第394話

翌朝、パイロの日。私はアレクによって起こされた。


「おはよう朝よ。ご飯にしましょ。マーリンが呼んでるわよ。」


「おはよ。あ、顔色が少し良くなってる!」


「もう、休めばよくなるって言ったじゃない。」


「よかった。もう心配で心配で。朝ご飯はきっとすごいよ! 早く食べようよ!」




おお、朝から豪勢だ。食べきれるかな?


「おはようございます。参りましたよ坊ちゃん。早朝から門の前に馬車が停まっているもので何事かと思いました。」


「おはよ。面倒をかけたね。ぜひ一緒に食べようよ。さあ座って座って。」


「いえいえ、そうはいきませんよ。でも残ったら遠慮なくいただきますね。」


なるほど、それもいいな。


「カース……何これ……」


「オーガベアとラスティネイルボアのレバーだよ。貧血にはレバーが一番らしいよ。」


「ご、ごめんなさい……私……レバーがどうしても食べられないの……せっかくカースが用意してくれたのに……」


「ピュイーッ!?」


しまった! 栄養のことしか考えてなかった! 確かに私も前世では肝が嫌いだった。母上はレバーが好きなもので忘れてた!

ちなみにコーちゃんは、こんなに美味しいそうなのに食べないの? と言っている。


「ああっ、そんな、泣かないで、いいんだよ、マーリンが食べるから! ね、ね、」


「せっかくっ、カースがっ、とって、きてくれたのにぃーうううわぁぁあーん!」


アレクが泣くなんて初めてだ! ど、どうしよどうしよ!

そうだ! そもそもマーリンの料理だ! 不味いとは限らない。子供の僕らが食べても美味しくなるよう料理してある可能性が高い! アレクが貧血だから云々〜と頼んでおいたので栄養重視の料理法かも知れないが、まずは食べてみよう。


「もしかしたら美味しいかも知れないから食べてみるね。美味しかったらアレクも挑戦してみるといいよ。」


まずはラスティネイルボアのレバー、これはトマト煮かな? どれどれ……

不味くはない。美味くもない。トマト部分は美味しいので食べるのに問題はないが……


次はオーガベアのレバー、薄切りにして炒めてある。どうかな?


「美味い! 何だこれ! 美味しいよ! 食べて食べて!」


全然臭くない! むしろ香ばしい! コリコリした歯応えもいい! 旨みが溢れるぞ!


「う……うん……頑張る……」


どうかな。


「美味しい……これなら食べられる……」


「やった! じゃあこれ全部食べていいよ!」


嬉しい! アレクは泣きながらパクパクと食べてくれる! これなら元気になるかな?


わずか五分。オーガベアの皿が空になった。他の料理は半分ぐらい収納しておこう。それ以外はマーリンに食べてもらおう。


「本当に美味しかったわ……まさかレバーがこんなに美味しいなんて思わなかった……」


「僕も初めて食べたよ。熊のレバーって苦いイメージがあったけど、こんなに違うんだね。オーガベアだからか、それともマーリンの腕か。もしくはギルドの解体がよかったのか……全部かな。」


「もしかしてそのオーガベアってかなり大きかった?」


「知ってるの? 確か六メイルぐらいあったかな。強かったよ。」


「噂だけど、何組もパーティーが全滅させられたらしいわよ。その相手がオーガベアだとか……」


全滅したのにその情報はどこから出たんだろう? まあ噂ってそんなものか。


「そんなことより元気そうだね。顔色も良くなったし。よかったよー!」


「ありがとうカース。昨日私がお風呂に入ってから行ったのよね? 書き置きを見て寂しかったけど……本当に嬉しいわ。」


抱き着いてきた。この力強さ。やはり元気になっている! 本当によかった。


「じゃあ治療院には行かなくていいかな? 今日も体調が悪そうだったら絶対行こうと思ってたんだよ。それなら辺境伯邸に行こうか。」


「もう、行かなくていいわよ。辺境伯邸には何しにいくの?」


「昨日ダミアンが彫刻したじゃない? ミスリルのアレク像を取りに行くんだよ。玄関に飾るんだ。」


「それもあったわね。驚くことが多過ぎてもう分からなくなったわよ。ミスリルを彫刻するなんてめちゃくちゃじゃない。」


「あんなパーティーにわざわざ参加したのはそのためなんだよね。アレクの可憐さ凛々しさをみんなに自慢するのとダミアンの宴会芸を堪能するのと。あいつやるよね。」


「でもカースが魔力を込めたんでしょ? しかもそんな状態で夜のカスカジーニ山に行くなんて……バカ……」


「いやー、居ても立っても居られなくてさ。貧血にはレバーだよね。」


その他の内臓も収納しておこう。内臓は傷みが早いらしいからな。


さて、アレクも元気になったし辺境伯邸へは歩いて行こうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る