドル家なら辺境伯の紹介状を持っていても不思議ではないからな。しかしそもそもアレクサンドル家なら紹介状など必要あるまいに。


「今回はどのようなご依頼でいらっしゃいますか?」


移動できる豪邸が欲しい旨を説明する。ただ一度移動してしまえばそれで終わりなのだが。


「お話は分かりました。基礎ごと作りまして収納していただけるなら問題ないでしょう。」


「基礎の厚みはどのぐらいになりますか? すでに現場に基礎を作ってあるもので。」


「だいたい二メイルぐらいですね。お屋敷の広さや間取りはいかがいたしましょう?」


これは説明が面倒なので、今から我が家に来てもらうことになった。

我が家の敷地面積はおよそ三千平方メイル。そのうち建物が六百平方メイルもないぐらい。この建物をそのままコピーしてもらってもいいが、予算次第だな。

全く……つくづく豪邸だよな。クタナツでは考えられないレベルだ。




あらかた案内してから聞いてみた。

「これだけの建物だといくらかかりますか?」


「うーむ、かなりの豪邸ですからね……金貨五千枚は見てもらわないと……」


「いいですよ。ついでに広い庭を警護するのに何かいい方法はないですか?」


「え!? よろしいんですか!? ちなみに広いとおっしゃいますと……」


「四平方キロルぐらいですね。ゴーレムみたいなのはいませんか?」


「その広さでしたら確かに番犬や番狼、番ゴーレムが必要でしょうね。手前どもでは番ゴーレムなら取り扱っております。持ち主の魔力次第で結構強いのが出来ますよ。」


適当に言っただけなのに、そんなのがいるのか。便利そうだな、番ゴーレム。


「カース、そんな豪邸をどこに持って行くの?」


「ふふふー、内緒だって言ったけどさ。さっき辺境伯にも言ってしまったから教えるよ。ノワールフォレストの森の南端部だよ。もう城壁もできてるし、整地も済んでる。建物を置くための基礎工事が終わってないけどね。」


「普通の人が聞いたら、頭がおかしいと思うわよ? 何でまたそんな所に?」


「理由はないんだよね。変わったことをしてみたくなってさ。そのうちノワールフォレストの森の北にも作ってみようか。」


「だめだわ。凄すぎて理解できないわ。でも楽しみにしてるからね。」


「もちろん最初の客はアレクだよ! むしろ僕らの新居だよね!」


「カース……//」


おっと、番頭さんを放っておいてはいけないな。


「そういう訳で発注します。前金ですか?」


「は、ははあ! 半分の金貨二千五百枚ほど前金でいただけますでしょうか。残りは完成時ということで。ゴーレムの件もその時にご説明いたしましょう。その広さですと少なくとも百体はあったほうがよいかと思います。」


「分かりました。完成はいつぐらいになりそうですか? 急ぎではありません。」


「二ヶ月ほど見ておいてください。ここよりも頑丈に仕上げる必要があるかと思いますので。」


ノワールフォレストって言ってしまったもんな。そりゃそうだ。


「お願いします。小さくなってもいいですから頑丈さを優先で頼みますね。ではお店に戻りましょうか。前金はカードで払いますので。」


そうして私達は再びマイコレイジ商会に戻り契約書を交わした。このような大口の契約の場合、契約魔法込みの契約書であることがほとんどだ。ざっと見たところ不備は無さそうだ。


クタナツでもそうだが、魔法を中心に発達しているためか、このような大金が絡んだ詐欺など聞いたことがない。魔力庫を悪用しての盗みは聞いたことがあるが。契約魔法に魔法審問で大抵の悪事は暴かれるんだよなー。


「付き合わせてしまったね。お昼ご飯にしようか。何が食べたい?」


「この通りならやっぱりベイルリパースかしら。久しぶりだし。」


こうして私達は豪華ランチを楽しんだ。やはりこの店は美味しいな。

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