第378話

「坊ちゃん! 先ほど騎士団の方から呼び出しがありましたよ! すぐに出頭するようにと言付っております……」


マーリンは青い顔をして伝言を伝える。


「僕一人かい? アレクは行かなくていいのかな?」


「わ、分かりません。坊ちゃんとしか聞いておりませんで……」


「うーん、やな予感がするからアレクは寮に帰った方がいいのかな? お義父さんへの手紙は明日預かるってことで。」


「そうね。私も嫌な予感がするから大人しく帰るわ。寮まで送ってくれるんでしょうね?」


「もちろんだよ。お手手繋いで歩いて行こう。」


アレクを寮に送り届けた私は騎士団詰所まで歩いて向かう。詰所は行政府の近くなので、寮からも自宅からもほど近い。結局昼ご飯は食べていない。

コーちゃんは鞄ごとアレクに預けてある。


「こんにちは。呼び出しを受けて参上しました。カース・ド・マーティンです。」


「ようこそ起こしくださいました。どうぞこちらへ。実は困ったことになっておりまして……」


取り調べ室のような場所へ案内される。昔も似たようなことがあったな。


「実はですね、被害者の中にアレクサンドル家の方がおりまして……卑劣な手段で不当に契約魔法を結ばされたと言われてまして……」


マジか……本当にそんな恥知らずなことを言ったのか……


「言葉もないですね。魔法尋問されたのですか? あいつらは同じアレクサンドル一門のアレクサンドリーネにナイフを突き付けて人質に取るようなクズですよ? それについては不問ですか?」


「やはりそうですか……彼の家からも圧力がかかってまして……我々も参っております……」


「辺境伯のお膝元なのに圧力がかかるんですか? 大変ですね。私はどうしたらいいですか? 魔法尋問も受けますよ?」


「いや、もう十分です。そもそもアレクサンドリーネ嬢の証言もあります。アナクレイル殿以外には何人か魔法尋問もしておりますので、事情は分かってはおります。今回は身元確認とお考えください。お手数をおかけしました」


そこに乱入者が現れる。ケバく太いおばさんだ。


「アナクレイルちゃんをあんな目に合わせたのはお前ね! どう責任とるの!? 下級貴族の分際で!」


前世で何回も見たタイプだ……

無視だな。勝手に喋ってろ。


「何とか言いなさい! どうしてアナクレイルちゃんが拘束されてるのよ!? あんな怪我まで負わせて! 領都から追い出してやるわ!」


そこにさらに乱入者が現れた。ここはこんなに自由に立ち入りできる場所ではないだろうに。こいつか……


「そこまでにしときな。アンタが口を出すとますます坊ちゃんの立場が悪くなるぜ。」


「なによアンタ! 私はアレクサンドル夫人よ! アンタみたいな若造が気安く声をかけられると思ってんの!?」


「アンタこそ領都に住んでて俺を知らねーのか? よくそれで貴族でございって顔してんなぁ、あ?」


「よう、ダミアン。」


辺境伯の盆暗三男、ダミアンだ。何しに来たんだ?


「ダミアン? 辺境伯家の放蕩息子? それがどうしたのよ! 私は名門アレクサンドル家なのよ! 片田舎の辺境伯家ごときがどうしようって言うのよ!」


「あーあ、おばさんよー。言っちまったな。片田舎? ごとき? つまりアレクサンドル家は辺境伯家上等か? あ? やるんだな? こっちぁいつでもやってやんぞ? お?」


どこのチンピラだよ。さすが盆暗息子。


「な、何よ! 誰もそんなこと言ってないじゃない! それよりこのガキよ! アナクレイルちゃんに怪我をさせておいて! 分家の小娘ごときに入れあげてるらしいじゃない!」


「おばさんさー、文句があるなら口じゃなくて手を動かしたら?」


ムカついたから私に指一本でも触れてみろ! 空の彼方まで吹っ飛ばしてやる。


「おばっ!? 言ったわね! 叩き潰してやるわ! 首を洗って待ってなさい!」


「待てやおばさんよぅ! 辺境伯家に喧嘩売っといて即逃げソクトンか? やるのか、やらねーのか? はっきりしろや! おぉ?」


「うるさいうるさい! 私はアレクサンドル夫人よ! 成り上がりの辺境伯家ごときが! 本家に言いつけてやるわ!」


おやおや、私そっちのけでアレクサンドル家対辺境伯家の戦争か? いくら名門アレクサンドル家でも広大な辺境フランティアを治める辺境伯家にここでは勝てまいに。


「者共! 辺境伯家に対して不穏な発言があった! 辺境伯家に連なる者として看過できぬ! 捕縛せよ!」


いきなりまともなことを言い出すダミアン。それに従いおばさんを拘束する騎士団。わめくおばさんに縄をかける騎士団。チャーシューおばさんの出来上がりだ。見るに耐えない……


悪い予感はこれだったのか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る