第264話
何時間経ったのだろうか。もしかしたら十分しか経ってないかも知れない。
とっくに真っ暗になっているため時間の経過が分からない。季節と星の位置からだいたいの時刻を求める方法は習っていない。習っていたとしても難しすぎるだろう。
アレクサンドリーネはカースに膝枕をしたまま辺りを警戒していた。スティード達の救援は望めない。日没後、城門の通行が許されるのはあくまで帰りのみ。再び出ることが許されるはずもない。
あの二人はきっと私達の帰りを心配しながら待っているはずだ。絶対帰ってみせる。
足音が聞こえる。複数だ。石畳からではない、土の上だ。
ゴブリン……のアンデッド……
なぜ今日はこんなにもアンデッドばかり……
『水球』
水壁越しに三匹のゴブリンゾンビの頭部に水球をぶつける。暗くてもアレクサンドリーネの狙いは正確だ。ただ問題は頭部を水球で覆っても意味がないのだ。生命活動を停止しているアンデッドなので窒息も何もない。頭を砕かねば。
そのうち三匹とも水壁まで寄って来て、そのまま水壁に囚われた。一難去ったが解決していない。
アレクサンドリーネは水壁を低くしゾンビ共の頭を出させる。そこをカースの木刀で一撃、二撃、三撃。確実に頭を潰した。
しかしまだ水壁を解除するわけにはいかない。他にも来るかも知れないし、解除してゾンビの臭いに他の魔物が寄って来るかも知れないからだ。
水壁に囚われた気色悪いゾンビを見ながら再びカースの目覚めを待つのだった。
もしこれが昼なら相当に吐き気を催す光景だったことだろう。
ある程度時間が経ったので、アレクサンドリーネは再びカースに水を飲ませようとした。先程は慌てていて気にしなかったが、これは……
急に恥ずかしくなってしまい、口に含んだ水を自分で飲んでしまった。
仕方なく水袋を直接カースの口に当てて、そこから飲ませる。
直後、激しく咳き込むカース。慌てて何かしようとするも何をすればいいか分からない。
しかし、カースは目覚めた。
「ごほっ、おはよ。」
いつものカースだ。アレクサンドリーネは思わず寝ているカースに覆い被さるように抱きついた。
「カース!」
「アレクのおかげで助かったよ。」
「カース!」
「みんなは?」
「先に帰ってもらったわ。きっと無事よ。私だけカースを待ってたの。遅かったじゃない! バカ!」
「雑魚に苦戦してしまったんだ。ごめんよ。」
「うん……歩ける? 私達も帰るわよ。」
「うん、帰ろう。」
「クタナツっていいわよね。私、遠くに城壁が見えた時、嬉しくて泣きそうになったわ。」
「頼もしいよね。」
二人は手に手を取り歩き始めた。
「いい夢を見たよ。忘れてしまったけど。すごくいい夢だったんだ。」
「よかったわね。私も今夜はよく眠れそうよ。」
「うん、これで軟弱なんて言わせないよ。」
「そうね。もうすぐ……城壁ってこんなに大きかったのね。」
「領都の城壁も大きかったけど、クタナツの城壁の方が偉大に見えるね。」
そこには校長がいた。
城門前にはエロー校長が雄大に立って二人を出迎えていたのだ。
「よくやりました! 君達を襲った苦難は全て見ていました。よくぞ! よくぞ乗り越えてくれました! 君達は間違いなく名誉あるクタナツの民です!」
大きな腕で二人を抱き締めながらそう言った。
「でも……校長先生、私……腕輪を外してしまって……」
「もちろん評定としてはマイナスです。しかしそれを差し引いても貴女の行動は素晴らしいものでした。私は君達の行動全てを誇りに思います。」
「じゃあサンドラちゃんの評定はどうなりますか?」
「ムリスさんの評定はそこまで悪くならないでしょう。説明はまた今度、今は一刻も早く休みたいのではないですか?」
確かにカースはとっくに限界なのだ。さっきから一言も喋っていない。
そこにそれぞれの家から迎えの馬車が来ていた。マーティン家からはマリーが、アレクサンドル家からは護衛のファロスが。
そして二人は別々の馬車に乗り別々の家に帰っていった。
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