第28話:(舞踏という)存在の耐えられない重さ①

 さらさらと心地よい音を立てて、細い竹の穂先が踊る。

 きれいに点てられたのを確かめて、茶筅ちゃせんを置き器を持ち上げる。相手に正面が向くように、畳の決められた位置に静かに置いた。膝行してきた相手がそれを受け取り、作法にのっとって礼をして、器を回し中身をいただいて一言。

 「とても美味しいです。それに、所作も大変美しくて素晴らしい」

 「……ありがとうございます。あの、アル先生も」

 ちゃんとお作法を覚えててすごいです、と、頬を染めた美羽が頭を下げた。

 本日は水曜。週の中日、皆の予定も特になしということで、約束通り午後のお茶会が催されている。

 ただし、場所は和室。普段は茶道の同好会が使うのだが、たまたま活動が休みだったのでお借りして、アルベルトが鴻田にもらった抹茶をみんなでいただくことになったのだった。

 「美羽のうちは元お武家じゃからのう。畳に長く座るのは慣れておるし、茶道も華道も板についておって格好いいな」

 「……つまり、紅小路のところは屋敷も生活もすっかり洋風になってるから、長く正座できないってことか」

 「うむ、枝葉を取っ払って要約すればそうじゃな!」

 「ふふふ、杏珠ったら正直すぎ」

 鴻田の鋭いツッコミに、何故か大威張りで胸を張る杏珠。彼女は最初がんばってくれていたのだが、早々に足がしびれて補助椅子のお世話になっていたりする。全く悪びれない様子がおかしくて、思わず笑ってしまう美羽だ。

 寶利に学ぶ女学生の生い立ちは様々だ。美羽のように実家で茶華道を身につけられた生徒もいれば、身内共々ずっと海外暮らしだったため覚える機会がなかった、というひともいる。それぞれに得意なことがあり、苦手な部分はお互い教え合って学んでいくのを見ていると、とても温かい気持ちになれる。

 ……そう、だれしも得手不得手はある。だからそんなに気にしなくても大丈夫。たぶん。

 「そういや、今日は社交術の初授業だったな。どうだった?」

 ぎくっ。

 いたって気楽に放り投げられた質問に、必死で自分を納得させていた美羽の肩が跳ね上がった。そんな当人を差し置いて、話題がどんどん進んでいく。

 「社交……というと、ダンスの授業ですか。私はまだ参加していませんが」

 「お前が手伝うのは主に上級生だからな。まあ一通りの型を習って、実践はしたりしなかったりだ」

 「爵位持ちの家の子らは、たいてい卒業するまでに鳳鳴館でびゅーするじゃろ。そのための予行練習でもあるから――って、顔色がすごいぞ美羽! ああもう、気にするなと言うたろうにっ」

 「美羽さん!? 真っ青ですよ、どうしました!」

 「だ、大丈夫です、ちょっといろいろあったので……」

 「……すまん、だいたい予想が付いた。察するに立花、魔女先生に捕まったな?」

 「あああああ」

 見事に図星を指した鴻田のことばに、畳の上でうずくまってしまった。

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