第311話
それから数日後、ギルドや城門などに張り紙がしてあった。
『十月十日十時、無尽流クタナツ道場開設。入門料、月謝銀貨一枚。剣鬼登場!? 場所はこちら。』
地図を見ると、クタナツの北西部、二区だった。日時は明後日のデメテの日。何をやるのか楽しみだ。セルジュ君とスティード君を誘って行ってみよう。本当にフェルナンド先生が来るのだろうか。
そして当日、私達三人は地図の場所を訪ねてみた。 広い庭に小さい道場、さらに小さい家。その道場の入口前にアッカーマン先生が座っており、その背後にはフェルナンド先生も!
入門希望者はざっと七十人ぐらいかな。これは多いのか? 道場には入りきれないだろうな。冒険者や平民が大半、貴族は少数かな。
「おいお〜いボウズよぉ〜 剣鬼に憧れるのは分かるがよぉ〜 お前らにここはまだ早いぜぇ?」
「そうそうさっさと帰った方がいいぜ」
「怪我せんうちにとっとと帰りな」
私はすでに入門が確定しているから帰っても構わないんだけどな。
「ご忠告ありがとうございます。でも僕達もお兄さん達みたいに強くなりたいので頑張ります!」
こんな奴らが強いわけないがな。
「ほほ〜ぅ 分かってるじゃねーか」
「入門したら面倒みてやるぜ」
「怪我だけはするなよ〜」
おっ、意外と親切な所もあるな。
希望者が増えてきた。そろそろ十時だ。
そこに奥様が。
「入門希望者はこちらに並んでくださーい。入門料と今月分の月謝として銀貨二枚をお支払いいただきますよぅ。」
テストじゃないのか? まさかの全員合格?
最終的には百人近くが集まったようだ。明らかに道場に入りきれないが……
おっ、アッカーマン先生が立ち上がった。
「お主ら。よく来たのう。ワシがコペン・アッカーマン、後ろのが弟子のフェルナンドじゃ。こいつはとっくにワシより強いくせにもっと教えろとしつこいんじゃ。さてこの場にいる全員がワシのクタナツでの最初の弟子となる。先に言っておくが、ワシの稽古は意外と温い。辞めたくなったらいつ辞めても構わんからの。」
全員が騒つく。本当に温いとは思えないが。
「では早速稽古を始めるとしよう。まずは準備運動からじゃ。無尽流の定番、狼ごっこじゃ。」
またまた騒めきが大きくなる。
「マジかよー」
「ガキじゃねーんだぞ」
「まあ適当に流そうぜ」
「お前達! 私が狼だ! 追いついたらこの杖で叩くからな! 逃げても防御してもいい! 残り十人になるまで続ける! では開始!」
フェルナンド先生が狼だ! やばい!
「スティード君! セルジュ君! すぐ逃げて!」
私は二人を無視し、とにかく遠くへ離れる。
先生の付近ではすでに何人もぶっ飛ばされている。どこを殴られたんだ?
ちなみに本日の私は上下ともシンプルな麻の服。動きやすさのみを考えた平民と区別のつかない服装だ。いくら私でも剣術道場にウエストコートはない。
だから先生に殴られたら大変だ。しっかり逃げよう。
庭は広いが百人もいたらそこまで余裕はない、キツキツだ。私より大きい人間が多いのだから、こいつらの影で生き残る!
やがて人数は半減。だいぶ密度が薄くなってきた。フェルナンド先生に狙われたら助からない。少しでも気配を消して……静かに逃げる。スティード君もセルジュ君も見当たらない……
叩かれた人間は半ば必然的に壁際まで吹っ飛ばされており、庭を逃げる邪魔にはならない。
さらに半減。残り二十人と少し。
そろそろ隠れられなくなってきた。先生にもとっくにバレてる。現在残っている人間は全員私より腕が立つはずだ。どうしよう……
あっ、セルジュ君が残ってる! スティード君はいないのか……
「さて、ここからルール追加だ。私に一撃入れたらその時点で勝ち抜けだ。逃げるも戦うも好きにするといい。」
それを聞いて何人かが一斉に先生を取り囲み、躊躇なく攻め立てる……が、あっさりと吹っ飛ばされた。残り十七人。
私はその隙に少しでも遠くへ逃げている。そして現在道場建物の入口付近に座っているアッカーマン先生の近くにいる。
「アッカーマン先生、狼ごっこは楽しいですね。フェルナンド先生も心なしか楽しそうじゃないですか?」
「ふぉっふぉっふぉっ。そうかそうか。それより呑気に話しててよいのかえ? 怖い狼さんが来てしまうぞ?」
まだ大丈夫……のはずだ。ここへ来たのはアッカーマン先生の背後に隠れるため。何食わぬ顔で座り込む。小さい体は子供の武器だからな。
残り十四人! 続々と脱落している。ここもいつまで安全だか……
残り十二人! フェルナンド先生がこちらに近付いてきた! 残った者が庭の両サイドに半々に分かれている。どちらかは生き残れそうだ……
その時、私はふいに飛ばされてフェルナンド先生の前に倒れ込んだ。
「狼は一匹だけとは限らんぞ? 怖い親狼だっておるからのう。」
アッカーマン先生に投げられてしまったのか……背中が痛い。そのままフェルナンド先生に叩かれて壁際まで飛ばされてしまった。かなり痛い、しかし怪我はしていない。これはもしや懐かしの『癒しの杖』?
「それまで! 残った十名は道場に入るがよい。そうでない者はクタナツの城壁外周を走って二周してもらおうかのう。」
惜しかったな。まあいいや、走ってこよう。あの二人はどこかな?
「先着五名は中で稽古をつけてやるからの。ほれ行け!」
かくして七十余名が走り出した。
倒れたまま動かない者、帰ったものは除く。
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