第154話
秋の大会の時期がやってきた。
我が一組からは
学問、サンドラちゃん
魔法、エルネスト君
剣術、スティード君が代表に選ばれた。
そしてこの三人がそのまま学校代表となった。
もちろん私はエントリーしていない。
アレックスちゃんが不満そうにしていた。
今年の大会はホユミチカで行われる。
そのため出発は開催日の十日前だ。一週間ぐらいで着くらしい。
エルネスト君もスティード君も今年こそはと燃えているようだった。
エルネスト君がいない間はイボンヌちゃんが一人でお昼ご飯を食べているのが気になった。
一応声をかけるだけはかけてみたけど、一人で食べたいそうなので気にしなくていいだろう。
もしかしてバルテレモンちゃんの派閥も同じように声をかけていたので、同類と思われてしまったのか?
その間私達は三人組だ。
最近私はさっさと帰ってしまうし、セルジュ君も気にせず帰るタイプなのでアレックスちゃんが少し寂しそうにも見える。
たまには休みに三人で遊ぼうかと提案したらセルジュ君はにこやかに
「僕は絶対嫌だよ。二人で遊びなよ。」
と言う始末だった。
そりゃそうだ。
私もアレックスちゃんちにお泊りはもうこりごりなので、普通にクタナツ一周デートをすることにした。
前回とは違うルートの予定だ。
そして当日、母上にデートのことがバレてしまったので、アレックスちゃんを拾って南の城門までは馬車で行くことになってしまった。
そして南の城門、ここから出るのは初めてだ。
「さあアレックスちゃん。お手手繋いでルンルン歩こうか。」
「う、うん……//」
この子は喋らないと本当に可愛いな。
お嬢様っぷりが凄い。
今日は一周する前に少し南に足を伸ばしてみる。グリードグラス草原と違って安全な草原を何の警戒もせず歩くのは気分がいい。
実際には範囲警戒を張っているのだが。
まだ制御が甘いため先ほどから結構虫の反応を拾ってしまっており、その都度張り直している。修行にはちょうどいいのだが……
「カース、さっきから魔力が鬱陶しいんだけど何やってるの?」
「あはは、ごめんごめん。アレックスちゃんの安全のために範囲警戒の魔法を使ってるんだけど中々上手くいかなくてね。」
「私のため!? もうカースのバカ!」
そう言って嬉しそうな顔を隠そうと無理に平静を装う。やばいな、マジでかわいいぞ。
しかしサンドラちゃんの言う通りだ。
あまりにも騙されやす過ぎて心配になる……
私のせいなのか?
「だからごめんね。もう少し頑張ってみるから。」
「無理しなくていいから。カ、カースが一緒な、ならそれでいいから。」
ぐいぐい来るな。十メイル後ろにファロスさんもいるんだが。前回はすぐ背後にいたのだが、私がファロスさんとばかり話すので距離を取らされたのだろう。
「クタナツって北と南で天国と地獄ぐらい違うよね。何で南側はこんなに安全に牧畜やらできてるのかな?」
「それこそ開拓の成果じゃない。グリードグラス草原との間は敢えて荒野のままにしてあるのよ。今回グリードグラス草原西半分の開拓が目標だけど、あそこを何とかしないと荒野の開拓もできないものね。」
「へぇー百年も進まなかったのは何か理由があるの?」
「簡単よ。貴族の足の引っ張り合いよ。ここに来ている上級貴族って領地を得ようと必死なのよ。誰かが成功しそうになると足を引っ張る。代官の権力は強いけど、普通開拓まで手が回らないわよね。」
それで百年も足踏みかい!
「それで今回は何でまた総力を挙げてやってんの?」
「噂では魔女の怒りに触れた冒険者がグリードグラス草原ごと焼き尽くされたとか。そのせいで草原に草が生えない広大なエリアができてるらしいわ。これってかなりチャンスなのよね。あそこの草って魔物じゃない? それが生えないってかなり異常よ? イザベル様がやったの?」
「いや、違うと思うよ。魔女の怒りって何だろうね。」
私の八つ当たりみたいなものか?
人間を巻き込まなくてよかった。
「まあそんな訳で騎士団から冒険者まで総力を挙げて砦やら防壁やら石畳やら築いているようよ。」
「足の引っ張り合いは起こらないの?」
「たぶん無理ね。今回は代官自ら動いているわ。お代官様本人の能力も評判だけど、アジャーニ公爵家当主の孫ってことも大きいわね。ここにいる上級貴族は大抵王都に本家があるの。つまり王都で絶大な権力を誇るアジャーニ家には逆らえないってことね。」
「じゃあ今回はうまくいくんだろうね。うまくいったらどうなるんだろう?」
「そうね。新しい街ができるでしょうね。かなりの活気が出るんじゃないかしら。人口も相当増えるわよ。今だって五千人はいるわよね。倍ぐらいになったりするのかしら。」
なるほど。
面白いことになりそうだ。
ここはしれっと草原のどこかを私が領有することも不可能ではない。
面積は少しでよい。早い者勝ちだろうからな。
「それは楽しみだね。どんな街になるんだろう。その街ができたらクタナツは少し安全になるよね。」
「そうよね。大襲撃の対象もその新しい街になりそうよね。」
そんな話をしつつ和やかに散歩は続く。
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