第391話

一曲踊って休憩し、また踊る。

アレクが誰かと踊るのを見ていることもあった。彼女は目立つからな、隅に居てもバレてしまう。

横から見てるだけでも彼女の美しさは際立っている。


「アレクは綺麗だよねーコーちゃん。」

「ピュイピュイ」


え? 次は一緒に踊りたい?

さすがコーちゃん!!


アレクが踊りを終えて戻ってくる。


「おかえり。休憩したら次はコーちゃんと三人で踊ろうよ。」


「それはいいわね。面白そうだわ。」


そして私達は次の曲に合わせて踊り始める。

コーちゃんは既にノリノリだ。


「ピッピッピュイピュイ」


頭と尻尾を振り回して私達の周囲をグルグル回っている。その可愛らしい姿に注目が集まる。心なしか演奏にも熱が入っているのでは?

その上私やアレクの首や胴体に絡みついたりハイテンションだ。リズムに合わせて頭が揺れる。可愛すぎるぞ!


「ピピッピピュイピュイ」


終わった……熱い、いいダンスだった。

少しだけ拍手を貰ってしまった。コーちゃんにだな。


「よおカース、こんなとこにいたのかよ。探したぜ。来てねーのかと思って焦ったぞ。」


「おおすまん。色々あって隅に逃げてたわ。」


「もう三十分もすれば余興が始まるぜ。軽く打ち合わせしとこうぜ。」


「分かった。じゃあコーちゃん、アレクを頼むね。アレクは余興が始まったらコーちゃんと一緒に僕らのとこに来てね! 驚かせてみせるから!」


「分かったわ。楽しみにしてるわね。」

「ピュイピュイッ」


私達は別室に移動しミスリルの塊を目の前にする。これが金貨千五百枚分か……

等身大アレクには少し足りないかも知れないな。その辺りはダミアンに任せるとしよう。


「じゃあ魔力を流してみるから感触を確かめてみようか。」

『魔力放出』


ミスリルギロチンを作った時の五倍ぐらいを流してみる。


『風斬』


ダミアンが風の魔法を使う、が……


「だめだ、歯が立たねー!」


「じゃあ温度も上げよう。」

『点火』


室内だから火球はだめだ。点火でじっくり温度を上げよう。


「おい! 熱くて近寄れねーぞ!」


「そこからやれよ。オメーの腕ならできるだろ。このコートと手袋も貸してやる。」


耐熱性能抜群のサウザンドミヅチ製だ。


「おお! こりゃすごいな! 全然熱くねーな! こいつはいいもん貰ったぜ!」


放射熱で火事にならないよう注意しなければ。魔力の方向制御だけではさすがに限界がある。


「貸すだけだっての。ミスリルナイフは使うか?」


「いや、自前で用意してある。風斬だけが芸じゃないんだぜ?」 『金切』


おっ、職人御用達魔法の金切か。準備に三十分はかかるらしいが……


「おおー、すいすい削れるぜ! これならいける! 客の度肝を抜いてやろうぜ!」


後はこいつの腕次第か。コーちゃんと戯れるアレク像か……出来栄えが楽しみだ。


「いくぜカース! オメーの魔力に期待してるぜ!」


「おおダミアン! オメーの腕前に期待してるぜ!」


そして舞台袖でスタンバイ。


「皆の者! 余興の時間だ! うちの馬鹿息子からで申し訳ないが、気楽に見てやってくれ!」


辺境伯自ら進行するのか。面倒見がいいんだな。


「カース君、君のことはクタナツ代官からもダミアンからも聞いてる。余興などに付き合わせて申し訳ないね。」


「どうも初めまして。カース・ド・マーティンです。とんでもありません。この余興のために本日は出席しました。」


「今日はこの会場を壊さないでくれよ。」


「あはは、ご冗談を。頑張って参ります。」


さすがに城門の件は知られてるのか。それなのにあの対応とは、さすが辺境伯。器が大きいな。


「会場の皆様! 本日は放蕩息子と評判の俺の宴会芸をしっかり見てくださいや! アレクサンドリーネ嬢! 舞台に上がってくれ!」


アレクは堂々とコーちゃんを連れ舞台に上がってきた。


「俺が氷の彫刻を得意としていることは皆もご存知だろう! 今日はミスリルだ! ミスリルのアレクサンドリーネ像を彫刻してみせる!」


会場からはどよめき半分、嘲笑半分だ。


「もちろん俺の腕と魔力だけでは不可能だ! そこで協力してくれるのは俺のダチだ! シャイな奴なんで顔は隠してるがな。」


アレクと一緒に踊ってる時点で隠す意味はなさそうだけど一応ね。ボロい黒ローブで全身を隠している。怪しい魔法使いに見えるだろぉ〜?


「さあ、アレックスちゃん! こんな風にポーズをとってくれ。」


「こうですか?」


それは杖を構えて魔物に対抗する凛々しいポーズだった。いいのか? 難易度が上がったんじゃないか?

その上コーちゃんまで絡みついて凛々エロい! こいつのセンスはすごいな。


いくぞ!

先ほどの十倍ぐらいの魔力を込める。そしてゆっくり温度を上げる。いつもは風斬で彫刻をするダミアンだが、今日は手だ。いくらコートに手袋をしても顔は熱い。私にできることは頭から水をかけてやることぐらいだ。


いつもながらこいつが彫刻をする時は一心不乱だ。とても放蕩息子とは思えない。会場はその気迫に静まりかえっている。やはり宴会芸で済ませていいレベルでない。




十分経過……

アレクは大丈夫だろうか。同じポーズをとって動かないことは動き回るよりキツいはずだ。コーちゃんもアレクに絡みついて動かない。えらいぞコーちゃん!


削れ落ちたミスリルは集めて再び肉付けしておこう。もったいないからな。あまりやると全体のバランスが崩れるか、ほどほどにしておこう。



二十分経過。


「カース! 温度を下げてくれ! ここからは緻密に削るぜ!」


温度が高いと常温バター状態だもんな。おおまかに削る分にはいいが、アレクの魅力を引き出すにはやや固くないと削りにくいのだろう。魔力放出は維持しつつ、温度は下げる。それでも鉄が溶けるぐらいの高温ではあるが。


アレクも熱いんじゃないか? 心配だ……

『風操』『氷霰こおりあられ

せめて涼しい風を送ろう。


予想以上に時間がかかっている。もう会場は飽きているぞ。途中から辺境伯の機転で音楽が再開しておりあちらこちらで踊る人が増えている。がんばれダミアン。

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