第258話

私達以外に校長先生の後に続く者はいる。彼らは休憩せずそのまま歩き続けるようだ。グランツ君もその一人か。


さて私達だが、みんな結構汗をかいている。暑いもんな。

各自が水を飲み、体感で十分ぐらい休憩しただろうか。何人かは私達を抜いて行った。


「さあ、少し急いで校長先生に追いつくよ。」


思うにあれが、理想的なペースと見た。ならばペースを合わせて進む方が合理的なはずだ。


少し急いだところ、二十分足らずで追いつくことができた。ここからまた校長先生のペースで進もう。

現在このペースで歩いているのは私達を含めて十三人。一組から九人、二組から四人だ。

それ以外は見えないぐらい後方だ。

現在の五年生が四十人ぐらいなので、三十人近くが着いて来れてないことになる。




「暑くなってきたわね。」


アレクが呟く。

現在午前九時は過ぎただろう。まだまだ暑くなる。きついな。


「足が痛くなってきたよ。」


セルジュ君もきつそうだ。

普段こんな長距離は歩かないもんな。クタナツ城壁一周でも二時間かからないのだから。


「冒険者ってすごいのね。」


サンドラちゃんも呟く。


いつだったかベレンガリアさんがオディ兄をおぶってクタナツまで帰って来たことがあったな。とんでもないことだ。身体強化を使ったとしてもすごい。私には到底不可能だ。


「騎士もすごいよね。あの鎧って重いんじゃないかな。」


スティード君もそう思うか。一体何キロムあるんだろう。魔石で軽量化とかしてるのかな?


「そろそろ次の休憩にしようか。水を飲まないのも危ないけど、飲み過ぎにも注意してね。まあたっぷり持って来てるなら問題ないとは思うけど。」


見た目からは分からないがみんなマジックバッグなんだから残量は気にしても仕方ないのか? 魔力を常に消費するってことだったが大丈夫なのだろうか。

魔法は使えなくても魔力は消費する、よく分からない。車でブレーキかけ続けてガソリンも減り続けるようなものか? やはり分からない。


私は水を飲み、干し肉もかじる。暑さで食欲はないけど塩分も補給しなければ。


みんなからは『この暑いのにお腹空いてるの?』と不思議に思ってそうな視線を受けた。




さて、十時半ぐらいだろうか。


「今から校長先生に追いついてそのまま進めば昼には到着できるはずだから、もう少し頑張ろうか。」


そう言えば魔物が出ないな。楽でいいけど。


ここからは五人とも無言になった。話す余裕がないのだ。校長先生はペースを変えず悠々と歩いているようだが、私達は校長先生の背中だけを睨みひたすら歩いている。

現在八人。いつの間にか五人ほど遅れている。


さらに暑くなった。

私の場合、顔から流れ落ちてシャツに吸われた汗は快適に蒸発してくれるし、胴体や下半身は温度調節機能が付いているので涼しい。

しかしブーツの中はだめだ。汗がすごいことになっている。きっとみんなもそうなのだろう。

またみんなはいつの間に帽子をかぶっている。用意がいいな。私は帽子を持っていないので濡らした麻のタオルを頭に巻いておいた。無いよりマシだ、涼しい。


こうして五人とも根性を振り絞り、見事校長先生に続いてバランタウンに到着することができた。現在六人。私達とグランツ君だけだ。


「午後一時に私はここを出発します。それに合わせるのも休憩するのも自由です。思い思いに過ごしてくださいね。」


何てことだ。これでまだ半分……

もう全ての力を使い果たしたかのようだ。

まずは弁当だ。食べて少しでも休んで……

大丈夫だ。まだ頑張れる。いつかのように魔境で魔力が空になった絶望感に比べたら何てことない。仲間と一緒だしね。

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