第89話:素晴らしきかな、人&神生!②
「蚕と同化した経緯からすると、乗り移っている方の本体はおそらく、あの振袖です。どうにか引きはがしてしまえればいいんですが」
「じゃあ、私がおとりをやります。朔子さんも手伝ってくれるらしいので」
「……大丈夫ですか?」
「はい。先生が助けてくれるなら」
「――ええ、もちろん。お任せください」
とても嬉しそうな返事があった瞬間、足元がぐっと盛り上がった。とっさに飛びのいた美羽たちの間を、一瞬で伸びあがった氷の柱が分断する。走って距離を取ろうとしたとき、横合いからひょいっとすくい上げられて背中に乗せられた。
『久しいな、乙女。相変わらず勇ましくも潔いことよ』
「ケルピーさん、外出て大丈夫なんですか!?」
『あ奴の許可が出たのでな。さて小さな女神よ、どこを狙えばよいと思う?』
『うーんと……あ、あれ! なんかばくばく言っててヤな感じ、あっちから壊そうっ』
『相分かった、しかと掴まっておれ!』
朔子が指さした先、繭の天井まで届きそうな巨大な氷めがけて水魔が疾走を始める。調子がいいのか気分がいいのか、以前公園で見た時より格段に速い!
『あっこら、そっちはダメ!! それに手ぇ出したらタダじゃ――』
「――タダじゃ済まさない、と?」
血相を変えて追いすがろうとした霧生院を、蒼く輝く文字の群れが取り囲んだ。そのまま地面に突き立って、羽織っている衣の袖と裾を縫い留めてしまう。誰がやったかは言うまでもない。
「その言葉、そっくりそのままお返しいたしますよ。――彼女の髪一筋でも傷つけてみなさい。『
『…………ッ!』
カリアッハ・ヴェーラは冬の女神であり、季節にかかわるものはすべてその眷属だ。降る雪も凝る氷も、凍てつく寒さですら彼女の前では頭を垂れ、恭順の意を示す。……だのに、たかが魔術師ごときに凄まれてこれほどおそろしいと感じるのは、きっと器が人間のせいだ。それ以外の理由があっていいはずがない。
諸悪の根源が必死に矜持を守ろうとする中、美羽たちの方は目的の氷塊にたどり着いていた。飛んでくる氷の蛾を、竜胆の花のような色をした炎が片っ端から焼き払っていく。
「もしかして、最初に見た鬼火さん?」
『おうとも、魔術師の要請で露払いをしておるのよ。
さあ、存分にやるが良いぞ!!』
「はいっ! 朔子さん、行くよ!!」
『はいはーい、これで思いっきりやっちゃって~!』
しゅばぁッ!!!
渡された薄紅の羽扇を薙ぎ払った瞬間、爽快な音とともに閃光が走った。輝く鎌鼬、としか表現しようのないものが、脈打つ紅いものもろとも氷塊を一刀両断する。横一文字に入った亀裂から、何か光るものがあふれ出てきた。嫌な感じはしないが、一体なんだろうか。
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