第88話:素晴らしきかな、人&神生!①

 

 ――ごわあああああああ!!!


 時さえも凍り付いて動きを止めようかという極寒のさなか、突如凄まじい風鳴りが巻き起こった。

 『なん……っ、ちょっ、うや~~~~っ!?!』

 いきなり目の前で発生した、天井まで届こうかという巨大竜巻に対応できず、もろに巻き込まれた女神様の悲鳴が上がる。袖と裾の長い着物が災いして、風圧で絡まった上にぽーんと弾き飛ばされ、ちょうど真後ろにあった氷塊に激突した。

 事態について行けず呆然とするアルベルトたちの前で、竜巻が徐々に小さくなっていく。どこから運んできたのか、もう時期が過ぎたはずの桜の花びらに守られるようにして、その場に静かに降り立ったのは、

 『はーい到着~~! おにーさん元気ー?』

 「遅くなってすみません! アル先生、お怪我ありませんか!?」

 元気いっぱいに手を振った朔子と、そんな神様を肩に乗せて小走りにやって来た美羽――つい先ほど逢いたいと思ったばかりの相手に、呼びかけられた方がうっかり感極まっても仕方ないというものだ。何かを言う余裕もなく、そのまま思いっきり抱きしめてしまった。された側が一瞬にして見事なまでに真っ赤になったのは言うまでもない。

 「~~~~ちょっ、なっ、せんせっっ」

 「……ああ、すみません、何だかホッとしてしまって。よく頑張りました、美羽さん!」

 「あ、は、はい。ありがとうございます……」

 羞恥心その他もろもろで息を詰まらせながら抗議したところ、割とあっさり放してもらえてホッとする。何だか泣きそうな顔で笑っているアルベルトに、もしかしたら先生も不安だったのかなぁと思いを馳せればあまり腹も立たなかった。よかった、ちゃんと目標達成できて。

 感動の再会劇の背後で、ごとんと重いものが転がる音がした。はっとして振り返ると、よろよろしながら立ち上がった霧生院の姿がある。なぜかあちこちすり傷だらけで、長い髪も派手な振袖ももみくちゃの大惨事だ。おでこが何だか赤いのは、たんこぶでも出来ているのだろうか。

 『――ちょっと!! なんで起きてきてるのよ、天逆毎あまのざこ!! あれだけのことやったらまだ当分眠ったまんまのはずでしょ!?』

 『へへーんだ、あたし悪いことして封印されたわけじゃないもん。しわしわのぱ~、なばあ様といっしょにせんどってー』

 『ぬぁあああんですってええええ!?!』

 「……朔子さん、あまのざこって?」

 『うん、あたしの名前。ホントは天逆毎姫命あめのさこひめのみことっていうそ、おばさまがつけてくれたんよ~』

 「見た目こそお可愛らしいですが、朔子さんは押しも押されもしない立派な天津神あまつかみなんですよ。――さて、あの霧生院さんが正気でないことはお分かりですね?」

 朔子にすっぱり言い返されて歯ぎしりをしている霧生院、まさに悪鬼のごとき形相である。杏珠と口喧嘩をして頭に血が上った時とは、雰囲気というか迫力が全然違う。こくんと小さくうなずくと、アルベルトは口早に解説を続けた。

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