第256話

さあ鍛錬遠足に向けて母上に相談だ。


「魔力庫みたいな鞄ってないかな?」


ファンタジー御用達、アイテムボックス的な鞄と言うかマジックバッグと言うか、そんなアレだ。あるのか?


「あるわよ。私は持ってないけど。あれって高い割に役に立たないのよね。」


「あるの!? 役に立たないってどんな感じ?」


「魔力庫と違って持ってるだけで魔力を消費するの。出し入れには消費しないけど。よほど高性能の品でないと容量が少なかったり、重さがそのままだったり、腐りやすかったりするの。使い所が限られるのよね。」


「なるほど。安いやつでいくらぐらい?」


「金貨十五枚ぐらいね。容量も鞄の体積の四倍程度、重さも半分ぐらいになるかどうかってとこね。」


「うーん、結構するんだね。クタナツで売ってる?」


「あるわよ。欲しかったら一番街の道具屋に行ってごらんなさい。」


迷うな。金額的には買えるのだが、二度と使わないであろうアイテムだからな。

要は荷物を何とかできればいいんだ。台車でもリアカーでも……


そうだよな、台車があればいい。きっと水を大量に持っていくことになる。ならば台車を作ってしまえばいいんだ。

手で押すのはダルいからロープとかで引っ張ればいい。そうなると台車そのものの重さや、車輪の滑らかさが重要だろう。どうしたらいいんだ?


「母上ー、馬車ってどこかで作ってもらえるものかなー?」


「それはクタナツにはないわね。領都に行かないと。」


外注作戦はだめか。馬車を作る技術があるなら箱に車輪を付けただけの簡単な台車などすぐに作ってくれると思ったが。クタナツにないのなら注文を出しても間に合わないかな。


やはり魔力庫バッグを探してみるしかないか。普通の鞄と比較して比べてみるか。道具屋に行ってみよう。





ここかな。早速入ってみよう。


「こんにちは。」


「いらっしゃい」


「鞄を探してまして、普通の容量大きめの鞄と魔力庫のような鞄を比べてから決めようと思ってます。」


「ふむふむ。じゃあ普通の鞄からいこうか。どれぐらい容量が欲しい? 後どうやって持つのがいい?」


「容量はあれぐらいで、背中に背負うタイプがいいです。」


二リットルペットボトルが五、六本ぐらい入りそうな鞄を指差してそう言った。


すると店主はリュックサックのような鞄を出してくれた。イメージはこれだ。


「これに重い物を入れてみてもらえませんか? バランタウンまで歩いて往復できるか確かめてみないと。」


すると何やら重そうな金属の塊を入れてくれた。見た感じ八キロムぐらいだろうか。


やはり重い。が、無理な重さではない。他の値段次第ではこれに決めよう。


「分かりました。次に魔力庫タイプをお願いします。いくつか見せてもらっていいですか?」


すると今度は奥に引っ込み、三つほど持って来てくれた。


「一つ目は一番安いやつだよ。金貨十枚だね。こいつは見ての通り肩に斜めにかけるタイプで、水五キロム分ぐらいしか入らない。でも中身の重さは影響しないよ。それに魔力消費はかなり少ないよ」


「二つ目は金貨十五枚。背中に背負うタイプだよ。水が二十キロム分ほど入るが、重さは半分にしかならない。少しだけ腐りにくいよ。魔力消費は一つ目の二倍ぐらいかな」


「三つ目は金貨三十枚。持ち方は自由に変えられる。水が五十キロム分ほど入り、重さは二割になる。まあまあ腐りにくいかな。魔力消費は一つ目の五倍ぐらいだね」


なるほど。これは母上が役に立たないと言うはずだ。台車があるのなら併用してもよかったが……


「馬車の小さいやつなんてないですよね? 人間でも引けるようなやつ。」


「あるよ。農作業用の四輪車って言うんだけどね。ガタガタ道を行くには少し大変だよ」


そこにあったのは銀ボードの七割ぐらいの広さのリアカーだった。ただし二輪のリアカーではなく四輪なのだが。

少し引いて歩いてみたが、問題なさそうだ。車輪が金属なのでガタガタしてうるさそうだ。『消音』を試してみたところ効果あり。当日は朝にしっかり消音をかけておけば夜まで保つと見た。


途中に坂道や大きい段差などがないことは分かっている。ならば買ってしまうか……


「おいくらですか?」


「銀貨八枚だよ」


その場で代金を払い収納した。遠足にリアカーは大袈裟だが、明らかにあれは遠足ではない。行軍だ。ならば万全の備えをするしかない。途中で重くなったら捨ててもいいし。

一応、最初のリュックサックも買っておこう。どうせリアカーに乗せるんだし。

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