第257話
リアカーに適当に重い物を乗せて引っ張ってみる。やはり何とかなりそうだ。
通常、魔力庫以外で水を持ち運ぶ方法は革袋か樽だ。
暑い魔境を進むのだから水が腐らないか心配だが、一日程度ならおそらく大丈夫だろう。
また食料だが、バランタウンで食べるであろう弁当はいつも通りの物でいいとは思う。しかし帰り道用をどうするか……
ギルドで干し肉でも買っておくか。缶詰があればいいのに。
何とか勝算が見えてきた。評定はどうでもいいけど途中で脱落するのは嫌だからな。
みんなはどうするのか聞いてみたら、マジックバッグを使うそうだ。正式名称はマジックバッグなのか。
そしてマジックバッグを買えない者は荷物多めで頑張るらしい。
そしてついに当日の早朝。
校長先生が挨拶する。
「みなさんおはようございます。今日もいい天気になりそうです。さて、今年度から鍛錬遠足はより遠くに行くことになりました。なぜ今年から? と思われていることかと思います。理由はみなさんが軟弱だからです。軟弱と言われるのが嫌ならクタナツの民としての気概を見せてください。期待しております。」
なるほど。そんな事情があったのか。
確かに一組は一年の頃はまともだったのに段々と酷くなって人数も減っている。軟弱と言われても仕方ないか。二組はどうなんだろう?
全員に魔封じの腕輪が配られる。装着する前にリアカーを出しておこう。一部で失笑が聞こえたぞ? まあ無理もない。いつもの服装にリアカー、農民か貴族かどっちに見えるんだ?
そこにアレクが。
「話には聞いてたけど、改めて見ると変ね。違和感がすごいわよ。重くないの?」
「意外と重くないよ。もし背負ったらかなり重いけど。」
かなり余分に水を用意してある。果たしてこの選択は正しいのだろうか。普段なら水なんて出し放題だから気にもしてなかったから心配なのだ。最後に念入りに消音をかけておく。
さあ腕輪を装着。これより魔法は使用禁止だ。使おうと思えば使えるけどね。
先頭は校長先生。
いつものローブ姿ではなく軽装か。軽そうな革鎧、籠手に脛当てと冒険者スタイルだ。軽装なのに歴戦感がすごい。背中には短い槍が見える。
最後尾は体育のデル先生だ。校長先生と似たようなスタイルだが騎士、いやむしろ軍人に見える。
ペースは自由。バランタウンまでは石畳が敷かれているので迷うことはない。校長先生より先に行ってもいいし、最後尾になった者はデル先生がペースを合わせてくれる。間には冒険者が十人ぐらい規則的に配置されているし他の先生方もいる。
私達はいつも通り五人並んで歩いている。
道が広いので余裕だ。石畳はガタガタして歩きにくいものかと思ったら、全然そんなことはなかった。滑らないように細かい溝はいくつかあるが、それ以外に段差はない。見事な技術力だと思う。おかげでリアカーを引くのが予想よりかなり楽だ。用意しておいてよかった。
出発から一時間、日も登り温度も上がってきている。しかし私にはあまり関係ない。
服が間に合ってよかった。サウザンドミヅチのウエストコートとトラウザーズのおかげで涼しい。シャツには汗排出機能も付いているので快適だ。顔周辺やブーツの中が暑いのは我慢するしかない。
ブーツやベルト、そして帽子もサウザンドミヅチにすればよかったのだが、まだ注文も出してない。注文先が違うため忘れていたのだ。帰ってからの楽しみにしておこう。皮はまだまだあるのだ。
出発から二時間、午前八時半ぐらいだろうか。全員の間隔が広がっているようだ。私達五人は校長先生に合わせて歩いているが、他は徐々に縦長の列になっているようだ。
ふと気になって聞いてみる。
「校長先生、この速度を維持してたらバランタウンには何時ごろ着きそうですか?」
「だいたいお昼、十二時前後でしょうね。ちなみに私はずっとこの速度で休憩も取りません。みなさんはその辺りを注意するといいですよ。」
そりゃそうだ。二時間歩きっぱなしだ。休憩して水も飲まなきゃな。
こうして私達は少し休憩することにした。
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