第216話

カースの通報を受けた騎士団は三区に向かっておりアジャーニ家の者と思しき二人を拘束していた。

アジャーニ家の名を出し散々暴れたが、確認の手間が省けたとばかりに騎士団に鎮圧された。


カースは仲介役らしき者を空から追跡していた。この男かなり警戒心が強いらしく時々立ち止まっては後ろを確認したり、いきなり右に曲がったり引き返したり尾行泣かせだった。

しかしさすがに上空にまで警戒はしてなかったようでカースが気付かれることはなかった。


そのまま街の端まで着いたと思ったら城壁の石を取り外し始めた。クタナツの城壁の厚さはおよそ五メイル、穴を開けようにも一晩中かけても済みはしないだろう。

驚くことに石を二つ三つ外しただけで中は空洞になっている。

そいつは外した石を魔力庫に収納し空洞に入っていった。そして内側から城壁を元に戻している。長い時間をかけて穴を掘っていたのだろうか。

そして外側も同様の手法で城壁をすり抜けたのだった。上空から見られているとも知らずに。


そのまま西に進む。二十分ぐらい歩くと今度は南、田園地帯を目指しているようだ。


そして十分は歩いただろうか。ぽつんと掘建て小屋があった。農具小屋や納屋といった雰囲気だ。


中に入って五分で出てきた。

つまり打ち合わせなどをしたわけではなく、手紙か何かを置いただけ、または何かのやり取りをしただけなのだろう。


そして来た道と違うルートで帰ろうとしているようだ。ここでカースは悩んだ。こいつがクタナツ城壁内に戻る頃には騎士団がこいつの家に殺到しているだろう。

それを遠目にでも見られればきっと逃げられる。ならば……


こいつは来た時と同様に城壁の石を外して中に入ろうとしている。

そしてこれまた同じ手順で城壁内に入り込んだ。そして外した石を戻そうとする前にカースの『落雷』が命中した。

かなり威力を抑えたので死ぬことはないだろう。そうして気絶した男を騎士団詰所に運ぶのだった。関所破りの現行犯として。


カースは田園の小屋について報告していない。

どうせこの男は殺し屋との関連を疑われて洗いざらい自白するのだ。小屋で何をしたかを隠せるはずもない。

いつ誰が小屋に来るかも吐かされることだろう。後は騎士団が上手くやるに違いない。




やったぜ! 揺さぶり作戦大成功。

まさかここまで上手く回るとは。

せっかく殺し屋組織は頑張って証拠を消していただろうに。ふふ、可哀想に。

それもこれも金をケチって最低レベルの殺し屋で妥協したせいだろうか。それとも短絡的に殺しを選んだ愚かさ故か。

イジメと見せかけて殺しに来る思い切りの良さは評価できるのだろうか。

結局馬車は陽動だったのか?

それにしてもプロが来なくてよかったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る