第320話

私が十歳になってから数日。

十月も終わろうとしている。


卒業まで後四ヶ月。みんなそれぞれの進路を目指して思い思いの努力をしているようだ。

特にアレクは卒業後、領都に行くため私とは離れることになる。前世ならば中々の遠距離恋愛となるが、私達には関係ない。毎週末とはいかないが月にニ、三回は私が行く予定だ。ほぼ毎日顔を合わせていた環境からすれば少ないが、遠距離恋愛と言うほど遠くはない。


スパラッシュさん達に誕生日のお礼を言いに行ったところ、嬉しい情報を聞いてしまった。金貨十枚の賞金ではなく、私の誕生日だから来てくれたらしい。アステロイドさんは母上の信者だから除外しよう。それでも嬉しいことこの上ない。


「スパラッシュさん! この前は来てくれてありがとうございました!」


「いやいや、あっしでもお役に立てたんなら本望でさぁ。」


「手の内まで教えてくれて、あれは今後気をつけろってことだよね。」


「坊ちゃんが本気で魔法を使ったんならあっしの攻撃なんざ通りゃしませんや。でも世の中にはアレを目ぇつぶったまま弾くバケモンもいやすからね。」


やはり私が寝た後に先生達に挑戦したのかな?


「酔いが回った剣鬼が余興を見せてくれたんでさぁ。目隠しをして好きに攻撃してこいってんで。」


あれだけの一流冒険者を相手に目隠し!? しかも酔った勢いで余興?


「ゴレライアスが接近戦、エロイーズが中距離戦を仕掛ける中、あっしとアステロイドが外から援護したんでさぁ。それをまぁそこら辺に落ちてた木刀で往なすわ弾くわ避けるわ。しまいにゃゴレライアスはミスリルハルバードを取り出す、エロイーズは龍尾鞭りゅうびべんを振り回す、アステロイドはミスリルの流星錘りゅうせいすいを使い出すって寸法でさぁ。あっしなんざぁついつい最後の切り札を使ってしまいやしたぜ。」


「……すごいね……よく道場が壊れなかったね……」


「いくつか外れた攻撃はあったんですが、その度にマーティンの旦那や先生が受け止めていやしたぜ。なんで道場はほぼ無傷でさぁ。汚れはしやしたが。で、そんな猛攻を食らったらさすがの剣鬼も余裕が消えてきたんでさぁ。ちょこちょこ反撃をしてきやしてね。結局一人倒れ二人倒れ、すぐに四人とも撃沈でさぁ。あんなバケモンと同い年だなんて嫌になりやすぜ。こちとらもうすぐ引退だってのに。」


すごい……あの四人を相手に酔って目隠しかつ木刀で圧勝……

スパラッシュさんも先生って呼ぶんだな。

いや、それよりフェルナンド先生って勇者より強いんじゃないのか?


それより聞き捨てならない一言が……


「スパラッシュさん……引退するの?」


「おっと、口が滑ってしまいやしたぜ。今すぐってわけじゃねーんですがね。たぶんこの三月ぐらいでさぁ。たまたま坊ちゃんの卒業と同じぐらいでさぁね。」


「そうなんだ……寂しくなるね……引退して何をするの?」


「まあ故郷に帰って羊でも飼いやすぜ。畑をやるのもいいでさぁね。うちは子供もとっくに大きくなってやすから。まあカカアと二人、気ままにやるとしますぜ。」


スパラッシュさんのように引退まで生き抜いて平和な余生を送ることも一流の条件だ。


「ちょくちょく遊びに行くからね!」


「へい! 絶対ですぜ? 絶対来てくだせぇよ?」


出会いがあれば別れがある……

当たり前だけど複雑だ。


お礼を言いに来ただけなのに、すごいことをたくさん聞いてしまったな。スパラッシュさんとフェルナンド先生が同い年だったなんて……

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