第215話

私は現在アジャーニ邸の正門前にいる。そして門番に挨拶をするところだ。


「こんばんは。もうすぐ日暮れなのに申し訳ありません。騎士アラン・ド・マーティンが三男カースと申します。カリツォーニ様の同級生でご学友を自認しております。本日カリツォーニ様はご在宅でしょうか?」


「お待ちください。」


さてどう出るかな?

最近はあんまり金貸しやってないから恨みも買ってないはずだ。となると犯人はこいつしかいないよな。せいぜい揺さぶりをかけてやろう。


執事らしき人が出て来た。


「坊っちゃまがお会いになるそうです。どうぞこちらへ。」


やはり玄関も広いな。でもアレクサンドル家ほどではないか。


「こちらです。」


おそらく奴の自室だろう。


「よく来れたな。怖い目にあったから助けて欲しいのか? 私は寛大だからな。許しを請うなら助けてやらんこともないぞ?」


嘘だろ? もう自白したも同然じゃないか。


「いや、殺し屋に襲われたから何か知らないかと思って。顔は広そうだし、情報通っぽいし何でも知ってそうだから。」


「ほう、それは大変だったな。しかし私にも分からないことぐらいある。」


にやにやと答える。ビビりまくって助けを求めに来たってマジで思ってるのか?


「そっか、それは残念。まあそりゃ知らないよな。だってあの殺し屋、最低ランクらしいんだよ。公爵家に連なるお人がそんなの使うわけないよな。」


「ふん、当然だ。私が知るはずないだろう。」


「まあ騎士団も動いているし、所詮殺し屋なんて自分が助かるためなら何でも話すような奴だし、依頼人まですぐたどり着くって話だしな。知らないならそれでいい。邪魔したな。」


奴の家を出た私は、隠形を使い空から見張る。すぐにでも動きがあると見た。


案の定、三十分もしないうちに一台の馬車が正門から出てきた。

魔力探査をしてみると、乗っているのは一人。まさか本人ではあるまい。

陽動ってこともあるし、一応裏門もチェック。おっ、二人出てきた。こっちが本命と見た。二人はクタナツの南西、三区に到着した。上から見てるんだから警戒しても無駄だ。

さて、こんな平民街に暗殺ギルドがあるのか?


行き先は突き止めたことだし、まずは騎士団に報告しておこう。


昼間の騎士さんがまだ居たので話が早かった。私は再び三区に戻り監視を開始。


とてもここが暗殺ギルドとは思えない。どうせ仲介屋とかだろう。そうなるとあの二人が帰った後、仲介役が動き出すに違いない。できればあの二人も騎士団で捕まえてくれないものか。




一方、馬車にて出かけたのはカリツォーニ本人だった。行き先は代官府、代官執務室。

大胆にも代官への面会を求めてやって来たのだ。


「レオ兄様、お久しぶりです。急にごめんなさい。」


「よく来たなカルツ。遅かったではないか。」


「レオ兄様はお代官様だからきっとお忙しいと思って……」


「ふふ、構わんさ。それで今日は慌ててどうした?」


「実は学校で友達になったカース君って子が殺し屋に襲われたらしいんだ。それで殺し屋は捕まったって聞いたけど、許せないから早く死刑にして欲しくて……」


「そうかそうか。お前は優しいな。任せておけ。依頼人もすぐ捕まるさ。心配しないで待っておくといい。」


「依頼人……すぐ捕まるかな……」


「ああ大丈夫だ。殺し屋なんて口が軽い奴等ばかりだからな。それにクタナツ騎士団は優秀だ。友達にも安心するよう伝えてあげるといい。」


「……そうだね。さすがレオ兄様……急に来てごめんね。今日はありがとう。」


「ああ、また来いよ。今度は夕食時にな。」


こうしてカリツォーニは自ら墓穴を掘ったのだ。


「フック。あいつの父親はヤコビ二派に与している。冬の終わりにクタナツに来たことも関係しているだろう。ただの子供に過ぎないカリツォーニに殺し屋を使わせて何をさせたいのか分からんが、この話は騎士団にもキッチリと伝えておいてくれ。」


「御意」

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