第312話

城壁の外を走り出して四十分ぐらいが経っただろうか。

現在私の順位はおそらく二十位ぐらい。二周目に差し掛かるところだ。歩いて城門に戻ろうとしている者もいる。『剣術を習いに来たんだ、走りに来たんじゃない!』って言いたそうだ。


北西の角を曲がったところで妙な奴らがいた。

「よぉ〜ボウズ、このまま帰るかオネンネするかどっちがいいよ?」

「大人しく帰った方がいいぜー」

「剣術の稽古は過酷だからよぉー」


朝の三人組は比較的優しそうだったのに、この三人組はまるっきりチンピラだ。何でこんな奴らが無尽流に入ろうとしてんだ?

私が帰っても意味ないだろうに。

せっかくだから実験してみよう。


『重圧』

『麻痺』

『微毒』


重圧を使った奴は車に轢かれた蛙のように地面にへばりついている。

麻痺を使った奴は毒キノコを食べて痺れたようにプルプル震えている。

微毒を使った奴はその場にうずくまりゲーゲー吐いている。

簡単な割に効果の高い魔法だということが分かった。首輪を付けていても簡単に使えるのだから。


さて、残り一周もない。頑張ろう。前に何人いるんだろうか。この三人は他にもやらかしていそうだしな。




南の城門を通りかかるまでに二人抜かした。南の城門から中に入る者もいた。ショートカットかそれとも諦めて帰るのか。残り半周、結構疲れてきたけど私は諦めない!


そこに……

「カース君! やっと追いついたよ!」


「おおスティード君! いないから先に行ったのかと思ったよ。セルジュ君は?」


「もう少し後かな。途中で寝てる人もいたよね。城壁の外で居眠りだなんて呑気だよね。」


うーん、なぜか耳が痛いぞ。スティード君もブーメランでは?


「あはは、眠たいのかもね。さあ残り半周、負けないよ?」


こうして私とスティード君の一騎打ちが始まった。残りはおよそ五キロルもない。速い者なら十分とかからない。私は全力で走っても二十分以上かかるだろう。しかし短距離ならスティード君に負けてもこの距離なら負けん!


結局私が道場に帰り着いたのは十三番目、スティード君は十五番目だった。先着の五名はすでに道場に入ったらしい。どんな稽古をしているんだ!?


それから三十分、およそ四十名が庭に集まった。セルジュ君は二十数番目だった。

脱落者が多いな。


「ふぉっふぉっふぉっ。だいぶ減ったのぅ。さて次じゃが、ワシがこの球を投げるから避けるだけじゃ。当たった者は城壁の外を一周してもらうぞ。」


次も難しそうだな。そんなことを考えていると……


「ふざけんな! 俺は剣を習いに来てんだ! 走りに来てんじゃねぇ!」

「そうだそうだ! 剣を教えろ!」

「そもそもこんなジジイが本当に強えーのかよ?」

「剣鬼がいるから調子に乗ってんじゃねーの?」

「俺らでやっちまおうぜ! そしたらこの道場は俺らのもんだぜ!」

「おお! こんなジジイやっちまおうぜ!」


走り過ぎておかしくなったのか? 嫌なら帰ればいいのに……


「なんじゃお前ら、そっちの稽古がしたいのか? 仕方ないのう。せっかく温い稽古から始めてやったのに。ほれ、構わんぞ。何人でもかかって来い。」


まあこの際だ。こっそり私も混ざってしまおう。


「僕は混ざるよ。スティード君も行くかい?」


「えっ? いいの? 失礼じゃない?」


「失礼じゃないよ。アッカーマン先生はあんなのが大好きみたいなんだよね。でもまともに行っても勝ち目がないから後ろからこっそり行こう。」


予想通り、率先してアッカーマン先生に挑んだ愚か者達は次々と打ち倒されている。大半は見てるだけのようだ。それが普通だよな。

先生が最後の一人の面を打ったタイミングで背後から虎徹を投げつける! スティード君は先生に近付きつつある。

私は全力で先生に突進している。足狙いのタックルだ。

先生は何食わぬ顔で虎徹をスティード君に向けて受け流した。スティード君も自分の木剣でそれを叩き落とす。それはダメだ。

虎徹は地面に落ちたが木剣もポッキリ折れた。先生のように受け流さないとそうなってしまうんだ。

その間に先生の足は目前、いけるか!?


突然の衝撃、目の前に星が飛ぶ……

そして私は倒れこんだ……顔が痛い……


「カース君!」


「これこれ、人の心配をしてる場合ではないぞ?」


スティード君もどこかを打たれて倒れ込んでいる。やっぱりだめか……私も懲りないな。


「さて、これで全員終わったかの? カースも思い切りはいいがの。もう少し警戒せんかい。顔をあんなに低くしたら簡単に蹴られてしまうぞ?」


そうか、私は顔に膝をくらったのか……鼻に当たらなかっただけマシ、いや手加減してもらったのか。そうだよな、素人タックルだもんな……甘かった。私も愚か者の仲間だったのか。


こうしてこの日はひたすら走り続ける一日だった。さすが無尽流。

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