第31話:断章 独白②

 水が重い。既に幾度となく感じたことに、改めて苛立ちを覚える。

 古巣の水はこうではなかった。さらさらと軽く、冷たく澄んで、時には涼やかなせせらぎを奏で、時には深く激しくごうごうと唸りをあげて。――それも、今となっては全て昔のことだ。

 (全てのものに神が住まう、言霊の幸う国、か)

 だから水の中にもその神気がおよび、自分のような魔物の妖気を削ぐのだろう。全くもって忌々しい。そして同時に、羨ましい。

 (……埒もない、今は生き残ることだけ考えよ。何のためにこの極東まで逃げおおせたのか)

 情けない話だが、あの時の助けがなければ十中八九、元居た住処ともども果てていたはずだ。人間たちが己の利益を追い求めた結果、清らかに甘く幸に満ちていたイングローズの水は、見るも無残に濁っていった。それを目の当たりにしながら、ただ永らえる策を練ることしか出来なかった不甲斐なさに、未だもって憤りを禁じ得ない。仮にも主と呼ばれた身が、何というざまか。

 しかし、もう何日も獲物にありつけていない。四肢が日に日に衰えていくのがはっきりとわかる。手遅れになる前に、血肉となるものを――

 気力を奮い立たせて身を起こす。ほの暗い水底で一対、血のように紅い煌めきが走った。

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