第246話
アレクと姉上は楽しそうに服を見ている。あれが似合うだの、これが王都で流行っているだの。話に入れないこともないが黙っておいた方が無難と見た。
短いスカートを見てはキャアキャア言ってる。膝を出すだの出さないだの。
姉上の服装は魔法学校の制服だろうか、スカートは長い。
「カース、アンタはどう思う? このミニスカート、兄上は好きかしら?」
「知らないよー。好きなんじゃないの? 僕は好きだからアレクに穿いてもらうけど。」
「アンタいい趣味してるわね。どこの大貴族オヤジよ。」
ん? 前にも言われなかったか?
「いやーアレクにはきっと似合うよ。姉上はむしろ王都に行ってから兄上に見立ててもらえばいいんだよ。」
「それもそうね。そして私も兄上に似合う服を選んで……でも本当にカッコいいのは服を着た兄上じゃなくて……服なんかなくても兄上は王国一で……ふへへへへ……」
姉上は変わらないなぁ。だからアレクと気が合うのか? いや、アレクはここまでひどくない、はず。
「アレクは何か気になる物ある?」
「言えるわけないでしょ! こ、この破廉恥カース!」
さすがにわけわからん。質問をしたら破廉恥と言われた。下着のことでも考えていたのか? ならば店を出て表で待っていよう。入口付近で待つのも恥ずかしいから少し離れておくか。
暇になったので首輪をつけて錬魔循環でもしてよう。当初に比べたらだいぶスムーズになっている。
待つこと二十分、ようやく店から出て来た。私も移動しよう。
その私より先んじて二人に近付く者が……
「ようエリザベス。いい所で会ったな。」
「可愛い子を連れてるな。紹介してくれよ。」
あれは騎士学校の制服かな?
あっ、姉上が嫌そうな顔してる。
「今日はアンタらなんかに構ってる暇ないの。さっさと行きなさいよ。」
「ツレないな。いつもそう言うじゃないか。たまにはお茶ぐらい行こうぜ?」
「こっちの可愛い子も行こうぜ? 奢るからよ。」
姉上に声をかけるのは構わんが、アレクに声をかけるのはムカつくな。
アレクが可愛いのは当然だが、九歳をナンパするってどうなんだ?
「アンタら! この子はアルフォンスさんの妹さんよ? 何考えてんの?」
アレクのお兄さんか。アルフォンスさんと言うのか。
「へぇ、じゃあアレクサンドル家のご令嬢かい。領都に住んでたとは初耳だな。」
「ますます一緒にお茶したくなったな。」
へー、アレクサンドル家の威光にビビらないのか。それとも取らぬ狸に目が眩んでるのか。そろそろ私も出番かな。
「ちょっとカース! にやにやしてないで何とかしなさい。アレックスちゃんのピンチよ!」
「お姉さん、私は平気ですわ。それよりカースに任せてはダメですよ。このお二人が可哀想なことになりますわ。」
おっ、アレクが上級貴族モードに入ってる。
ちなみに私はにやにやなんかしていない。
「何だぁこのガキは?」
「俺らが可哀想とはどういう意味だ?」
「二人ともそのままお行きなさい。今なら何もなかったで済む話。それとも私をベイルリパースにでも連れて行ってくれるのですか?」
私の出番はないようだ。さすがアレク。
「おい、お前いくら持ってる?」
「金貨一枚と銀貨六枚、お前は?」
何やらヒソヒソ話しているようだ。
「急用を思い出した。またなエリザベス。」
「じゃあ次会った時はベイルリパースに付き合ってもらうぜ?」
そそくさと去っていった。
出番がなくて何よりだ。
あれこそが母上の言う、口先で丸め込むってやつなのか。
「お見事だったね。カッコよかったよ。」
「カースに任せると大変なことになりそうだものね。」
「ははは、どうだろう。で、姉上。あいつらは何者? 騎士学校の生徒にしては弱そうだったけど。」
「アンタ兄上を基準にしてるでしょ。アイツらあれでも上位一桁よ。あの距離で二人同時だったら私じゃあ勝てないわ。」
「それはアレクを守ろうとしたからでしょ? そうじゃなければ楽勝と見たけど? 姉上の速攻魔法ならさ。」
「ふん、分かってるじゃない。まあ確かに休みの昼間に街を彷徨いてる騎士学生なんて大したことないわ。兄上はいつも剣術の稽古か勉強してたのよ。私と会う時も一緒に魔法の稽古ばかり。そりゃ魔法の稽古なら私しかいないって言われたら当然だけど……たまには私だって兄上とゆっくり連れ込み宿でしっぽりと……」
弟の前で何言ってんだ。
アレクの顔が真っ赤になってるぞ。さてはアレク、連れ込み宿が何か知ってるな?
そろそろ夕食の時間かな。お腹が空いてきた。
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