第274話

私が弁当を食べ終わろうとする頃、動きがあった。スパラッシュさんはとっくに食べ終わっている。早飯早何芸の内だな。


「土が動いておりやすね……」


「ワームでも出てくるのかな?」


少し眠い。早く出て来い。



土の間から顔を見せたのは蛇だった。

エビルパイソンなどは凶悪な面構えをしているのに、この蛇は円らな瞳をしており愛らしい。


「おっ、こいつぁ珍しい。フォーチュンスネイクですぜ。」


「え? 何それ?」


「会えば幸運をもたらすと言われてまさぁ。逆に傷付けようとするとこっぴどい目にあうとか。」


「じゃあ僕らは幸運なんだね。あいつは何が好物かな?」


「そこら辺は蛇と同じで肉らしいですぜ。」


なるほど。折角だから何か餌をあげてみよう。まずはトビクラーの肉だ。鉄ボードに乗せて目の前に置いてやる。


ピュイピュイとかわいい声を出している。蛇って声を出せるのか?

体長は二メイル程度、太さは直径三センチ程度だろうか。たちまちトビクラーの肉を食べ尽くし、舌をチロチロと動かしてこっちを見ている。かわいい。


魔物は皆殺しだと思っていたが、こんな魔物もいるのか。外見で判断してはいけないが、かわいいものは仕方ない。もっとあげよう。トビクラーの肉は残り少ないのに。


今度は少し魔力を込めてみた。味に変化があるかは知らないが。


おっ、先ほどよりガッついて食べたように見える。大丈夫かな? 自分の体積よりたくさん食べているようだが。


では最後だ。シーオークをあげよう。勇気を出して近付いてみる。そして直接目の前に置いてやる。近くで見るとやはりかわいい。前世で蛇など爬虫類を飼う人間の気が知れなかったが、今なら分かる。こいつはかわいい。


たらふく食べて満足なのか、舌先と尻尾を躍らせてピュイピュイ言ってる。ウインクもしているようだ。蛇に目蓋ってあったっけ?


「さて、場所を変えようか。こいつを巻き込んだらいけないからね。」


「そうでさぁね。では北に向かいやしょう。」


高度を上げて北に向かおうとすると、あいつがいじらしく追ってくる。野良犬に餌をやったら付いてくるようなものか。くっ、かわいい……


「クタナツの中で蛇なんて飼ったらだめだよね?」


「ペットを飼うのは自由でやすが、基本的に魔物はだめでさぁ。まぁ珍しい魔物を内緒で飼う好事家は後を絶ちやせんぜ。意外とバレないもんでさぁ。もっともこいつぁ魔物ってより……」


「何とか許可を取れないものかな……」


「まぁ金で解決でさぁね。素直に代官府に届けを出して、魔物用の首輪を付けるんでさぁ。ざっと金貨百枚は要りやすぜ?」


「よし! それなら解決できそう! それと金貨百枚で思い出した。スパラッシュさんこれ。」


私は魔力庫から金貨の袋を取り出す。


「坊ちゃん、こいつは?」


「この前約束してたご祝儀。渡すのを忘れてたよ。遅くなってごめんね。」


「こいつぁかっちけねぇ。ありがたく頂きやす。しかし坊ちゃん、次からはこんなにも要りやせんぜ。」


中身は金貨五十枚。多かったかな。




さて、蛇ちゃんだ。

再び高度を下げてみる。来てくれるかな?


来た。何て人懐っこいんだ。

私の体にグルグルと巻き付いてくる。絞め殺されないよな? 鱗がスベスベで気持ちいい。

私のウエストコートとトラウザーズが特にお気に入りのようだ。猫にマタタビのようにウニャウニャ言ってる。蛇ってこんなに声を出せるものか、知らなかった。


「ごめん、スパラッシュさん。予定変更、もう帰ろう! 帰って許可を貰おう。」


「ようがす。善は急げって言いやすからね。」


クタナツ付近まで戻った私は大事なことに気付いてしまった。

しまった……どうしよう……



母上は……蛇が嫌いなんだ……

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