平凡な俺と天下無敵な魔王様
里見 シズル
プロローグ
「この二つの式が連立方程式で解けるからして、この問題の答えはx=28 y=−3となるわけで…」
数学の教師の小林の言っている事が、全て左耳から入り右耳から糸のようにすり抜けて行く。俺の周りの人間は、全員黒板に写し出された文字をノートにコピーしている。それを見て、俺も一応ノートを取っている雰囲気を醸し出しつつ、落書きをしていた。そのノートに描いたものは、物凄く汚く一貫性のないものだった。アニメのキャラや、聖剣や魔剣、魔法陣に魔眼など、このノートを他人に見られれば間違いなく厨二病だと疑われるだろう。
最後にノート1ページにわたる大きな魔法陣を書き終えた頃に、3時限目が終わるチャイムがなった。そして俺は、すぐにそのノートを閉じて机の引き出しの中に入れた。
「起立…気おつけ…礼」
という日直の合図とともに、生徒達が一斉に教師に頭を下げた。そして俺は財布を手に取って食堂へ移動した。
俺はハンバーグ定食を頼み、一番近くにあった席に一人で腰を下ろした。毎月、月の初めにお小遣いを貰っているのだが、今日は九月二日という事で、少し奮発してみた。
久々に食べる食堂のハンバーグ定食は、舌がとろけそうな程美味しかった。
「ソースの一滴まで舐め尽くしてしまいそうだ…」
と独り言を言っていた時に、急に俺の名前を呼ぶ声がした。そして、振り向くと同じクラスの
「
と言ってきた。俺が少し困惑していると、その腕を引っ張って「いいから来い」と言って無理やり連れて行かれた。
俺たちの教室、二年二組の前まで言ってみると、複数の人が集まっていた。その全員が恐怖に怯えるような顔をして俺をみていた。俺は、クラスメイトに対して何の迷惑もかけていないはずだった。何をしたのかと過去を振り返えったが全く記憶にない。
拓耶は俺を連れて扉を開き、人混みを掻き分けながら俺の机の方へ歩いて行った。そこには、俺の机が粉々になり教科書やノートが散らばっていた。
最初は、誰かのいじめだと思ったのだが、瞬時にその過ちに気が付いた。なぜなら、そこには俺の魔法陣の絵がられたノートの上に、ツノを生やした人間とはまた少し違う雰囲気を醸し出しているガタイの大きな青年がいたからだ。歳は、俺より少し上のようだった。
俺は、色々と質問したかったのだが、彼から感じるオーラのようなものに怖じけずいてしまった。
彼は、俺の事をまじまじと見てから口を開いた。
「俺は異世界の魔王である。貴様が俺をこの世界に呼び出したのか?」
「…!?」
何を言っているのか全く分からなかった。こいつが異世界から来た魔王??? よくアニメでは有り得るシチュエーションだが、ここは現実世界だぞ!? しかも、俺がこいつを呼び出した? 何を言っているんだこの人は?
少し回答に困った。腕を組み、困惑した表情をしていると、自称魔王が俺のノートを取り出し、魔法陣の書かれたページを開いて言った
「これは貴様が書いたものか?」
ここで、「はい」と言うと間違いなくクラスの連中にキモがられそうだったが、正直に言わないとこの人に殺されそうだったので、俺は首を縦に振った。
「そうか、貴様が俺をこの魔法陣で呼び出したようだな。」
何!? この魔法陣がこいつを呼び出しただと? そんなバカな!? これは、俺が授業中に物凄く雑に描いたやつだそ!?
今、自分の周りに起きている現象を深く考えている暇もなく、自称魔王は言った
「貴様、名をなんと言う?」
「‥‥七央斗です‥」
「ハッハッハー。そうかそうか、七央斗か!いかにも強そうな名前だな!貴様、俺と一緒に異世界へ来い!」
は? 何言ってるんだこの人? 俺が異世界に行くだと? 有りえない。俺はめんどくさいことが一番嫌いなのだ。異世界に行くなんていかにもめんどくさそうなイベントは絶対に嫌なので断ることにした
「申し訳ありませんg…」
が俺の言葉は、自称魔王にさえぎられた。
「言っておくがお前に拒否権はない!断っても強制的に連れて行く!」
有り得ない…ていうか最初から選択肢が無いのなら質問するなよ!逃げようと考えたが、逃げたら殺されそうだったのでやめた。そして、俺は大人しく自称魔王の言うことに従うことにした。
俺は、全てを諦め、
「わかりました。僕は、貴方と共に異世界へ行くことにします!」
と吹っ切ったように言った。
そして、自称魔王は笑いながら俺に右手を差し伸べて言った
「良い返事だ!七央斗よ、俺は貴様を気に入ったぞ!この手に捕まれ!」
俺は、言われるがままにその手を握った。クラスメイトたちは、開いた口を塞ぐ事が出来ず、物凄く驚いていた。その光景は、俺に自己満足感を味あわせてくれた。そして次の瞬間、視界が真っ黒になったと思ったら、さっきまで居た教室とは、全く違う場所に居た。
***
平凡な俺と天下無敵な魔王様 里見 シズル @Taurus_Silver
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