第14話 アンダーウェア

「ーーーーという夢を見たのね」


「いや、夢オチじゃねぇよ」



 我が愛すべき愚妹、ひととの勉強会から一夜明けた、翌日の午前9時。


 僕は、そしてこちらも愛すべき幼馴染、ゆきみや千歳ちとせは、その彼女の部屋にいた。


 8月も半ばを過ぎたというのに、未だ肌を焼くような暑さは健在。


 そんなバッドコンディションの外界はつゆ知らず、クーラーをガンガンに効かせ、快適な室内で僕らが何をしているかと言えば、例のごとく例によって、いつも通りの勉強会である。


 勉強会とは言ったが、厳密に言えば今やっているのは、何というか……報告、のようなものだ。

 僕の成績向上に日々腐心する千歳にとって、2人揃って勉強会を開いている時はもちろんのこと、彼女の監視の目が届いていない時ーーーーつまりは、僕が勉強漬けの1日を終え、千歳と別れた後の自宅での学習状況をチェックするというのは、まあ何だか自分のプライベートを詳らかにされている感じがして、一言二言物申したい気持ちがないわけではないけれど、仕方ないと言えば仕方ない、当然と言えば当然のことだ。


 誰だって、自分が丹精込めて手塩にかけている奴が、自分が見ていないところでは恩知らずにも怠け、「熱心な指導ご苦労さん」っと鼻をほじっているようなら、ぶっ殺したくなるに決まっている。

 例えるならアレだ。

 バレンタインデーの日に、意中の相手に真心込めて作ったチョコレートを、「後で食べるね」と言いつつ、家に帰ったら食べずに捨てられるのと同じ状況だ。違うね。


 何その男、クズ過ぎる。

 後々その蛮行が発覚して、女子たち全員に自身がチョコレートにされるホラー展開まで見えたわ、流石に。


 というわけで(?)、僕は昨日のこと、具体的には、千歳と玄関前で別れた後の、一華とのあれやこれやを、夜の勉強会のシーンだけに絞って語ったわけなのだけれど、それはちょうど僕が一通り語り終えた直後のことだった。


 千歳はきょとんとした顔で、


「……え? いや、だから、成績優秀な妹と、親がいない夜に、自分の部屋で、2人きりで一緒に勉強したーーーーっていう夢を見たのでしょう?」


「だから夢オチじゃねぇっての!」


「それで起きた時、夢精していたのでしょう?」


「してねぇよ!無精だよ!」


 というか、仮に全部夢だったとして、実妹と一緒に勉強しただけで性的に興奮する奴とか、やば過ぎる。


 シスコンどころではない、ただの変態だ。

 犯罪者予備軍だ。


「私としては、シスコンも十分変態の所業だと思うけれど」


「それについてはノーコメントで」


 何か其処彼処から色々な禍々しいものが噴き出してくる気配がビンビンに感じられるので、僕はそこで無理矢理シスコン話を打ち切った。


 そして、覆い被せるように、隠蔽するかのように、新しい話題を持ってくる。


「それにしても、『其処彼処』ってワードの、ぱっと見の仏教用語感って異常じゃね?」


「そこはかとなくどうでもいいわね」


 話題を逸らすにしても、もうちょっと何か良いのがあったでしょう、と、千歳は呆れ顔で嘆息した。


 それから続けて、


「誤魔化さないで、早くあなたの夢精の話に戻るわよ」


「ありもしないエロ話に戻ろうとするな。……というか、前から思ってたんだが」


「? 何?」


 首を傾げる千歳に、僕はごほんと咳払いし、


「お前も、あと、一華もそうだけれど」


「一華って誰?」


「まだ続けるのかそれ。いい加減にしないと、あいつ泣くぞ」


 きちんと明記しておくが、正真正銘、いち一華は実存する僕の妹だ。

 あのくだらないお喋りも、しょうもない団欒も、他愛ない勉強会も、全て夢ではなく、現実である。


「で、僕が言いたいのはだな、何でお前らって、そうやってすぐエロネタに走ろうとするのかってことなんだよ」


 それが個性なんだと言われればそれまでの話だけれど(そんな個性なんていらないが)、幾ら何でも、毎度毎度会話が卑猥なネタに逸れがちな気がしないでもない。

 まるで、性を覚えたての中学生あたりが、嬉々として、事あるごとにそういう話題を持ってこようとしているかのようだ。


 流石にちょっと僕のレベルでは対処しきれない部分もあるし、どうか自重してくださいという願いも込めた諫言だったのだが、


「……ああ、それは仕方のないことなのよ」


 と、千歳は沈痛な面持ちで言った。


 仕方ないーーーーーー仕方ない?


 その言に、その痛みを堪えるかのような彼女の表情に、違和感を覚える。


「仕方ないって、どういうことだ?」


 何やら不穏な雰囲気を察して、重々しく訊ねると、


「ずっと黙っていたことなのだけれどーーーー実は、担当編集から、エロ発言を10箇所以上盛り込んでくれって指示されているの」


「お前に担当編集なんていねぇよ」


 半ば予期していたことではあるけれど、案の定馬鹿な冗談を言い出した千歳に、僕は冷静な突っ込みを入れた。


「どうも売り上げが不振らしくて、これからさらに増やせと言われているわ」


「打ち切り寸前の漫画家みたいな言い方はやめろ」


 所謂テコ入れってやつである。

 ……いやまあ、テコ入れというか、こいつは初期の頃から大分際どい台詞を吐いていた気がするけれど。


「あとはそうね、下着の描写を入れてくれとも言っていたわね」


「それじゃあみたいじゃなくて、本格的に漫画家じゃねぇか!」


 え、何、これからはそういう路線なの?

 お前、この期に及んで漫画家目指すの?

『完璧超人の幼馴染が漫画家を目指すようです』?


 そこはかとなく漂う駄作感が半端じゃない。


 辟易しつつ全力で突っ込んだ僕とは対照的に、千歳は飄々としたものだった。


「いいえ、描写と言っても、別に漫画上のことだけだとは限らないわよ?」


「は?」


「鈍いわね。下着描写は3チャットってことよ」


「3カットみたいに言うな!」


 確かに漫画っぽさはなくなり、僕たちっぽさは出るようになったが、その他にもっと大事なものをなくしている気がする。


 すると千歳はくふふといやらしい笑みを浮かべ、


「というわけで、ここからは下着をテーマに話をしましょうか」


 全然『というわけ』でもないし、トークの飛躍も甚だしいけれど、ともかく千歳は、身の毛もよだってぞくぞくするというか、俗俗とするそんな話題を提示してきたのだった。




*****




 突然のことではあるが、ここで1つ、幼き日の僕の、幼さゆえの恥ずかしい勘違いを暴露しよう。


 僕がしていた勘違いというのは、まあこの文脈で言えば当たり前、下着に関するものだ。


 下着。

 アンダーウェア。


 下着と聞けば、まあもちろんのこと、服の下に着用するもの、という意味で下着と呼ぶわけだけれど、幼少期の僕は、そんなことすら知らなかった。


 知らなくて、知らない故に、勘を違えて思いを違えてミスアンダースタンドしていた。


 間違って下に立っていた。


「下が勃っていた?」


「急に下ネタをぶっこむな。今、僕の独白パートだから」


 1つ、ここで咳払い。


 というか、服の下に着るものって、下着も広義で言えば衣類に含まれるのだから、厳密に言うと服の下に着る服、なんてごっつ紛らわしい言い方をするのが正解のようにも思う。


 いささか話が逸れたけれど、軌道を修正すると、幼き日の僕は、下着というのは、服の下に着るものではなく、下に履くものーーーーそれも、この場合の下というのは服の下という意味ではなく、下半身ーーーーつまりはパンツのみのことだと思い込んでいたわけである。


 いやはや、いつのことだったかは定かではないが、大学のオープンキャンパスを美術展覧会だと思っていたりと、僕もなかなか勘違いの多い奴である。


 だがしかし、当然のことながら、人は一生勘違いをしたままじゃあいられない。在りし日、千歳によってオープンキャンパス云々の勘違いから僕が解き放たれたように、人は他者と出逢うことで、他者に教わることで、正されることで、自らの間違いを是正することができる。


 ……何だか良いことを言っているように聞こえるが、ようよう突き詰めていけば、ただの知らず足らずの阿呆の教育とも言える。


 兎にも角にも、先の下着関連の幼稚な勘違いも同様に、一之瀬家で日常生活を送る中で正されていったわけなのだけれど、当初は驚愕に面食らったものだ。


 何せ、今までの『下着というのはパンツのみを指す』という僕の中での常識が、上半身に身につけた服の下に着る、あのただの白い布も下着と呼ばれることで、ものの見事に覆ったというのだから。


 気づいているとは思うが、字面だけを追えば、下に着るもので下着であり、どう間違っても下(半身)に履くものなんて発想は生まれないはずなのだが……何だろう、当時の僕は、自分の身につけるものは全て『履くもの』として捉えていたのだろうか。


 だとしたら、幾ら何でも馬鹿すぎる。

 今までの僕は、あくまでも勉強ができないという意味での馬鹿と評されてきたわけなのだけれど、ここまでくると、もっと根本的な馬鹿なのではないかと、自分のことながら卑下せざるを得ない。


「なるほど、ついにここにきて、あなたの脳に腫瘍が見つかるのね」


「そんなヘビーな展開はねぇよ」


 僕の赤裸々な勘違い話を聞き遂げた千歳は、真面目くさった表情をして、ありもしない壮絶な未来予想図を立てた。


 それから彼女は嗜虐的に微笑むと、


「もっとも、ヘビーな展開はなくとも、ベビーな展開はあったようだけれど。主にあなたの阿呆さに」


「………」


 それを言われるとぐうの音も出ない。

 時刻はお昼前だけれど、ぐうの音も出ない。


 なので、別の音を出すことにする。


「でもな千歳。実はこの恥話には続きがあってだな……」


「え、何々? 成長するにつれて、上に着けるブラジャーも女性用の『下着』と呼ぶことに衝撃を受けたって話?」


「皆まで言うな! その通りだけど!」


 ものの見事に話を先読みされ、一言一句違わず暴露された。

 語り部として、こんなに悲しいことはない。


「そういうことはやめてくれよ。僕の立場がなくなるだろ」


「仕方ないじゃない。あなた、考えている物がすぐ顔に出るんだもの」


「物じゃなくて事だろ。物だったら、僕の顔には今ブラジャーが出ていることになるぞ」


「ええ。だからそう言っているのだけれど」


「僕の顔には今ブラジャーが出ているのか!?」


「ええ。その間抜けな顔が、これでもかと乳支えを主張してきているわ」


「乳支えって……何だか日本妖怪みたいだな」


「『妖怪・乳支え』………気持ち悪っ」


「今更素の女子高生的感想を言うなよ。お前が言い出したんだろうが」


 それにしても、乳支えか。

 まあ、ブラジャーの用途から言って正しい別称なのかもしれないけれど、あるいは蔑称なのかもしれないけれど、もっとスマートな言い換えはないのだろうか。


 千歳は思案げに唸り、


「そうね……まあ、あとはランジェリーとかかしら」


「あー、ランジェリーショップってよく聞くしな」


「よく聞くのはおかしいでしょう。それにしてもにしても、かず。あなたの顔にブラジャーが出ている問題がまだ片付いていないわよ」


「いや、そんなの、言わずもがなお前のブラフだろ。ブラだけに」


「確かに顔云々は冗談だけれど、ところがどっこい、今朝から私の下着が1枚見当たらないのよ」


「まじか。それは大変だな」


 どっこいに突っ込みたい気持ちを泣く泣く抑えて、僕は同調した。


「ええ。だから、早く脱いで返してちょうだい」


「今、さらっと僕を犯人扱いしたな」


 しかも、ズボンのポケットに隠しているとかじゃなくて、そのまま着用していると思っているのか。

 木を隠すなら森の中、下着を隠すなら服の中ってか。


「生憎だが、僕は持ってないぞ。僕はブラジャーと白菜はつけたことがない」


「嘘はつけたことがあるのね」


「間違えた!」


 偽らざる本当のところ、僕は全く後ろめたいことはしていないはずなのだけれど、何故だか狼狽えてしまった。

 わけもわからない冷や汗を流す僕に、千歳は訝しげな視線を送り、


「はぁ……ほんと、『Where is my underwear?』って感じだわ」


「英語で駄洒落を言うなよ。本当に洒落てるじゃねぇか」


「まあ、実はそこに畳んである服の下、アンダーウェアにあんだべやってね」


「わけのわからん方言と洒落の畳み掛けで頭が痛いよ、僕は」


 心なし、今朝よりも頭が重くなっている気がする。

 ベビーじゃなくてヘビーになっている。


 そう言いつつ、僕は手近に畳まれて置いてあった千歳の衣服をめくる。

 彼女が言った通り、そこには純白の下着が上下セットで綺麗に畳まれていた。


 洗濯物あるある。

 下着やハンカチといった小物が、大きい衣服の間にいつのまにか挟まったりして、何処を探しても見つからなくなってしまうやつである。


「……というか、千歳ちゃんよ。お前さっき、自分からここにあるって言ってただろ」


 やはり嘘か。ほんと、こいつは僕を困らせる為なら平気で悪どい軽口を言うよな。

 こうやって、冤罪は生まれていくのだ。


「いや、そんなことよりも、あなたが平然と女子高生である私の服を漁り、平気で女子高生である私の下着を見て、事もなげにその色まで描写したことに私は驚いているのだけれど」


「え? そりゃあ、下着があったら色まで描写するだろ、普通」


 下着描写は3カットーーーいや、3チャット、だったか。

 描写と言えるかどうかは微妙なラインだが、もうトークだけで言えば3チャットを軽くオーバーしている。

 漫画だったら削除依頼を出されちまうぜ。


「何よ、純白の下着って。清純さが下着で相殺されているじゃない。アンビバレントじゃない」


「見たまんまを言っただけだ。僕にはこの下着がウェディングドレスに見えたんだ」


「自分の花嫁が下着でヴァージンロードを歩き出したら、花婿も卒倒するでしょうね」


 僕の戯言に千歳は深々と嘆息し、それから思いついたように、


「ということは、何、あなたは白い下着がお好みなの?」


 と、いくら幼馴染という気の置けない間柄とは言え、別にカップルでも何でもない僕に向けて、そんな気恥ずかしい質問をしてきた。


 ここまで振り切った会話を交わしている以上、今更そこを気にするのもおかしい………僕は少し考えた後、


「いや、別に下着にこれといって好みはないけれど……でも、何となくイメージってのはあるよな」


「イメージ?」


 小首を傾げる千歳に、僕は頷いて続ける。


「ああ。ていうか、さっきお前も言ってただろ。わかりやすいのだと、この白い下着は、何となく子供っぽいというか……ごめんなさい、えーっと、あれだ、清らかな印象があるけれど、対照的に黒い下着は何となく妖艶なエロさがある、みたいな」


 漠然とした自分の中のイメージを、途中目つきが鋭くなった千歳に若干怯みながらも語る僕。


 千歳は顎に手を当てて考え込み、


「なるほど………男子で言うところの、柄パンとボクサーパンツの違いみたいなものかしら」


「当たらずとも遠からずって感じだな。お前はどう思う? 絶賛女子高生中であるお前から見て、何で黒い下着ってこうもエロく感じるんだと思う?」


「その質問を恥ずかしげもなく絶賛女子高生中である私にするあなたをクズだと感じているわ」


「おぉん、辛辣だな………あ。あれか、ハートマーク理論と同じか」


「は? ハートマーク?」


「ああ。ハートマークって『♡』よりも、『❤︎』の方が、何処となく蠱惑的というか、エロい印象があるってやつ」


「明らかにあなたの自作の理論であることはともかくとして………なるほど❤︎」


「早速使うな。一瞬で蠱惑的になろうとするな」


 まあ、こいつが白い下着ならぬ純白の下着を着ている時点で、白色が清純っていうイメージは跡形もなく崩れ去るわけなのだが。

 こいつ、言動だけを見聞きすれば、清純どころか性獣だからな。

 あくまで言動だけを見聞きすれば、だけれど。


 となると、こいつの影響をもろに受けている一華は一体どうなるのだろう……と、兄として見過ごせない懸念が出てきたところで、ふと思い出した。


 下着なんてさておき、まだ回収していない話題があることを、思い出した。


「そう言えば千歳。話は変わるけれど、お前、昨日の夜、何処に行ってたんだ?」


 昨日、図書館での勉強会の後、別れる直前で「家族と出掛ける予定があるから」と言っていた千歳だが、具体的にどんな予定なのかは聞いていなかった。


 まあ、プライベートな話だし、別にわざわざ掘り下げなくても良いような話題な気がするけれど、如何せん下着の話が長過ぎた。


 既に手遅れな3チャットはともかく、エロ発言も10箇所以上どころでは済まなくなってきているので、多少強引でも、そしてどうでもいい糸口でも、ここは話題転換を図った方が良い。


 そんな考えのもと、僕は千歳に水を向けた。


 すると千歳は、急な転換にも柔軟に対応し、


「ちょっと病院に行っていたのよ」


 と、澄ました顔で言ったーーーーー病院?


「は? 病院? 何で?」


 首を傾ける僕に、千歳は意地の悪い微笑みを浮かべて、


「実は、脳に腫瘍が見つかったの」


「お前がヘビーな展開になってんじゃねぇか」


「嘘。病院は病院でも、私が行ったのは脳外科じゃなくて産婦人科よ」


「ベビーな展開だった!」


 それはそれで重い話だよ!


「まあ、正直に言うと、ただショッピングに行っていただけなのだけれど」


「ショッピング?」


「ええ。買い物をして夜遅くに帰ってきたら、まだ電気がついたあなたの部屋から、中学3年生女子の喘ぎ声が聞こえてきたから驚いたわ」


「ヘビー級の冗談はやめろ! 僕の部屋でもベビーな展開にはなっていないからな!」


 夜の勉強会とは言っても、健全も健全、ド健全な勉強会だった。

 しかも一華の奴、0時を回る頃には舟を漕いでいたしな。

 おかげさまで、僕が担いで部屋に運ぶ羽目になった。


 とは言え、何とかアダルティな内容から、話を逸らすことには成功しつつある。

 丁度ショッピングなるワードも出てきたし、ここからはトークも健全にいこうではないか。


 と、そこで千歳がハッとした顔になり、


「そうだ。ショッピングついでにあなたに買ってきたものがあるの」


 と言った。


「買ってきたもの? 僕に?」


「ええ。下着なのだけれど」


 秒で話題を戻された。

 僕は頭を抱え、ため息混じりにぼやく。


「何でお前が僕の下着を買ってくるんだよ」


 少し遅めの誕生日プレゼントだろうか。

 訝しみ、ジト目を向ける僕に、千歳は微笑を浮かべた。


「手ブラで帰るのもどうかと思って」


「上手いこと言うな」


 だがしかし、意外も意外、こちらの方は冗談ではなかったらしく、机の上に置いてあった袋の中から、本当に下着は現れた。


 ーーー送られたそれは、白い柄パンだった。


「………何で白パンなんだ?」


 嫌な予感を覚えながらも訊いた僕に、千歳は口元に手を当てて微笑み、


「白色なら、夢精の跡も目立たなくなると思って」


「ありもしないエロ話に戻ろうとするな!」



 そうして話題は流転し、振り出しに戻る。


 その後、勉強会ならぬ報告会もそのままに、昼過ぎまで、男子高校生と女子高生による、中学生の休み時間を彷彿とさせる下着トークは続いたのだった。

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