第262話

私とスティード君はだいたい三十分ごとに交代しながら歩いている。


再出発から一時間と少し、現在はスティード君が引いている。また遠くから何かが近寄って来ている。そんなに早くない。このまま追いつかれずに逃げ切れるだろうか……



無理か、少しずつ差が縮まっている。くそ……


「スティード君! そのまま行って! アレクとセルジュ君はスティード君を守って!」


雑魚五匹ぐらい私一人で十分だ。三人とも素直に私の指示を聞いてくれたようだ。


魔物は……コボルトか……楽勝だ。いや、こいつらもアンデッドか!?

くそ、面倒くさい!


近付かれる前に石を投げる。くっそ、当たらん! ゆっくり逃げながらどんどん投げる。やっと当たった……が意味ない……

頭を砕くような一撃でないと……


木刀でやるしかない……今宵の虎徹は血に飢えてるぜ……

口に出して言いたかったのに喋るのが怠い……


近い奴から頭を潰す。当たれば一撃だ。外れたって構うことはない、足さえ止めなければ食いつかれない。二匹やった! 残り三匹!


ちょっとしか動いてないのにもうキツい……



しまった!


これはファンタジーあるあるだ!

ここは俺に任せて先に行けって言って敵をくい止めて死ぬアレだ!

冗談じゃない! あの四人が助かるんなら少しぐらい死んでもいいけど、心残りがあり過ぎて死にたくない……


こうなったら足を止めてやってやる。私の装備は高級品だ。ゴボルトごときの牙が通るものか!


三匹のうち真ん中の頭を叩き潰す。その隙に他の二匹が私の右前腕と左上腕に噛みついてきた。右前腕をコボルトごと押し込み地面に叩きつけて頭を潰す。

それでも最後のコボルトは左上腕に噛みついたまま離れない。今度は私が下になってしまった。くそ、小さいくせに力強い……

こいつはこいつで噛みつく以外のことは考えられないようで状況は膠着した。




そんな状態がもう三分は続いただろうか。ようやく潰したゴボルトから右腕を外すことができた。腕ごと押し込んだためシャツに牙が食い込んで離れなかったのだ。


殴る。素手で頭を殴る。私が下になっているので大した威力はないが他にできることがない。ひたすら殴る。顎の付け根にヒット、奴の口が緩んだ。

よしっ、左腕を振り回して完全に外す。その勢いで左肘を奴に打ち込む! やっと離れやがった。すかさず虎徹を拾い頭を叩き割った。


やっと全滅させた……

疲れすぎて動けない……

少し休憩しよう。まさかアンデッドに噛まれたぐらいで私までゾンビになるなんてことはあるまい。左上腕が結構痛い。シャツの下には籠手を付けているので右腕は無傷だ。


寝てしまったらまずい。心を落ち着けて呼吸を整える。まだ大丈夫だ。夜の魔境で魔力が切れた時に比べたら何てことない。


ん? 魔力?




しまった……腕輪も首輪も外せばよかった……

いや、外さずとも魔法を使えばよかった。

いくら魔法禁止とは言え死ぬぐらいなら使うに決まってる……


くそ、まあいい。

ここまで使わなかったんだ。こうなったら最後まで使わずにゴールしてやる。

まずはみんなに追いつかないとな。


私は虎徹を杖代わりにして歩き始めた。

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